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特集「ダンディズム-dandyism-」

2014年1月15日

特集「ダンディズム」 スティーヴ・マックィーン パピヨン (1973年 社会派映画)

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監督 フランクリン・J・シャフナー
出演 スティーヴ・マックィーン/ダスティン・ホフマン

頼むからやめてくれ 

 この映画のダンディズムですか。いくつかありますね。スティーヴ・マックィーン扮する囚人パピヨンが、独房にヤシの実を差し入れしたのはだれだ、と責められても親友ドガ(ダスティン・ホフマン)の名をださず〈地獄の独房〉2年間の罰を食う。ハンセン氏病患者のいる島で逃亡用のボートを調達しようとするパピヨンに島のリーダーが「葉巻は好きか」とパピヨンにきく。好きだと答えると「これを吸え」と自分が咥えていた葉巻を出しだす。彼の容貌はすでに変形している。パピヨンは黙って葉巻を咥え、煙を吐く。リーダーは感染しないことを教え、パピヨンを試したことがわかる。彼はパピヨンに島民からのカンパだといって大金を与え脱出行の足しにしろと言う。でもやっぱりつぎの、ここだな▼脱獄を繰り返し再度独房送りになったパピヨンが5年後、過酷な監禁生活に衰え、もはや脱獄の体力も気力もなく、極悪犯を終身収容するフランス領ギニアの「悪魔島」に送られる。急な潮流とサメが島からの脱獄を防ぐ。そこにドガがいた。パピヨンはなつかしさのあまり駆け寄るが、パピヨンだと認めたドガは逃げる。彼はここで平和に幸福に暮らしているのだ。親豚に子豚数頭、名前をつけ鶏が餌をついばみ、犬もいれば人参のタネをまき収穫を楽しみにする。一生この島からでられないが、あきらめてしまえば平安に恵まれた余生だ。そこへ脱獄フェチのパピヨンが現れるなんて、そもそも彼の囚人生活を急転直下させたのはパピヨンである。ドガはいう「お前に会いたくなかった」。パピヨンは性懲りもなく脱獄の計画をたて「いっしょにくるか」とドガに確かめる。「もちろんだ」とドガは答える。ヤシの実のボートをこしらえ7回に1回くる大波に乗れば島を離れられる。ふたりは断崖から岸壁を咬む波を見下ろす。パピヨンがボートを投げ落とした。行くぞ。そのときだ「話がある、パピ」とドガ。「ルイ(ドガの名前)なにもいうな」「おれは行けないンだ。すまない」「いいさ」「死ぬぞ。わかっているのか」「かもな」「頼むからやめてくれ」すがるようにひきとめるドガをパピヨンはやさしく抱きしめる。じゃ。ドガはうなずく。もう一生会うことはない。このときのドガである。海に飛び込んだパピヨンに万感を込めてうなずく。ただうなずく〈男の別れ〉は映画史上に残るシーンをつくっている。ダスティン・ホフマンのいくつもの名品はあるが、オスカーでもなんでもなかったが、なにがいちばんよかったかと聞かれれば迷わず「パピヨン」のこのシーンをあげる。フランクリン・J・シャフナーは長編脱獄絵巻をきびきびとまとめあげ、見応えのある大作にしたが、最後のいちばんいいところをさらっていったのはダスティン・ホフマンだ。やっぱりこんなやつが出演することを、マックィーンはOKすべきじゃなかったのだ▼もちろんマックィーンもよかったですよ。マックィーン自身の性格に反体制の申し子みたいなところがありますからね。少年院から何度も脱獄を試みているし、なにしろ彼の名を決定的にしたのは「大脱走」だし。本作における主人公の脱獄は脱獄という行為そのものが生きがいだったと思える。無実の罪で刑務所入り、それも生きてでられるのは不可能という独房監禁生活を合計7年。悪魔島に送られたとき髪は白くなり、歯は抜け、背中は丸くなっていた。ドガは精悍だったパピヨンの見る影もなくなった姿に辛くなる。パワーあふれる壮年期のパピヨン時代もいいが、老いてなお不撓不屈のエネルギーを秘めた男を演じたマックィーンのかげりのある演技に脱帽。このときマックィーンは43歳。中年期の陰影が濃かった。でもそれだけではなかった。彼はわかりにくい疲れを感じるようになっていた。この年撮られた「タワーリング・インフェルノ」でマックィーンはとうとうポール・ニューマンとトップクレジットに並ぶ。彼は「傷だらけの栄光」で主演したポール・ニューマンに追い付くことを長い目標にしてきた。それを果たしたのだ。このころから彼の疲労感は強まっていく。撮影もつらそうなときがあった。中皮腫と診断されたのは「トム・ホーン」の撮影中だったがすでに末期だった。「パピヨン」はマックィーンがマックィーンらしい全力投球で完成させた最後の映画だったといっていい。

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