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特集「ダンディズム-dandyism-」

2014年1月12日

特集「ダンディズム」 スティーヴ・マックィーン 華麗なる賭け (1968年 犯罪映画)

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監督 ノーマン・ジュイソン
出演 スティーブ・マックイーン/フェイ・ダナウェイ

男が惚れる男

 「華麗なる賭け」よりもっとスティーヴ・マックィーンの代表作にふさわしい映画はありますが、しかしなんというか、この作品、マックィーンの映画のなかでは異色なのですね。ノーマン・ジュイソンは本作の3年前に「シンシナティ・キッド」で「静のマックィーン」をとらえましたが本作は全然ちがう。マックィーンのファンであれば身悶えするほど、ファンでなければアタマにくるほどカッコよさをこれでもかとみせつける映画です。ノーマン・ジュイソンは「華麗なる」の前年シリアスな社会派「夜の大捜査線」でアカデミー監督賞を受賞しました。30代後半から40代、気力体力ともに充実し映画作りのテクはもはや自由自在という時期に、この監督は「こんなマックィーンもアリだよ」という新局面を創ったのです▼「大脱走」でヒーロー像の、「ブリット」で車の常識を変えたマックィーンが本作でみせた〈びっくり〉のひとつはまちがいなくコレ「三つ揃いのスーツ」でしょう。マックィーンは大のマスコミ嫌い。記者会見でもインタビューは映画の内容に厳しく限定し、質問が私生活に及ぶと黙って席を立つ、そういう気難しい性格の彼が着たスーツ姿は、辣腕のビジネスマンがきこなす戦闘服のような緊張感をただよわせビシっと決まりました。冒頭登場するのはグレンチャックのミディアムグレーのスーツ、シャツとタイはブルーグラデーション。すべてのスタイルでベストを組み合わせたスリーピースを着用します。173センチという小柄ですが、しなやかな体躯にきびきびした敏捷な動き、小さな頭に短い髪、バランスのいい手足の長さが体全体をすっきりみせます。無地の背広を着用するときはポケットチーフだけが柄物。パンツは細身。ブリオーニのスーツのアクセントは、昼と夜で異なるネクタイ。昼のコーデュネイトはシックの紺でビジネスマンらしい落ち着きを、夜はタイとチーフを赤にして華やかさを。マックィーンは男が惚れる男です。歯軋りしたくなるような、憎らしくなるほどのダンディズムがあふれています▼マックィーンが38歳で、共演のフェイ・ダナウェイが27歳でした。フェイはツバ広帽子にミニスカート。彼女が登場する最初のシーンを、監督は正面からのクローズアップで決めました。本作の一昔前、ローレンス・オリヴィエが「王子と踊子」でマリリン・モンローを撮ったアップの手法を思い出します。最近ではアンジーが「ウォンテッド」で使っていますね。たいした映画ではなかったけど監督の「この女優を見よ」的意図だけは充分伝わっていました。マックィーンとフェイとのからみは、よく長いチェスの場面がいいと言われるのですが、実際それもいいのですけど、ふたりともジレジレしながら頭の中ではチェス以外のきわどいシーンを描いていることがありあり。指や唇やうっすら覗く前歯を、アップに映す監督の手練手管が鮮やか。でもやっぱりここがよかったな。マックィーンがダナウェイを連れて浜辺でバギーを乗り回す。腰をおろし波の高い海をふたりで見る。人がだれもいない孤独な荒れた風景をまえに女が聞く「ここにだれをつれてきたの」「妻だけだ。妻以外では君だけだよ」キザ~と思いながらうっとりするのはダナウェイだけではないはず▼この映画のもうひとりの主人公を紹介したいです。アカデミー主題歌賞をとった「風のささやき」です。作曲ミシェル・ルグラン。作詞はアラン&マリリン・バーグマン夫妻。「終わりも始まりもなく円を描く 永遠に回り続ける輪のように」で始まる歌詞は、とめどなく過ぎゆく時間と空間のなかで、演じられるものすべてが輪廻のように回っている、不安な現実を描いています。主人公のマックィーンが自家用機で大空をゆっくり旋回するシーンに、歌詞全部がまるで劇中劇のように歌われます。これと同じ主題歌の使い方が「突然炎のように」でありましよね。フランソワ・トリュフォーは「小さな劇」のような素晴らしい歌詞をジャンヌ・モローに歌わせている。そういえばこの映画のラストシーン「先に行く。金をもってくるか残るかは君の自由だ。愛している」というマックィーンのメモをダナウェイは細かく裂いて空中に撒く。男とはもうこれきりである。うまく逃げおおせてくれたという安堵感と(大富豪である主人公の趣味は銀行強盗です)離別の寂しさがこみあげる。飛行機の飛び去ったあとのよく晴れた空。叙情にみちた明るい虚無感。最高のセンスでした。

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