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特集「銀幕のアーティスト」

2013年12月21日

特集「銀幕のアーティスト3」 イーストウッド アフター・アワーズ (1997年 ドキュメンタリー映画)

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監督 ブルース・リッカー
ドキュメンタリー映画

クリントのためのジャズ・コンサート 

 アフター・アワーズつまりクリント・イーストウッドの「仕事のあとの時間」ですね。クリントは1996年10月17日、ジャズの殿堂カーネギーホールに招待された。ふだんロスアンゼルスを本拠地にしているクリントが東の対岸ニューヨークに姿を現した。ホールの二階正面、ちょっと暗がりの指定席に、クリントが高い背をかがめながら腰をおろします。相変わらずゆっくりした動作です。どこかで書いたかもしれませんが、彼の所作動作は非常にゆっくりしている。ダーティー・ハリーのようなアクション映画でもそれは変わらず、走るバスの屋根にしがみついて、ふり落とされるのをこらえているときでも、どことなくゆっくりしている。トム・クルーズの五輪選手のような華麗なアクションと全然ちがいます。ましてやジャン=クロード・ヴァンダムの「見せたがり」としか思えない180度開脚などしない。クリントの「ゆっくり」はトラやネコやヒョウやあらゆる動物が、必要ない限り絶対急がないのと同じ「ゆっくり」なのです▼この日の趣旨はクリントが多くの映画でジャズを使っただけでなく、ジャズを使うことによってジャズの質を高めた、それに対する感謝として第一線のジャズ奏者が一堂に会した、そうそうたるメンバーですよ。クリントの監督第一作「恐怖のメロディ」から「許されざる者」まで、彼がいかに上手にジャズを自作に取り込んだか。そのシーンをクリントが自分で解説しています。監督であると同時に彼がすぐれたプロデューサーであり、センスの抜群な編集者であることがよくわかります。「恐怖の」から本作まで25年。プレーヤーたちはそれなりの年齢になり、彼らがステージに登場するだけでジャズの歴史を感じさせました。とくに「恐怖の」は劇中何度も使われる「ミスティ」が、ヒロインの異常な独占欲をきわだたせるムードメーカーの役を果たしている。クリントが本当の恋人と海岸を歩くときはジミー・スコットの「ファースト・タイム・エバー・アイ・ソー・ユア・フェイス」(やむをえずとはいえ、カタカナ表記が多くなりますがご勘弁ください)。タキシードでステージにあがったジミーは澄んだ、彼女独特の哀愁のある声で往年のヒット曲を歌いました。クリントの息子カールはベース奏者です。カルテットを率いてこの夜演奏したのは「ジャズ・タイム・ザ・ドリームズ・オン・ミー」。そうです、ヘロインと酒で自ら破滅したジャズ・サックス奏者、チャーリー・パーカーの伝記「バード」で流れた曲です。暗い映画でしたけど、この男はこういう生き方をした、それだけだ、涙も哀しみもこいつには要らないのだという、クリントの強い肯定感が暗さを排していました▼「タイトロープ」のメーンテーマ。ジェームズ・リバーズのトランペットがいいですね。この映画は「クリントの変態」ともいうべき作品でして、犯罪都市ロスの闇に不可抗力に吸い込まれていく刑事に、トランペットという楽器のもつ哀調がよくあっていました。クリントが劇中自分でピアノを弾く珍しい場面があったのは「ザ・シークレット・サービス」。クリントがバーにいて同じCIAの彼女が来て、クリントがピアノを弾く。カーネギーホールでこの「時さえ忘れて」を演奏した白髪のピアニストはバリー・ハリス。ジャズ界の重鎮です。それと「マディソン郡の橋」ね。このときも内容にふさわしいムーディーなジャズがたくさん登場します。そのなかでリニー・ロスネスのピアノで「ドウ・アイズ」と「アイ・シー・ユア・フェイス・ビフォー・ミー」が演奏されました。クリントがメリル・ストリープと橋のそばで花を撮影していたときや、台所でダンスするシーンです▼最後にクリントはステージにあがり謝辞を述べます「ジャズは最高です。わたしも若いときはシング・シング・シングを演奏したりしました。アメリカで生まれた芸術を尊重する心を育み、ジャズという大切な遺産を次世代に受け継ぎましょう。ロックの派手な舞台も人気ですが、わたしたちにだって“刺青”はありますよ。最高の夜でした。指揮をしてくれたレニーに感謝します。今夜演奏していただいた曲は心の奥まで響きました。またとない機会ですので一曲披露しましょう。しばらくの間どうかしんぼうしておつきあいください」弾いたのは「アフター・アワーズ/C・Eブルース」。もちろんレニーの作曲だと思います。レニー・ニーハウスはクリントの陸軍時代から40年来のつきあいで、ジャズのサックス奏者であるとともに、クリントの映画のほとんどの曲を作曲しています。「スペースカウボーイ」「ブラッド・ワーク」「パーフェクト・ワールド」「許されざる者=クローディアのテーマ」。息のあった古いスタッフで脇を固めるのはクリントのいつもの流儀です▼クリントはアメリカの申し子です。彼はかねがねアメリカが世界に輸出できるものはジャズと西部劇だと言っていました。西部劇は彼を世に出し、ジャズはかれの映画を支える柱となりました。ないものを求めずあるもので勝負する。好きなもので勝負する。いちばんよく知っていること、いちばんよく自分が理解できることで勝負する。彼がやったことといえば自らに徹することだけだ。それがどうして難しいのだろう。

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