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特集「ダンディズム-dandyism-」

2014年1月22日

特集「ダンディズム」 アラン・ドロン 高校教師 (1972年 恋愛映画)

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監督 ヴァレリオ・ズルリーニ
出演 アラン・ドロン/ジャンカルロ・ジャンニーニ/ソニア・ペトロヴァ/アリダ・ヴァリ/レア・マッサリ

弱者の美学 

 本人はこの映画気にいっているみたいなのですけどね。アラン・ドロン自薦の5本の映画のうちに入っていましたよ。どこがいいのだろ。いちばん気に喰わないのは「アラン・ドロンありき」から始まっていることよね。無精髭のばしてズルズルした厚いオーバー着て、出演中ズーッと同じセーターよ。髪はどことなく垢でコテッとしている。あのね、こんな下着の臭いすらしそうな男にどんな女が近づくのよ。まして男の肩にフケを見つけただけで眉をひそめる年頃の、19歳の高校生と恋愛関係になるっていうのよ。ブッ飛んでしまうわ。フケ男がアラン・ドロンだというだけであらゆる障害を乗り越えていくのがこの映画よ。アラン・ドロンが人生に挫折した、落ちぶれた中年男を演じるという触れ込みで話題になったけど、アラン・ドロンってときどきこういう変装趣味があるのよね。きれいな男が汚い格好をするのにダンディズムを感じるという▼ところがこの陰気な映画に不似合いなほど派手やかな助演陣がそろった。女優はまずアリダ・ヴァリである。「パラダイン夫人の恋」では英語のセリフを全編吹替なしで通し、さしものヒッチコックも彼女の女優根性に敬服したとか、ルキノ・ヴィスコンティの「夏の嵐」は彼女なしでは考えられなかったとか、いくつかエピソードはあるが、この映画のラストシーンで彼女は映画史の記憶に残る女優となった。「第三の男」だ。ウィーンの大観覧車を背景に主人公に見向きもせずまっすぐ前をみてカッカッと足早に去っていくとびきり姿勢のいい女。彼女がヒロインの女子高生の母親になる。出演はわずか1シーンだけど娘に気があるアラン・ドロンを一撃で追い返す異様ともいえる容貌の迫力はさすが。レア・マッサリ。アラン・ドロンの病的な妻役。ルイ・マルの「好奇心」で思春期の息子とのアブナイ関係もよかったが、航海中のヨットからすっぽり消えてしまい、その後劇中で放りっぱなしにされた女を演じ、女優のこんな、前代未聞の扱い方もアリなのかという前例を作ったミケランジェロ・アントニオーニ監督の「情事」がよかった。本作では自分を顧みなくなった夫に怨念のありたけをぶつける妖怪のごとき妻に扮する。男優ではジャンカルロ・ジャンニーニ。無人島に流された男女が主格交代し、雇い主のタカビー女を足蹴にする召使に扮して世界に知られた。本作のときは30歳。黒々した濃い眉、切れ込みの強い力のある目、なかなかいい男でして、アラン・ドロンじゃなかったらあんな頼りない高校教師、彼に食われていたでしょうね▼それに女子高校生アバティ役のソニア・ペトロヴァ。こんな色気過剰の女子高生ってアリか。ガキどもがいる教室のシーンで完全に浮きあがっていたわ。アラン・ドロン先生は一目惚れ。いったいいつ学校にいくの、と心配になるほど彼女のあとをつけまわし、あちこち彼にとって曰くある土地に車で連れて行き、何百年か前の聖母像の絵の前で解釈し、するとまあふたりはよく話があって、ますます仲良くなり理解を深め先生がいうには「君と遊びたくて君の行方を探していたのではない。君の心の痛みやどうにもできない憂いが見ていられなくて。君を知りたいのだ」先生、臨時教員の身でそんなこと言っているヒマがあるのかよ、たまには仕事したらどう? 先生に気のある酒場の女が「あの女は災難よ。たくさんの過去、少しの現在、未来はゼロ」言い得て妙というべき忠告を与えるのだが先生は馬耳東風▼でも先生にもつらい過去がありましてね。相思相愛の従姉妹との恋愛がうまくいかなくて彼女は16歳で自殺しちゃったのです。先生の実家は名門で錚々たる人材を輩出している家系。先生だって一流大学を優秀な成績で卒業した前途有望な青年詩人だった。でも恋人の死から立ち直れなくて出奔、現在の妻と結婚し海辺の田舎町に流れてきた。妻はリビア(従姉妹の名前)が死んだのは「あなたが人を愛せない人間だからだわ。あなたは苦痛のオアシスに逃げ下手な詩を書き続けるのよ」と、わりと当たっていることを言い、先生をズタズタにするのがもはや生きがい▼先生はとうとう妖怪妻をすてる決心をして女子高生のいる町に車を走らせます。夫の決心を知った妻は「あなたが部屋をでたらすぐガス栓をひねってやる」と捨て台詞。でも先生はそんな脅しに何度ものるものか、と今度の決心は固い。でも町から遠ざかるにつれ「もしほんとにやったらどうしよう」と心配で、友達に電話してすぐアパートにいって安否を確認してくれと頼む。妻のほうは夫の優柔不断を先刻承知で、だれがノックしようとドアを開けない。それを聞いた先生は胸騒ぎを抑えられず、ついに車をU ターンさせる。これが悲劇の結末となります。あ~あ。でもここまで見て、アラン・ドロンが本作を気にいっているのは結局妻をすてきれないで男が引き返したところでしょうね。どうしようもない弱者の美学にかれは男のダンディズムを見出していたのです。強いからできることだけどね。

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