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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2013年11月28日

特集 LGBT-映画にみるゲイ 月の瞳(1995年 ゲイ映画)

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監督 パトリシア・ロゼマ
出演 パスカル・ビュシエール/レイチェル・クロフォード

ヒロインに「ハレルヤ」

 本作の公開は1995年でしょ。ニューヨークでは警官に積極的にゲイを採用すると募集キャンペーンを張ったのが80年代後半だったと思う。ゲイを差別するグループには市の補助金を出さないとか、遅ればせながらニューヨーク市でゲイの人権法案が成立したとか(1986)、一言でいうと(人間の愛情の形っていうのはひとつだけじゃないだろ。愛しむとか慈しむとかいう感情が同性に向けられることがいけないとか、まして罪だとか、だれが勝手に決めたのだ)というゲイ・コミュニティの発信が90年代に入ってから力を持ち始めました。そんな時期ですね、この映画ができたのは。ミッション系の大学で神学を教えるカミール(パスカル・ビュシエール)は、神学の教義に反して、ペトラという女性にぐんぐん惹かれていく。結婚を間近にひかえた婚約中の同僚もいるし、内心困ったことだとは思っているが、彼女の困惑はちょっとの間で、あとはきれいさっぱり「同性愛がまちがっているという教義のほうがまちがっている」とばかり、さっさと別れてしまうのだ(婚約者のほうと)。今からみれば時代を味方にしたヒロイン像が新しかったのですね▼筋運びはでもちょっと強引かな。ロゼマ監督の女性特有の腕力というか感性というか。それにこのヒロインふたり、詩のようなやりとりを食前食後にするのよね(笑)。詩集の抜粋みたいなこといちいち言うか、と思ってしまうけど、きっとこれ監督の美意識でありセンスなのでしょうね。映像にも現れている。カミールを愛するペトラはサーカスのダンサーです。空中ブランコにのる双子の女性のブランコ上でのからみあいとか、ペトラとカミールが初めて愛を交わすのはそのブランコの下なのですが、みあげる彼女らの上にさらにまたエロティックな幻想が重なる。詩的でもあり幻術的でもあり、幾重にもかさなった感情のからくりが螺旋状にのぼっていく、そんな監督術です▼愛犬の急死にペットロスになったカミールの前に現れたのがペトラ。ランドリーで洗濯物がぐるぐる回るのを待っていたペトラは、洗濯場の隅でいい年をして泣いてばかりいるカミールにどうしたのかと話しかける。もうこのとき夢中になっていたのですって。一目惚れよね。お固い神学の勉強ばかりしていたせいか、ちょっとニブ感なところのあるカミールはなかなかペトラのペースに入ってこない。ペトラは積極的だ。「とても形のいい唇ね。月明かりのなかで歓びに燃えるあなたがみたい」「むむむ。予期せぬ展開だわ」なんていう反応はペトラにしたらたよりないことおびただしい。カミールは大学の教授会(みたいなもの)で、学内の学生が同性愛で苦しんで相談に来たらどう対応するかという設問に「同性愛が別に問題だとは思いません」と答えて教授たちから白い目でみられる。婚約者のマーティンも「教会の教義に反する」他の先生らは「聖書には同性愛については一行も書いていない」「教義を守るのがわれわれの務めだ」とイエローカードを出す。仕方なくカミールは「自分が回答できるかどうかわかりません」と言って帰ってくる。あんな頭の硬い連中よりペトラとハングライダーしたり抱きあったりしているほうがよっぽど楽しいとカミーユには思えてくる。自分をとりまく現実に閉塞感を覚えながら、でもカミーユはあらんかぎりの理性でふみとどまるのだ。「もうあんなことしないわ。これ以上はダメ。でも友達にはなれると思う。ペトラあなたに普通のお友達はいるの?」「いるけど。でもわたしはあなたに夢中なの」ペトラはあっさり言い「なにをするの、いったい友達になって」あほらしそうに聞く。そもそも(月明かりの下で歓びに燃えるあなた云々と、最初に告白してあるではないか、この鈍感)と言いたいのだ▼ああだ・こうだとお定まりの曲折のあとふたりは思いを遂げあう。そこでまあこの恋人たちのセリフを聞いてみよう。ペトラ「あなたのセックスが好き。あなたの知性が好き。特徴ある話し方もあなたの瞳に宿る悲しみの影が好き」カミール「あなたの姿が好き、あなたの声が好き。あなたの明るさや行動が好き。愛しているの」「色褪せるときがくるわ」「あなたとならいつまでもワイルドよ。わたしを求めている?」「たまらないほど」あっそ…こういうことをケレン味もなくいえる恋愛とは、それだけですでに値打ちものですな。酒が飲めないはずのカミールがポケットから出したウイスキーの小瓶をぐびぐびやり、愛犬を雪の中に埋めたのはいいが自分も酔っ払って凍死寸前に救出される。ペトラがかけつけたつぎのシーンではサーカス団の移動トレーラーに乗ったふたりが笑っているところをみると、カミールは学校もやめ婚約者とも別れてペトラといっしょになったらしい。埋めた雪の中からもぞもぞイヌが生き返ったのには驚いた。ラストシーンはこのイヌが朝日の中をビュンビュン走っているのだ。ちょっとやりすぎだろ、監督。それとも社会から抑圧されてきた「ゲイ」という存在がついに生命を取り返し、よみがえったことをいいたかったのか、よくわかりませんが、とにかくこのワンちゃんにはたまげました。ハレルヤ。

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