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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2013年11月16日

特集 LGBT-映画にみるゲイ アルバート氏の人生(2011年 ゲイ映画)

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監督 ロドリゴ・ガルシア
出演 グレン・クローズ/ジャネット・マクティア/ミア・ワシコウスカ

映画に託された「肯定」 

 アルバート(グレン・クローズ)がヒューバート(ジャネット・マクティア)に告白する身の上はこうだ。「生まれは知りません。私は私生児でした。義母は素性を教えてくれず死にました。母だという人の写真をくれただけです。でもときどきちょっとした言葉の端々で、母は上流階級の女性だということが感じられました。私は修道院で勉強しました。お金は母の実家からでていました。母の死で実家からの援助が途絶え義母といっしょにロンドンのスラム街に移りました。貧しい動物のような暮らしで、品位のない生活に耐えられなかった。義母が死にました」「いくつのとき男として生きようと決心したのだ」「14歳です。ある晩でした。階段の下で五人の男に乱暴され傷つけられ、その場に置き去りにされた。ウェイターを募集していた。わたしは自分がウェイターに向いている容姿だと思っていた。頑張って中古の紳士服を手に入れ、だめだろうと思っていたけれど雇われ10シリングもらいました。それが始まりです」▼それから30年、アルバートはダブリンのホテルにベテランの執事として務めている。アルバートが女だと誰も知らない。ヒューバートだけが知った。それというのが…こういうところがとても笑わせるのだが、部屋が足りずヒューバートはアルバートの個室に泊まることになった。アルバートが飛び起き狂ったように衣服を脱ぎ始めた。目が覚めたヒューバートは思いがけずアルバートの乳房をみる。「あきれたな、女だったのか」アルバートは黙っていてくれ、女だとわかったら追い出される、食べていけない、どうか秘密にしてくれとくどくど頼む。「落ち着けよ。誰にもいいやしない。でもなんでいきなり飛び起きた?」「蚤です」「?」「あなたの蚤が…わたしは掻くと全身真っ赤に腫れ上がる。いままで隠してきたのに、あなたの蚤のためにわかってしまった」ヒューバートは苦笑し「ベッドで寝ろ。おれはどくから」「いいえ、私が床で寝ます。そのかわり絶対だれにも言わないでください」「あわれなやつだな。じゃせめてよく眠れるように」枕と毛布を与える。翌日アルバートは心配で心配で、紅茶やおやつにかこつけて壁塗りをしているヒューバートの回りをうろつく。しまいに「いい加減にしろ。秘密は守るから」ヒューバートは請け合うがアルバートは仕事が手に付かない。二人きりになったとき「約束する」ヒューバートはいきなりジャケットの胸を開いた。そこには豊かな乳房が。アルバートは腰をぬかす。ヒューバートは結婚していた。夫は暴力亭主で「我慢の限界にきた」ヒューバートはある日夫を突き飛ばし、家を出た。「キャサリンと出会った。ふたりとも孤独だった、気があっていっしょに住むことにした。周囲の目がうるさいので結婚した」(結婚!)アルバートにとって目からウロコだった。「家の中では女性の服を着るのですか」ヒューバートは苦笑し「窓から見られたらどうする。この服装のほうが安全だ。別に銀行強盗したわけじゃなし、人を殺したわけじゃない」後日アルバートはヒューバートの家を訪ね、キャサリンを紹介された。二人は支えあい幸福だった。こういう生き方もあった。アルバートは人生に開眼する▼アルバートは毎日得るわずかなチップを貯めていた。きょうは誰それから何シリング、本日の合計いくらいくらと手帳に書き付けている。小銭は糸を通してひとまとめにし、穴のない硬貨は丁寧にまとまった額を紙に包んで、じゅうたんをはいだ床板の下に隠してある。毎日勘定する。ジョージ・エリオットの「サイラス・マーナー」みたいである。スラム街ではあるがにぎわいのある通りに一軒の貸し店舗を見つけた。今年中には600ポンド貯まる。ここで「タバコ屋」をしよう。スイーツも置く。奥にはお茶をだす部屋を作ろう、近所の女性たちがきてちょっとした時間を過ごせるような。アルバートの夢は広がった。キャサリンがホテルのメイドをしている若いヘレン(ミア・ワシコウスカ)はいい子だと言っていたが。世間知らずという点では中学生なみかもしれないアルバートは空想が一人歩きし始めた。