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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2013年12月10日

特集 LGBT-映画にみるゲイ ブエノスアイレス(1997年 ゲイ映画)

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監督 ウォン・カーウァイ
出演 トニー・レオン/レスリー・チャン/チャン・チェン

せつなさのブエノスアイレス 

 情緒纏綿とした雰囲気は充分伝わるのだけど、見終わってなにかもうひとつ(はて、何だったのだろう)と消化不良みたいなものが残るのですよね。主人公は香港からアルゼンチンを旅するゲイの二人、ファイ(トニー・レオン)とウィン(レスリー・チャン)だ。倦怠した関係を「やり直す」旅だと言うが、ファイは香港で会社の金を盗み、アルゼンチンで働き盗んだ金を返そうとしている。ふたりはイグアスの滝に行く途中道に迷って言い争い、ケンカ別れする。ファイはブエノスアイレスのタンゴ・バーでドアマンの口をみつける。そこへ白人男性といっしょのウィンが現れる。ウィンは何度もファイに復縁を迫るが、ウィンの不実とわがままにさんざん痛い目をしてきたファイは、そのつど拒否する。ある日愛人に怪我を負わされたウィンがファイの部屋に転がり込む。介護を引き受けるファイ。これがまたなんと甲斐甲斐しい。体を拭いてやる、食事を食べさせる、足を洗う、タバコは買ってきてやる、口では「お前がいい加減だからこんな目にあうのだ」と厳しく叱責しながら、ウィンの世話をするのがうれしくてたまらない。ウィンといつまでもいっしょにいられるよう傷が治らないことをひそかに祈り、隙をみてウィンのパスポートを隠し、彼がどこにもいけないようにするのだ。独占欲といってしまうにはあまりに健気です▼傷が治ったウィンはまたもや男を求めて出歩くようになり、ファイはタンゴ・バーもやめ失意のドン底だ。中華料理店に転職したファイは台湾からの旅行者チャン(チャン・チェン)と親しくなる。それを知ったウィンはファイの元から去っていく。チャンは「ファイの声が好きだ」と言う。ふたりで食事に行ったとき、ファイはチャンに好意をもつ女店員がいるから「つきあえよ」とすすめるが、チャンは「声が嫌いだ」という。「子供のとき耳を悪くした。耳は治ったが声を聞くことに鋭くなった」チャンは「深みのある低い声の女が好きだ。耳は心の中まで察知できる。幸せなふりをしても声はごまかせない。先輩(ファイのこと)はいま幸せじゃないね」と。このシーンがとても好きだ▼チャンはお金を貯めて「世界の果てまで」行くのが夢だ。そこには灯台があって悩み事を棄てられるそうだ。「先輩、このテープに悩みを吹きこんでおいて。先輩はぼくの友達だった。写真は嫌いだから記念に声を残して」そう言ってチャンは席を外しファイに吹きこませ、出発した。再び一人になったファイは黙々と働いた。町でウィンを見かけたことはあったが関係を戻しはしなかった。そしてお金を貯めボロ車を買い、帰国する前にイグナスの滝をみるために発つ。チャンはとうとう彼が「世界の果て」と目指した場所にたどりついた。南米大陸の最南端。灯台の先はもう南極だった。チャンはファイの悩みを棄ててやろうとテープをかけたが変な音しか聞こえない。ファイは泣いていたのだとチャンはわかる。チャンは故郷台北に帰国する前、中継地のブエノスアイレスに寄りファイに会いたかったが所在はわからなかった。ファイはそのころイグアスの滝を目の前にしていた。ファイは「ウィンを思い出して悲しくなった。いるはずの彼がいないから」とひとりごちる。滝の映像がすばらしい。見ていると地の底にまで落ちていく、異界にまで落ちていくような気がする巨大瀑布だ。ファイは香港に帰国の途次、台北でチャンの両親が営む屋台に寄った。屋台には灯台にいるチャンの写真が何枚か張ってあった。チャンが送ってよこしたのだろう。ファイはその一枚を盗む。そして言う「オレは確信した。会いたいとさえ思えばいつでも、どこでも会えることを」▼うむむ…アッそう。ちょっと確認したいけど、パスポートを隠してまで独り占めしたかったウィンとは心のケリがついて、ファイが愛する人はチャンになっていたのね。それも写真一枚でチャンが「どこにいてもいつでも会える」と確信できるほど。ファイが尽くせば尽すほどいい気になっていたウィンだから別れて当然よ。でもだからってチャンとファイにはなにも起こっていなかったように思うけど。ファイは片思いで台北まで行って(しつこいようだけど)写真一枚で満足するってこと? ファイがいくら教えても覚えが悪いといって、ウィンが文句いいながらダンスを教えるシーンがあったのよ。汚い壁の狭いアパートで、ワンフロアの部屋には骨のむき出しだベッドとケバケバの毛布、綿がはみでた布団、薄汚れた台所にテーブルには吸殻の溜まった灰皿、そんな部屋で将来のあてのない青年ふたりが、だきあってタンゴを踊る。やるせなさと切なさがこみあげ、わけもなく涙がにじむようなシーンだ。こんないいシーンがあるのに、いっぺんに写真一枚とセリフだけでこの映画を終着させてしまったのが惜しいわ。エンディングに流れるのは「ハッピー・トゥゲザ―」。「四角い恋愛関係」のエンディングにも使われました。いい曲ですね。ハッピーというには切なすぎる映画だったけど。

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