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特集「銀幕のアーティスト」

2013年12月31日

特集「銀幕のアーティスト3」 ニキフォル 知られざる天才画家の肖像 (2006年 伝記映画)

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監督 クシシュトフ・クラウゼ
出演 クリスティーナ・フェルドマン/ロマン・ガナルチック

胸を打つ絵 

 「シネマ365日」の平成25年の締めくくりはこれです。原題は「わたしのニキフォル」。役所に勤務するマリアン(ロマン・ガナルチック)は催事の美術担当で看板やポスターを用意したりする。彼自身画家である。ある日彼のアトリエにニキフォル(クリスティーナ・フェルドマン)が入ってくる。彼はかなり高齢で言語障害があり、読み書きも不自由だ。観光客相手に絵を売る彼は町でみなれた光景だ。ぼろぼろの服にクビから大きな名刺(というか自己紹介のカード)をぶらさげ、観光客の前に行く。追い払われることもあればお金だけくれる客もある。マリアンのアトリエに居座ったニキフォルは、勝手に絵の具は使う、お茶は飲む、図々しく仕事場を占領し礼をいうどころか「お前の絵は下手くそだ。建物の描き方も知らん。お前は描くのをやめろ」言いたいことをいい、ステッキでドアを指し「開けろ」。憤懣やるかたないマリアンであるが、なぜかニキフォルを見捨てられない。自宅の物置にニキフォルを引き取ることにした。マリアンに昇進異動が持ち上がり、妻も「気の毒な人だから」と任地に引っ越すまでのあいだニキフォルを置くことを承知した▼マリアンの上司はある日ニキフォルの絵が新聞で紹介されると、今まで「あんなやつ追い出せ」と言っていた態度を一変、アトリエを彼に明け渡し自由に製作させるよう指示する。しかしマリアンは引っ越さねばならない。身寄りのないニキフォルを、だれかみてくれる人はいないのか。家族はいないのか。わずかな情報を頼ってニキフォルの身元をさかのぼっていったマリアンは、かろうじてニキフォルの母親は洗濯女、父は画家だったらしいという噂を訪ね当てる。家族についてどんな情報を聞いてもニキフォルは無関心だ。マリオンはボロクズのような服を着ているニキフォルに、こざっぱりと身なりを整えてやるが、「きれいにしたら金を恵んでくれない」そして相変わらず道端で絵を売るのだ。マリアンはいつも咳をしているニキフォルを友人の医師にみせた。重度の肺結核だった。頑なに入院を拒むニキフォルをマリアンは強引に入院させる▼いつもニキフォルにつききりの夫に妻は不満を募らせる。あまつさえ結核である。娘たちに感染する。ツベルクリン反応をみる。学校で娘たちはホームレスとつきあう変わり者の父親のおかげでいじめにあい、妻はパーティの招待が減った、つまはじきにされているとヒステリーを起こす。そこへとどめの一撃。マリアンは「ニキフォルは長くないのだ」という理由で、看取るまで引っ越しを延期するというのだ。あいた口がふさがらない妻は娘たちをつれ家を出てしまう。自分の看病をするマリアンにニキフォルは、マリアンの妻を描いた描きかけの絵をわたし「お前が仕上げろ」「君が(元気になって)自分で描けばいいのだよ」というマリアンに「お前なら描ける。教えることは教えた」▼一日3点、50年以上にわたって描き続けてきたニキフォルの絵は、不思議な魅力で人をひきつけた。それを認める人たちが徐々に現れた。1967年ポーランドの首都ワルシャワのザヘンタ美術館は大々的なニキフォルの展覧会を開いた。有名人に取り囲まれたニキフォル。記者会見の席にニキフォルが現れない。マリアンが探しにでるとおだやかなひざしのなかにニキフォルがひとりでいる。会見をすっぽかしたニキフォルは高名な画家の絵を「くだらん」「おもしろくない」にべもなくこきおろし、マリアンに「ラジオの電池をとりかえろ。天国にラジオはあるのか」「あるだろ」「どんな?」「よりどりみどりさ」そんなことをしゃべりながらふたりは歩いていく。抒情歌のようなシーンだ。ニキフォルはこの一年後没した。明けても暮れても描き続けた4万点の遺作を残して。マリアンは独白する「世間に相容れぬ生き方を最期まで貫き、ニキフォルは息を引き取った。汚れのない素朴なその芸術性はいまや世界的に認められている」▼ニキフォルを演じたのはクリスティーナ・フェルドマン。今年87歳(1920年生)のポーランドの大女優。ニキフォルに生き写しの演技は、ポーランドはもとより、インド、スペイン、フィリピンなど各国の主演女優賞を独占しました。クシシュトフ・クラウゼ監督は1953年ワルシャワ生まれ。30代半ばで長編デビューし、本作でシカゴ国際映画祭グランプリを受賞。影響力の強い監督として注目を集めています。彼のニキフォルの捉え方は後世が貼った「天才」のラベルに惑わされず、感傷に堕さず救いのない彼の人生を、他の生き方を選択しなかった人生、ニキフォルをニキフォルとしてしか生きようとしなかった気質の人を刻印しました。一生の最初にして最後だった、美術展に並んだニキフォルの絵は胸を打ちます。女優が男性を演じて高名な映画賞をとった例に「危険な年」(1984)のリンダ・ハントがいます(アカデミー助演女優賞)。女優がもっとも適正な役柄として男性を演じることは特異なことではなくなっていく、そんな可能性の広がりをクリスティーナ・フェルドマンは示しました▼今年一年、ご愛読ありがとうございました。明日からまたあたらしい「365日」が始まります。どうぞよいお年をお迎えください。

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