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特集「ダンディズム-dandyism-」

2014年1月14日

特集「ダンディズム」 スティーヴ・マックィーン ブリット (1968年 アクション映画)

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監督 ピーター・イェーツ
出演 スティーヴ・マックィーン/ジャクリーン・ビセット/ロバート・ヴォーン

ロンサム・ボーイ

 スティーヴ・マックィーンの三人目の妻バーバラが語る夫の夢は、アイダホで小さな雑貨店を開くことだった。1956年の「バス・ストップ」でマリリン・モンローが立っていたノース・フォーク・ストアという店を買収したがっていた。マックィーンはマリリンの大ファンだった。マリリンとマックィーンには意図せぬ共通項がある。どちらも孤児の匂いがついてまわる。スタジオの撮影現場にいて大勢のスタッフに取り囲まれていてもマリリンの周囲には〈独り〉の空気がたちこめていた。マックィーンはどうだったか。彼と不思議と気があって家族ぐるみのつきあいをしたのが、本作でも共演したロバート・ヴォーンだ。彼によるマックィーン像はかなり複雑で「子供のころから社会から隔離された存在で、社会が自分を認めてくれないという不安とコンプレックスが強かった」そんなマックィーンは自分が社会からはみだしたロンサム・ボーイだということを積極的に示した。気難しかったマックィーンが心を許した数少ない写真家、ウィリアム・クライストンは「彼がもてたいちばんの理由は、ストイックな厳しい男のキャラクターと、それと相反する母性をくすぐる〈ロンサム・ボーイ〉のコンビネーションによる」と分析している▼「ブリット」においても例外ではない。マックィーンが運転するフォード・ムスタングと敵のダッジ・チャージャーによるカーチェイスが伝説であると、そればっかりいわれるが、それに自身もレーサーだったピーター・イェーツ監督だから約10分、車2台が走りまくるセリフなしのシーンはいま見てもいいが、もっと繊細でシャープな映画言語を語れるのがイェーツ監督だと思う。ブリットは仕事熱心だが決して反社会的ではない。群れない男ではあるが自分から人を排斥しようとはしない。それどころか男同士の友情や連帯がこの映画には色濃い。ブリットの上司の警部は「結果をだせ。好きなようにやれ。おれがかばってやる」と理解があるし、ブリットを目の敵にする上院議員(ロバート・ヴォーン)に対して「この件はブリットに任せたことです」と体を張って介入を阻止する。ブリットの恋人のジャクリーン・ビセットは車をとりあげられたブリットを乗せて自分の黄色いオープンカーを運転し殺人現場に急行する。殺人や犯罪に不感症になったブリットに「あなたの世界は暴力と死よ。私とは遠い世界ね」と愛想尽かしをしたかと思えば、仕事一途な疲れた男をやさしく待つ。こうみるとブリットってやつ、どこが孤独なのか。けっこう調子よくできているのである▼スティーヴ・マックィーンは本作で100万ドルスターになった。無造作な所作・動作がこれほど絵になる役者はいなかった。その極めつけが「ブリット」にはいくつもある。まずここを見よう。捜査の合間にブリットが食事する。看護婦詰め所の受付の前で、病室に収容された被害者から目を離さず、立ったままサンドイッチをほおばる。かぶりつく。いかにも男の食べ方だ。ガブッとかぶりついてそそくさと嚥下する。マックィーンという男は「大げさ」なことが大嫌いで、それでいてさりげなく自分を目立たせる名人だった。忙しい刑事が無心にサンドイッチを食う。粗末な食事を立ったまま食う。うまいとかまずいとか関係ない。これが仕事をする男の〈スタイリッシュ〉なのだと信じさせる無言のシーンが、おそろしく雄弁だ▼空港に犯人を追い詰めるときのアクション。目を見張るようなきれいなアクションではない。もともとマックィーンは小柄で、ムキムキのマッチョではなかった。彼の筋肉はジムやトレーニングで人工的に鍛えた装飾的とも言えるそれではない。野生動物が備えている自然な筋肉と動きであり、撮影用にこしらえた派手な肉体ではないのである。だから五輪選手顔負けの走りもできないし、フォームも華麗ではない。高いところから飛び降りたらこけてしまうし、走るときは足がもつれたりする。安月給の刑事が着るジャケットにコートだから既製品もいいところだ。体に合わずだぶついているので、マックィーンは追跡の途中走りながら脱ぎ捨ててしまう。紺のタートルネックが似合うのは首が細いからである。シル(スタローン)のようにドスンと太い首ではこうはいかない。一言で言えば彼のアクションもファッションも無造作だ。ただし計算されつくした無造作だった。マリリンのセックスアピールと同様、マックィーンのロンサム・ボーイも計算されつくした無造作も、彼らが最も〈なりやすい自分〉として、さりげなく身におびた武器だった。マックィーンは日給19ドルから這い上がり、タフネスとシャイネスで女を魅了し、100万ドルスターとなった。その男の最後ののぞみが田舎の雑貨店の親父になることだった。男でも女でも一度は切ってみたい啖呵というのがありはしないか。ブリットはこんなセリフをいう。「言っておくがおれはあんたが嫌いだ。今夜だけは勝手な熱を吹くな。妥協も必要だ? やかましい。消えちまえ、クソ男」自分の生き方にだれにも口をはさませないやつ。「ブリット」が今でもしびれるのは車だけじゃないからだ。

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