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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2013年12月2日

特集 LGBT-映画にみるゲイ ドリアン・グレイ 美しき肖像(1970年 ゲイ映画)

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監督 マッシモ・ダラマーノ
出演 ヘルムート・バーガー

ぼくらは聞こえないふりをしよう

 ドリアン・グレイはオスカー・ワイルドの創造した文学史上のイコンだろう。ドリアンという美青年が肖像に描かれた。彼は自分のあまりの美しさに見惚れ、この若さを永遠に留めたい、そのかわり年はこの肖像画が取ってくれと虫のいいことを考えた。それができるなら悪魔に魂を売り渡すという。悪魔は聞き届けてくれドリアンはさんざん悪行を重ねるが罪に問われず、美貌は衰えず、彼の悪を肖像画が吸い取って、見るに耐えない醜悪さをキャンバスに露呈していく。ドリアンは画に布をかぶせて屋根裏部屋に隠すが、怖いもの見たさに時々画布をとる。そこにいるのは額に深い何本ものシワ、面貌はシミだらけ、落ち窪んだ目は老人独特の意地悪さでピカピカ光り、髪は少なくバサバサで、輝く金髪が色あせた男。ドリアンはぞっとして再び画布で覆う▼いっとくけど、こういうこと、世間ではいちいち肖像画なんてなくても、鏡さえみたら毎日いやでもわかることなのよ。そこで目にする自分の顔であり、皮膚であり、髪であり、しわであり、シミであり、しわだらけの手であり、金壺まなこなのですけどね、それをドリアン・グレイという悪徳と美と退廃のイコンにしてしまったのがオスカー・ワイルドなのよね。世界中の男や女がドリアン・グレイに(この変態め)無視するふりをしながら、永遠の美と若さという甘い花の蜜に吸い寄せられる▼映画化だけで1945年、1970年(本作)、1982年と三度ですよ。イギリスのBBCは「ドラマ・ドリアン・グレイの肖像」(1976)、アメリカだって「美女ドリアン・グレイの秘密」(1982)、おお宝塚もやってくれたね。星組が1996年「ドリアン・グレイの肖像」を初演。デビッド・ボウイの愛読書でもあります。みな「ドリアン・グレイ」という名前をズバリ使っていますね。ほかの邦題をつけたりタイトルをいじったりしていない。ことほどさように、ドリアン・グレイという心地良い響きを持つ言葉は、単なる名前を超えて性の魔物を象徴するイコンとなった、それをつくりあげたのがワイルドという天才でした。ドリアンは男を愛し女を愛し、男も女も弄んで滅ぼし、牡牛のような精力で悪の限りを尽くします▼ドリアン・グレイを世に送り出したワイルドは「幸福の王子」の作者でもあります。幸福の王子は、美しさの象徴であり、きらびやかに象嵌された自らの像の宝石をすべて貧しき人にわけあたえ、ぼろぼろのみる影もないただの銅像となって破壊されます。王子の使者となったツバメの死骸とともに。人間の心を司る闇のなかに、ワイルドは美しさも悪も善も男の愛も女の愛も、およそ愛というものがとめどなく気高く崇高でありながら、とめどなく残酷で暴力的であることを見ていたのでしょう。彼はオックスフォードを首席で卒業、最先端の文化人らと交流し、気取った服装や振る舞いや、アメリカでの奇行やら、いまでいえばワイドショーのネタに事欠かない作家でした。あまりに騒々しいその生き方からは、オスカー・ワイルドという男性ではなく、オスカー・ワイルドという演じられた人物をみているようです。パリ郊外にあるワイアルソの墓の墓碑銘にこうあります。「最後の審判を告げるラッパの音が鳴って、僕達が墓の中に横になっているとき、ロビー、僕は君のほうを向いて囁くだろう、ロビー、僕たちはあの音が聞こえないふりをしよう」ドリアン・グレイとは、ワイルドが社会のすべてを聞こえないふりをして創りだした美しい怪物です▼ヘルムート・バーガーはマッチョからほど遠い、スレンダーな肢体です。このとき26歳。その前年に「地獄に堕ちた勇者たち」でルキノ・ヴィスコンティに見出されています。本作のあと彼の終生の代表作「ルートヴィヒ」が製作されました。同作でヴィスコンティが磨きあげた「男の美しさ」には冷たい悽愴なものがありますが、本作のバーガーはまだ無邪気な美しさのなかにいます。

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