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特集「銀幕のアーティスト」

2013年12月30日

特集「銀幕のアーティスト3」 もうひとりのシェイクスピア (2011年 史実に基づく映画)

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監督 ローランド・エメリッヒ
出演 リス・エヴァンス/ヴァネッサ・レッドグレーヴ/デヴィッド・シューリス

映画の豊かさと興奮 

 登場人物たちが歴史上の本物であることから「史実に基づく映画」としました。シェイクスピア別人説・複数説そのものを事実としたわけではないのですが「別人説」を縦糸に、天才劇作家の正体をめぐるエリザベス朝の王位継承を横糸に、ローランド・エメリッヒが頭脳を駆使した力作です。エメリッヒの守備範囲の広さは定評があり、本作(史劇)でみせたドラマティックな作劇術もさすがだと思います。彼が腑分け・統合するのはシェイクスピア、エリザベス1世、彼女の死にともなう継承劇の舞台裏、ペンと剣、政治と詩、權力によって塗り替えられた宮廷相関図と失われる王座。どれかひとつのテーマでも映画が一本できそうなのに、それらひっくるめて2時間におさめる手際は、やっぱり並の監督ではないですね▼ヴァージン・クイーンだといわれるものの、エリザベス(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)には数人の隠し子がいる。宰相ウィリアム・セシル卿(デヴィッド・シューリス)は今回も「静養」と称して女王=若き日のエリザベスをジョエリー・リチャードソンが演じる。よく似ているはずでヴァネッサの実の娘だ=を田舎に隠さねばならぬ。芝居の好きな女王はオックスフォード伯爵家に招かれたとき、息子エドワードに会う。まもなく父伯爵を亡くしたエドワードはウィリアム卿の考える密かな理由によってセシル家にひきとられた。文武に秀でた美しい青年に成長したエドワードを女王は愛する。女王の恋愛に危機を感じたセシル卿はエドワードを宮廷から追放。すでに女王はエドワードの子をみごもっていたわけね。セシル卿は自分の娘との結婚をエドワードに強いて辻褄をあわせるが、がっくりきたエドワードは屋敷に閉じこもり財産管理も政治的立身も放擲し、詩作に耽った▼中年となったオックスフォード伯爵(リス・エヴァンス)はサウサンプトン伯爵をともない評判の芝居を見に来た。作者はベン・ジョンソンという青年だった。観衆が熱狂しているときセシル卿の兵が劇場におしかけ芝居を中止させてしまう。セシル卿は芝居という軟弱なものが嫌いである。女王の後継者にスコットランド王のジェームズを据えようとしていた。エドワードにとってセシル卿は義父だが、チューダー朝の王たるべき者が後継すべきだと考えていた。エドワードが庇護するサウサンプトン伯も、エリザベスの隠し子と噂されるエセックス伯も強力なチューダー派だった。セシル卿は芝居の好きな女王からエドワード伯一派を遠ざけようとしていたのは、そもそも王位後継者の選択で対立していたからだ。しかも女王は自分の王位を狙ったメアリ(スコットランド女王)の息子ジェームズを後継者とする気はさらさらなかった。だからどうしてもセシル卿にとっては女王が頼りともし、寵臣でもあるエドワード一派を排斥し、次期王位王の地ならしをする必要があった▼そこへなぜシェイクスピアがからむのか。この映画は始まって早々にシェイクスピア別人説の根拠を明かしているのでネタバレさせてもさしつかえないでしょ。エドワードはせっせと戯曲やら詩を書いていたが義父の芝居嫌い、文学嫌いの手前発表できなかった。それに貴族は文学や芝居などの〈虚業〉に手を染めるものではないという時代だった。エドワードは屋敷にベン・ジョンソンを呼び自分の作品を彼の名前で発表するよう命じる。こうして「ハムレット」「リチャード三世」「ロミオとジュリエット」「十二夜」「マクベス」つぎつぎ上演される傑作にロンドン市民は劇場で作者を出せと熱狂した。それを楽屋で聞いていたシェイクスピアのいう田舎出の役者が(彼はベンが傀儡であることを知っていた)図々しく舞台に姿を見せ、観衆は彼を胴上げまでした▼まだまだナンだ、カンだとエメリッヒの細密な筋書きはあるのだが、最大の秘密が暴かれるのはエドワードとエリザベスの関係である。それはただ若き日の女王と貴族の情事ではなかった。セシル卿が意図あってエドワードを婿に引き取ったのはエドワードの孫が必要だったからだ…その孫こそがエリザベスの血を引く王位継承者になるはずだった。セシル卿の息子ロバートは父の死後閣僚として政務をになうが、彼は背中が曲がり貧相で、子供のころから美々しいエドワードに対し嫉妬とコンプレックスのかたまりだった。復讐の時がきた。エドワードに父だけが知っていた、そして女王にも知らせていなかった秘密を、ロバートは耳から毒を注ぐようにエドワードに打ち明ける。「女王は最初の子を16歳で産んだ。その男児を父は女王の〈静養先〉からオックスフォード伯爵に預け養子とした。わかるか。父はその子が成人したとき本当のことを告げ王位後継者とするつもりだった。でも父は見抜けなかった。あなたが政治家としては落伍者で、財産管理にも無能、興味の対象は詩作だけ。財産を蕩尽し伯爵家は破産状態。しかしまさか…どうだ、ギリシャ悲劇みたいに甘美だろ」(…)の箇所が本作のクライマックスです。もうおわかりですね▼さてシェイクスピアはどうなったか。彼はその後田舎に帰り平凡に生き52歳で死んだ。魂の抜け殻になったエドワードの創作の泉は枯れ果て、シェイクスピアも隠遁するしか道はなかったらしい。のちイギリスの初めての桂冠詩人となったベン・ジョンソンが本物の〈シェイクスピア〉に追悼文をささげています「言葉だけがあなたの遺産だった。あなたは時代の魂だった」それはそうですが、でもこういうもっともな献辞より、ローランド・エメリッヒの想像力が描き出した映画の豊かさと興奮を堪能したほうが楽しいですね。

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