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特集「銀幕のアーティスト」

2013年12月25日

特集「銀幕のアーティスト3」 推理作家ポー 最期の5日間 (2012年 ミステリー映画)

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監督 ジェームズ・マクティーグ
出演 ジョン・キューザック/ルーク・エヴァンス/アリス・イヴ

これ、だれ?

 細部はよくできているのだけど、ミステリーの王道を踏み外しているわ。真犯人がわかったとき「一体だれこの人」ポカンとしたわ。それまでどんなシーンに登場していたのか記憶に残っていなかったのよね。出演するシーンそのものが少ないから覚えていなかった。これは作劇の致命傷だと思うのよ。確かにね「羊たちの沈黙」にしても、犯人は自分を極力目立たなくして世間に顔をさらさず、名前をいわれても「その人だれだった」っていう程度の大物じゃない人物だった。しかしレクター博士の天才的精神科医とか、勇敢なヒロイン・クラリスとかの設定といい、FBI捜査官の動員といい、しばしば犯人を劇中に登場させるプロセスといい、寄って集って犯人を「大物」のムードに仕立てあげていく。でないと犯人がわかったときの劇的要素、もっというならサスペンスとしてのカタルシスが消滅してしまうからだ▼ポーという人物は40歳で没した短い生涯であったにもかかわらず波瀾万丈である。才能に恵まれていたが苦労性というか、不運と貧乏がついてまわった。両親とも舞台役者だった。父親はポーが生まれてまもなく蒸発、母親はポーが2歳のとき結核で没した。ポーはアラン家の養子となりエドガー・アラン・ポーを名乗った。ポーは大学に進学し勉強熱心な学生だったが失恋と養家の経済的不調で中退。賭博で小金を稼いだり陸軍士官学校に入ったりしたが落ち着かず、遠い親戚をたよってボルティモアに。そこでヴァージニアを知る。彼女が13歳、ポーが26歳のとき結婚。結婚年齢に達していなかったのでごまかした。幼妻は苦労のあげく極貧のなか結核で没する。ポーは編集者として雑誌の売上を飛躍的に伸ばすなど手腕を発揮するのだが、長続きしなかった。報酬面で報われなかったこともあるが、編集方針で対立するなど衝突も多かったのだろう。編集者から作家に。世界最初の推理作家の誕生である▼劇中の殺人事件はみなポーの小説を模倣している。「モルグ街の殺人事件」「大鴉」「告げ口心臓」「黒猫」。ポーは創造者であり改革者だった。彼の分析する頭脳は産むべくして推理小説という世界で初めてのジャンルを創生した。稀有な才能にもかかわらず器用貧乏というか、とんがりすぎた感性というか、もっと彼が愚鈍であればよかったのに。映画と関係のないことだが、ポーのめまぐるしい境遇の変化は生活力があったせいかなかったせいか、彼ははたして成熟した女性を愛せたのだろうか。劇中のヒロインもどこか少女、少女している。そんなミステリアスなポーのキャラのほうがよっぽどドラマティックである。まあいいか▼舞台は1849年のボルティモア。闇夜のなかで凄惨な殺人事件が発生し、かけつけたフィールズ刑事(ルーク・エヴァンス)は、その手口がポー(ジョン・キューザック)の「モルグ街の殺人事件」に酷似しているとわかる。ポーは恋人エミリー(アリス・イヴ)と相思相愛であるものの父親が反対し娘に近づくなと言われる。酒場で安酒を飲んでうさを晴らす毎日だ。ポーはある日新聞社では編集長と口論、帰宅するとエミリーが来て、自分の誕生日に開かれる仮面舞踏会でプロポーズしてほしいと頼む。大勢に囲まれたなかでは父も断りにくいからというのだ。しかしこれが裏目に出てエミリーは誘拐されてしまう。小説模倣殺人事件はつぎつぎ起こった。胴体を大鎌で二つに分断する「落とし穴と振り子」殺人。ドクロをつけた死に装束の男の乱入する「赤き死の仮面」事件、ほかにも切り取られた人間の舌や、鳥の死骸(「大鴉」か)や、グロテスクである。ポーは恋人を助けるため自ら毒杯を仰ぐことになる。致死寸前のポーが何度もつぶやく名前が実際にあったらしく、それもこの映画に取り入れられた。というふうに細部のデティールは立派に仕上がっているのに「これだれ?」は惜しかったなあ。それともわからなかったの、わたしだけ? ンなことないだろ。

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