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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2013年12月9日

特集 LGBT-映画にみるゲイ 愛の悪魔/フランシス・ベーコンの歪んだ肖像 (1996年 ゲイ映画)

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監督 ジョン・メイバリー
出演 デレク・ジャコビ/ダニエル・クレイグ/ティルダ・スウィントン

人生ズタズタだわ 

 イギリス画壇の鬼才といわれたフランシス・ベーコンと愛人ジョージ・ダイナーの7年間の映画です。ジョージは彼のモデルであり恋人でした。出会ったときベーコンは55歳でした。映画はベーコンのサドをジョージのマゾが受ける、という形で進みます。くどくど説明するより、まあこういうセリフを聞いてください。ベーコンの独白です。「現実にはかなさが伴う。亡霊のような体積。時に男の影のほうが彼自身より存在感がある。彼の呆けた顔が広がる虚空は、死の虚空なのだ」呆けた顔ってもちろんジョージのことよ。ひどい言い方でしょ▼まだある「交通事故に遭遇したとき、道に横たわる人を助けようと思うより先に、その奇妙な美しさに心が躍る。その非日常性にだ。以前ひどい事故をみた。横たわる人たちとガラスの破片が散乱するさまは美しかった。それはじつに移ろいやすいが、人の配置と血の様子が偶然招いた美だ」…20世紀最大の画家かもしれないが、こんなイカれたオッサンのそばにいたらおかしくもなるわ。このときベーコンは既に画家として成功していたから、ジョージに服を誂えてあげたり「居酒屋がいい」というジョージを高級レストランに連れていったり、ふたりで散歩したり、パートナーとして充実したときを過ごすのだけど、だんだん齟齬が生じてくる▼だってジョージが「愛している、フランシス」と言っても「どこでそんなセリフを覚えた。テレビか」とか「しょせんあいつは泥棒あがりの与太者さ」とか(本当のこととはいえ)ベーコンは彼をてんでバカにするのよね。ジョージが「あんたと出会うまではおれにも人生があった」と叫ぶのはどこか悲痛よ。こんなサド系男のどこがよくてジョージは7年間もくっついていたのだろ。たぶんこういうところだと思うのよ。「ベッドの中でみる彼の横顔。あの鼻。内気でひねくれた目。口元。肌合い」この言葉にひとしい、やさしいともいえる繊細な愛撫が、ジョージに与えられていたのだろう。だってベーコンのひともなげな無礼で意地悪な態度振る舞い(浮気もあった)に、アタマにきたジョージは「今に見ていろ、えらそうにしやがって。あんな絵を家に飾るやつがいるものか。肖像も似ていないし。仲間もクズだ。発情した犬みたいなやつらが気取りやがって」と鋭く真を穿つのに、性懲りもなくふらふらベーコンの部屋に帰ってくるのよね▼それを見越しているベーコンは犬に骨でも投げるようにふんだんに金を与えるが、ジョージの感受性を無視し、痛めつけることにはいっこう頓着がない。そのくせ彼が描いたジョージの肖像は、現実の関係を昇華したまるで愛の詩だった。精神の安定を薬物に頼るようになったジョージは、保ちこたえきれずに自殺してしまう。ベーコンはジョージの死に「すべては朽ちる。太陽も星もいずれは消える。それが唯一確実なことだ。すべては朽ち果てて滅んでいく」なんて書いて、それから20年も長生きし名声をほしいままにした。カッコつけのこのエゴイスト。星も太陽も朽ち果てるまで何億年あるというのだ。せめてその時間のひとかけらでも使って、ジョージをもっと大事にしてやればいいのじゃなかったのか。ベーコンの代表作を一点あげよといわれたらこれ「ベラスケス〈教皇インノケンティウス十世像〉による習作」だろう。ヴェラスケスが描いた教皇とは、詐欺師か脱獄犯のような陰険で狡猾な表情をしている。ベーコンは教皇というより、一人の男の皮を剥いたようなヴェラスケスの画に天才を感得したにちがいない。ベーコンは豪雨のような縦の青い線によって、インノケンティウスの肖像を、腐乱する崩れかけた死体のように解体してしまった。この画はベーコンの自画像の変奏ですね▼ジョージ、君はこんな歪んだ男とずるずるいっしょにいたのが身の不運だったのだ、としかいいようがない。ダニエル・クレイグはこのとき30歳。007でブレイクする8年前です。まだ顔の彫りに浅いところはありますが、オールヌードで撮影した入浴シーンでは、真上からのアングルで男性自身を隠さず奮闘しています。

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