女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2013年12月17日

特集 LGBT-映画にみるゲイ シングルマン(2009年 ゲイ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 トム・フォード
出演 コリン・ファース/ジュリアン・ムーア/マシュー・グッド

虚空の二人 

 なんとまあ映像のきれいなこと。冒頭全裸の男性が水中にただよう幻想的なシーンから、白一色雪景色のなかに棄てられた事故車と死体。被害者の顔に流れた血の赤さ。死体に近づく人影。ミステリアスでさえある。監督のトム・フォードは蛇足でしょうが元グッチ&イヴ・サンローランのクリエイティヴ・デザイナー。ダニエル/ボンドのスーツも彼のデザイン、ブラピも顧客の一人という高級メンズ・ファッションのリーダーだ。劇中コリン・ファースのスーツもトム・ フォードのデザインである。かつて俳優をめざしていた彼が念願かなって初監督したのが本作だ。舞台は1960年代。時代の雰囲気や社会の感覚がきめこまかく映し出される。ロスの大学教授であるジョージ(コリン・ファース)の車はメルセデス・ベンツのクラシック・カー。ジョージが出会うゲイの青年はジェームズ・ディーンのヘアスタイル。大学で講義をきく女子大生のメークはブリジッド・バルドーで、ジョージの元恋人のチャーリー(ジュリアン・ムーア)が、ふたりだけのパーティで踊るのはツイスト。町の壁に描かれていた映画のシーンはヒッチコックの「サイコ」です▼16年間連れ添った最愛のパートナー、ジム(マシュー・グッド)が車の事故で即死した。ジョージはジムの従兄弟の電話でそう告げられる。葬儀の日取りをきくが「家族だけで」と暗に参列を拒否される。ジムの死も「知らせる必要はない」という家族の意向を従兄弟が自分の判断だけで連絡をくれた。60年代のゲイに対する周囲の対応がいやというほどわかります。じつに冷たい。ジムの死後8カ月。ジョージは「愛する人のいない人生に意味はあるのか」自分に問いかけ「ない」と答えをだす。彼は「今日自殺する」と決めた人生最後の日を迎える。すると今まで何気なく過ごしていた日常の小さな一コマが、急に活気をおびてジョージの目に映ずる。大学の女性職員にやさしい笑顔と言葉をかけ、講義にはとくに熱が入った。学生のケニーは後をおいかけもっと話をしたいと打ち明けた。研究室のデスクを片付けた。銀行の貸し金庫は中を改めた。駐車場で出会ったゲイの青年カルロスと会話をかわし、彼の未来をひそかに祝福する。ジムと初めて出会った酒場にきたら、ケニーがいた。哲学的な問答のあとケニーとジョージは夜の海で泳ぐ▼チャーリーとの関係はジョージの親友という位置づけだが、チャーリーはもっと踏み込んだ関係をもちたい。女性としてやることはみなやった。結婚し夫の世話をし子供を育てた。子供たちはオトナになり自分は棄てられたみたいな気分だ。お金にも時間にも不自由はないのに満たされない。ジョージはチャーリーの望むところはわかっているが全然関心を示さない。チャーリーの自宅でワインを飲み床に寝て天井をみあげ昔話をする。「私たちの関係は本物だった」というチャーリーの言葉にジョージは色をなし「僕とジムの関係は本物だった」と食ってかかる(そんなこと言うてへんがな、とだれでも思うが)▼監督の鋭敏なビジュアル視覚がよく現れていると思ったシーンはここだった。ジムとジョージが海岸にいる。砂浜に横たわり話す。このシーンはモノクロだ。砂浜には岩場があり、尖った岩が背景の空に刃のような切り込みを入れる。真夏だろう。太陽が強く黒い影がくっきり砂に焼きつく。カメラはすくいあげるような角度から男たちを映し、その背景に無窮の空がある。すべてを飲み込むような虚空である。ジムの彫りの深い容貌。額にかかる黒髪。ジョージはまぶしそうに彼を見つめる。トム・フォードはこの映画のメッセージとして今日というかけがえのない一日を精一杯生きよう、ジョージが死を決めた一日のように、と言っているが、彼の映像の鋭さに比べたらこの説明の陳腐なこと。やっぱりトム監督は黙っているほうがいいね。エンディングはちょっと残酷ですが、甘くしたくなかったのでしょう▼ジムとジョージが暮らした瀟洒な、スタイリッシュな家は1948年、ロスの幻想的な建築家として知られたジョン・ロートナー設計の実在する家だ。エンドロールの献辞はトム・フォードの恋人リチャード・バックリーに捧げられたもの。劇中のフォックステリアはふたりが自宅で飼っている犬です。

Pocket
LINEで送る