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特集「ダンディズム-dandyism-」

2014年1月23日

特集「ダンディズム」 アラン・ドロン ショック療法 (1972年 サスペンス映画)

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監督 アラン・ジェシア
出演 アラン・ドロン/アニー・ジラルド

ちょっとした佳品

 アラン・ドロンの半世紀に及ぶ俳優活動で、彼は70本以上の映画に主演。名匠、巨匠あわせ世界的な監督のもとで挑戦に値する意欲的な取り組を示してきました。否やはございません、はい。ハリウッドにまで進出し、慣れない英語でセリフをしゃべり、フランス人には肌感覚の合わぬ西部劇にも出演し、大いに気を吐いたが時代は美男子よりワイルドな男を求めていたという不具合に遭遇、フランス映画界に帰還しました。アメリカでの失敗は彼に嫉妬するすべての男と女を大喜びさせましたが、アラン・ドロンのほうが上手だった。背徳と犯罪がふしぎなくらい似合うこの20世紀のジュリアン・ソレルは、ハリウッドなどおれのほうから洟もひっかけてやらない、という威風堂々のポーズで凱旋ました。たとえ猫の子一匹いない野原であろうと荒野であろうと、100万の観衆が迎えるのと同じポーズをとれるのがアラン・ドロンのダンディズムなのです。そこにいるのがだれであろうと関係ない。たったひとり自分がいればよい。彼のダンディズムの本質は一言で足ります。すなわち究極のナルシズムです▼アラン・ドロンはときとして、過剰なナルシズムが変形した、なんでまあこんなしょうもない…とでもいいたくなる「呪われた映画」を何本か撮っています。その最たるものの一本が本作「ショック療法」でしょう。これにさきだつ12年前「若者のすべて」で共演したアニー・ジラルドをどうやって納得させたのかわかりませんが、当時フランス映画を代表する二人が、そろってトボけたとしか思えない。脱ぎたがりのアラン・ドロンはこのときとばかりわれ先にとヌードになって(4年前の「あの胸にもういちど」でもやっている)クレージーな医師を劇画的なまでに熱演しました。彼は劇中アニー・ジラルドにナイフでぶすぶす腹を刺され、のたうちまわって死んじゃうのです。こんな役を引き受けるなんて、アラン・ドロンにはまちがいなくマゾヒスティックな一面があります▼でもこの映画にはおもしろいところもあって、いまでいうアンチエイジングの先駆けのようなシチュエーションがあります。36歳になるエレーヌ(アニー・ジラルド)はしのびよる老いにおびえている。彼女は婦人服工場の経営者。生まれながらの手腕と美貌、知性で欲しいものを手にして来たが、恋人が若い女に走ったのだ。年齢の事実をつきつけられた彼女は茫然自失。初めて自信を失くし、ゲイの男友達に連れられドクター・デビレ(アラン・ドロン)のサナトリウムにやってきた。ブルターニュの荒々しい海岸にあるその施設にはパリのセレブたちが金にあかせて「若返り」に血道をあげている。デビレは大都会の喧騒とビジネスに疲れた富豪患者に、エネルギーと活力を取り戻させる療法を施すというのだ。エレーヌは自家用機で到着したデビレと初めて面談する。年齢による女の喪失感を打ちあけるシーンはさすがアニー・ジラルドです。低い声でぽつぽつセリフを語るだけで、エレーヌという女の背景が立ち上がってくる。それを黙ってひたすら見つめるデビレ先生のマアきれいな青い瞳。男女年齢国籍不問、相手がだれであろうと、たとえ地球外生物であろうと、その気になれば、あなた以外いま僕の世界にはだれもいませんと信じさせるのがアラン・ドロンの真骨頂です。耳元で訴えているのと同じです。エレーヌはすっかり先生の磁気に吸い込まれてしまいます▼やがてエレーヌはスペインかポルトガルから施設に就職した10代の男の子たちが、ときど貧血をおこしプールにはまるのを目にします。気候が違うからという施設の職員の説明です。エレーヌも最初そうかと思っていましたが、ある日少年の一人が青い顔をして「自分を連れてここから逃げてくれ」と頼んできたことに異常を覚えます。その少年はほどなく死体で発見されました。エレーヌをここに連れてきた男友達は、事業の資金繰りが逼迫し宿泊の支払いを延ばしてくれとたのんだとたんフロントは冷たく出て行ってくれと言う。その男友達もまた断崖から墜落死しました。不気味な空気がエレーヌをとりまき、彼女はパリに帰ることにしますが、デビレ先生は「止めはしません。あなたは自由です」といいながら悲しそうな、つらそうな、すがるような目をする。エレーヌはグラっときて先生とできちゃう。無機質な宇宙船みたいな施設の内部、組織を分離する遠心分離器の低い回転音、少しずつ正体を現すアンチエイジングの仕組み、体内に注入されたとたん心地よくなる注射の組成、などなどのディテールがあきらかになるにつれ、謎と恐怖が膨張していくプロセスはなかなかのもので、そういえば最後のオチはかなりスケールが大きかったです。ばかばかしいかもしれないけど、愚かしい映画ではないです。アラン・ドロンの狂気に浸った医師の反社会性が、現実離れした物語の設定にフィットしているからでしょうね。

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