「彼女と結婚する前に打ち明けるのか、初夜まで待つべきか。彼女が警察を呼び二人とも監獄行きになるかも。ヒューバートの場合はどうしたのだろう…」アルよ、この道にもこの道なりの手順というものがある、結婚云々の前に肝心のヘレンはどう思っているのだ。そういってやりたくなるほど純情というか何というか▼ヘレンには男がいて「あの爺さん(アルバートのこと)から搾り取れるだけ搾り取っておれたちはアメリカへ行くのだ」とヘレンをあやつる。人生経験充分なホテルの同僚たちはアルバートに「あの娘を相手にするのはやめな。アンタには不向きだよ。あの娘男に夢中なんだ。カスみたいな男に。しかも孕ませられた(アルバートは仰天)。二人でアメリカに行くってさ。お笑い種だよ。男は女を棄てていく、絶対に」その通りになった。アルバートは大喧嘩をしているヘレンと男の仲裁に入りふりとばされ、男は捨て台詞を残して出て行く。後を追おうとするヘレンに「追っちゃだめ!」女たちはヘレンを力づくで止めるのだ▼ロンドンにチフスが蔓延した。アルバートも罹患したが診察を拒否するため一人で部屋にとじこもって治す。女たちが食事を部屋の外に置いてくれた。よれよれになって仕事復帰したとき「アルバート、治ったのね。よかったわ」みながやさしく迎えた。キャサリンは死んだ。ヒューバートをなぐさめるつもりでアルバートは言う「あなたと私で店をやることもできます」失意の底にいるヒューバートにはちょっと提案が早すぎるのだが。ヒューバートはそういう「見えない」ところのあるアルバートに「アル。自分自身に正直になるべきだよ。頑張っていままで生き抜いてきたんだ。必死にお金も貯めた。新たな人生の相手が欲しいならその人を探すんだ」。アルは女たちの忠告もきかずヘレンに言う「子供の面倒はみます。結婚してください」奇妙な求婚者だった。ヘレンは「あなたはわたしの手も握ったことがないしキスもしたことないわ」アルバートはおどおどと頬にキスする。ヘレンは「キスってこうするのよ」と教えるのだが、あまりに情熱的なそれにアルバートはベンチから転げ落ちそうになる▼19世紀ビクトリア朝のイギリスの下級社会。動物のような暮らしを強いられていた14歳の、天涯孤独の女の子がレイプされ放り出された。女に仕事はなかった。自殺しても不思議ではない過酷な境遇で、アルバートは古着を仕立て直しウェイターの面接を受け10シリングを得た。これで生きていける。仮面だろうとなんだろうと、男だろうとなんだろうと、命の糸をつかんで生きていくことをアルバートは選ぶ。このときのアルバートの命がけの選択を考えれば、自分探しとかヘチマとか御託に等しい悩みは笑止であろう。小銭を貯め「タバコ屋」を開くという夢も泣かせる。女に教育は受けられなかったから、ほかになにをしたらいいのかアルバートにはわからないのだ。タバコ屋という彼女の発想を笑うことは出来ない。たとえ方法がわからなくても、無我夢中で生きようとするアルバートの挑戦に「愛を感じます」とグレン・クローズは言っている。アルバートには人生の一瞬の隙間に見えた夢があった。たとえ刹那であっても挑戦がもたらした夢は幸福とよんでいいのではないか。ここにロドリゴ・ガルシアとグレン・クローズがこの映画に、一見あまりにもはかなく、あわれに見える「アルバート氏の人生」に、じつは大きな肯定を託していたことを感じる▼ガルシアという名前でお気づきのように、かれはノーベル文学賞受賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの息子です。ハーバード大学を卒業後、撮影監督としてキャリアをスタートしました。特筆すべき作品にアンジーの女優開眼となった「ジア/裸のスーパーモデル」があります。グレン・クローズとは「彼女を見ればわかること」で監督・主演で共演。グレンは長年あたためていた本作の映画化をするにあたり、監督はロドリゴ・ガルシア以外頭になかったそうです。同年のオスカーは僅差でグレンの親友メリル・ストリープになりましたが、本作のグレンもまた見事だったと思います。もうひとり、アルバート氏の人生を動かしたヒューバートのジャネット・マクティア。彼女もオスカーの助演女優賞候補となりました。グレンは舞台に出演中のジャネットを直接たずね、脚本だけ渡して帰ってきた。すぐあとで彼女から「出る」承諾の返事を聞いた時のうれしさを隠さず語っています。180センチの長身の彼女はヒューバートの雰囲気にぴったりでしたね。

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