女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2013年11月25日

特集 LGBT-映画にみるゲイ 譜めくりの女(2006年 ゲイ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ドゥニ・デルクール
出演 カトリーヌ・フロ/デボラ・フランソワ

ナルシストを撃て

 これは「ゲイの映画」というより「ゲイを利用して罠にはめた映画」ね。子供の復讐心が(10年も続くか?)とか疑義を呈すると本作はなりたちませんから、ドゥニ・デルクール監督の出した前提を肯定しましょう。つまりヒロイン、メラニー(デボラ・フランソワ)はコンクールの審査員として出席した高名なピアノスト、アリアーヌ(カトリーヌ・フロ)の侮辱を片時も忘れなかった、彼女はピアニストになる夢を封印し、いつかきっとあの女にと機会を狙っていた…おどろおどろしい復讐譚に思えるかもしれませんが、全然そんなことありません。監督の感覚はどこまでもエレガンスで、主人公ふたりは陰に陽にいろんな角度から照射され、洗練されたアーティストとしてスクリーンに映しだされます。ではありますが一皮むけば(くそ。倍にして返してやる)のリベンジの世界ですな、やっぱり▼メラニーの両親は肉屋だ。一人娘がピアニストになりたがっている。父も母もせっせと働き、練習に励む娘を見守ってきた。娘もそんな父母の優しさに応えたいと一生懸命練習して立派なピアニストをめざした。決して裕福な家でないことは「もしコンクールに落ちてもレッスンは続けていいのだよ」と、娘の気兼ねを察した父の言葉でわかる。少女ながら大きなプレッシャーに耐えメラニーは本選に臨む。自信にあふれた演奏で審査員たちは聞き惚れる。そのときだ。メッセンジャーが入室し、ファンが求めているからとアリアーヌにサインしてくれと言いにきたのだ。審査の最中だというのにアリアーヌは演奏者から視線をはずしサインに応じる。奏者を無視するに等しい配慮のないふるまいが少女を傷つけた。わたしの演奏ってその程度? ショックを受けたメラニーは弾く手が止まってしまう。アリアーヌはふと顔をあげ「なぜ止めるの。弾きなさい」耳は聞こえているのだからって感じ。感情のバランスを崩したメラニーの演奏はガタガタになってしまう。少女期のメラニーを演じた子役ですが、玲瓏というまでに整った容貌です。引き締まった目と眉。筋の通った鼻。ムダ肉の一片もないあごに細い頬。そんな子が絶望と悔しさで、滂沱と涙をこぼしながら審査室から出てくるのです。母親は胸を衝かれる。メラニーは一言も発せず、審査の発表も待たず家に帰りピアノを封印します。オープニングから10分、ヒロインの性格と運命を暗示する秀抜な出だしです▼10年後メラニーはパリの有名弁護士事務所の見習生となる。この弁護士の妻がアリアーヌだ。二人の間には小学生の一人息子トリスタンがいる。子守を探していると知ったメラニーは実習期間も終わることだし、自分は子供が好きなのでやらせてくれと頼み、パリ郊外にある自宅に行く。交通事故にあったアリアーヌは情緒不安定で三重奏の録音を前に落ち着かない。メラニーが、楽譜が読めると知ったアリアーヌは譜めくりを頼む。アリアーヌは的確に役目を果たすメラニーがすっかり気にいり、片時もそばを離さなくなる。アリアーヌの友人でもある三重奏のヴァイオリンの奏者がメラニーを見て「彼女なにもの?」「トリスタンの子守だけど完璧に楽譜が読めるの」「あなたを見る彼女の目、まるで恋人をみるようだわ」アリアーヌも悪い気はしない。ちやほやされるのに慣れた女ですから(むむむ。やっぱりわたしは魅力的なのね)とせいぜい自己愛を強固にしたくらい。友人のひとりは何度かあっているうち「ね。なんだかあの子、いやな気がするのだけど」とメラニーの邪悪な部分がピンとくる。でもアリアーヌは耳をかさない▼そのうちメラニーはそっとアリアーヌにキスしたり指をふれたり。平静を装うもののアリアーヌはメラニーにのめりこんでいく。メラニーのもうひとつの標的は息子のトリスタンである。腕の筋を痛めるから一定の速度以上で弾いてはいけないという、母親のいいつけを彼は忠実に守っていたが、メラニーは「ふたりで秘密の練習をしてお父さんを驚かせましょう」と子供を籠絡し、上達が早い、さすがママの子とほめちぎってますます無理な練習をさせる。大事な公開レッスンの当日メラニーが姿を消した。代役の譜めくりでは感覚があわずアリアーヌのピアノはガタガタ、三重奏はさんざんの結果になる。うちひしがれて会場の外にでたアリアーヌを待っていたのはメラニーだ。怒りで口もきけないアリアーヌに「ごめんなさい」しゃあしゃあ謝り、車の助手席に入ってきてアリアーヌの指に何度もキスする。な、なんと、アリアーヌは許すのだ。おい冗談じゃないだろ、車から突き落とさんかい…子供のときから英才教育という純粋培養で大きくなったピアニストには悪の免疫が全然ないのだ▼雇用期間が終わり、明日は邸宅を去るメラニーが「あなたのサインがほしい」とアリアーヌに頼む。アリアーヌは手持ちの写真のなかから一枚を選びサインし「また会いましょう」とさしさわりのないことをそのときは書くのだが…夜中、メラニーの部屋のドアの下にそっと封筒が差し込まれた。開けるとサインの入った写真といっしょに手紙が。「愛しているわ。メラニー。いっしょにこの家を出るわ」…とうとうやっちゃいましたね。アリアーヌの家庭はズタズタになる。手紙を読んだ夫は妻から去り、息子の腕は腱鞘炎でボロボロ。サインで受けた屈辱はサインで返す。確かにアリアーヌは無神経だったけどまさかここまで祟るとは思っていなかったでしょう。命取りはフラグだった愛を見抜けなかったこと。自分しか愛せないナルシストがよくはまる罠です。

Pocket
LINEで送る