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特集「ダンディズム-dandyism-」

2014年1月26日

特集「ダンディズム」 アラン・ドロン フリック・ストーリー (1975年 事実に基づく映画)

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監督 ジャック・ドレー
出演 アラン・ドロン/ジャン=ルイ・トランティニャン/クローディヌ・オージェ

アラン・ドロン中期の傑作 

 「男度」満開ですね。男同士が死命を決する緊張感でスクリーンがひきしまっている。みどころはもちろんアラン・ドロンの刑事ボルニッシュと、脱獄した凶悪殺人犯ビュイッソン(ジャン=ルイ・トランティニャン)の対決ですが、もうひとつボルニッシュと彼の上司とのやりとりが面白い。ボルニッシュは署内のスーパー刑事と新聞にまで書かれる仕事好きのやり手だ。恋人のカトリーヌと係長に昇進したら結婚するつもりだ。いまだって「係長のようなものだが」と署内での実力派であることを自分でも否定しない。ときは1947年。まだ戦後の余塵と混乱がただようパリで凶悪犯ビュイッソン脱獄の一報が入る▼ボルニッシュの上司は警視庁より速く手柄をたてて点数を稼ぎたい。そこで一の部下ボルニッシュに「逮捕したらすぐさま係長に推薦、にがしたら田舎に飛ばす」とプレッシャーをかける。なりふりかまわぬ出世主義が無邪気なほど露骨な上司です。ボルニッシュも組織で動く男社会を生き抜くのだから、適当に上司をあやしている。話が少し前後するがボルニッシュに追い詰められたビュイッソンが二階か三階の窓から飛び降りるシーンがあります。ジャン=ルイがああ見えて猫みたいに背中を丸めて飛び降りちゃうのだ。好敵手を得るとやたら燃えるのがアラン・ドロンの常で、ジャン=ルイを相手役に迎え、一見ドン臭そうな彼が体を張ったアクションで度肝を抜くのに、豹のようなおれがもたもたしておれるか、とばかりためらうことなく窓から身を躍らせ、もんどりうって地面に叩きつけられる。ジャン=ルイも勢い余って転げ落ちるがいち早く態勢を立て直し逃走する。たぶんこのあとのセリフは、撮り直しがきかないシーンゆえ、アドリブ的に書き換えられたと思うのだが、上司が部屋でブスッとタイプを打っているボルニッシュを一瞥し言う「着地にも先をこされたな。報告書を出せ」このときのアラン・ドロン(今ちゃんと書いているのだ)無言でさっと両手でタイプライターを示す。こういう手つき、目つき、身振り、挙措のできる役者っていませんね。尻尾の先まで餡のつまったタイヤキみたいに、指の先まで「キザ」が詰まっている。こうなると「キザ」はもはや「きらびやかさ」ともいうべきとびきりのセンスになっています▼スーパー刑事の指揮にもかかわらずボルニッシュ・チームは失敗続きで、上司から閑職を命じられ、くさっているところへビュイッソン追跡の手がかりとなる事件が起こった。喜び勇んでチームは現場に飛んでいき、こういう作戦で追い詰めたいと上司に報告する。彼は「なに? 犯人にホテルを世話し、我々を撃つ銃までくれてやれというのか」と激怒。カンカンの上司にボルニッシュはメモを残して無断で出かける。こう書いてある「ホテルでビュイッソンと昼食をします。コーヒーでも飲みにおいでください」「行かいでか」怒り心頭の上司は飛び出す。こういう一連の、観客を引き込むなめらかな誘導術は「ボルサリーノ」「同2」「太陽が知っている」「もういちど愛して」などで呼吸がピッタリあっているアラン・ドロンとジャック・ドレー監督ならでは、でしょうね▼ジャン=ルイですが「陰」の気が凝固した連続殺人鬼の凄みを滲ませます。ものも言わず銃をぶっぱなす殺人マシーン。相手が仲間だろうと女だろうとためらいはない。殺人が嗜好の域にさえ達している不気味さ。ジャン=ルイは長い俳優生活で善人や優柔不断な恋人や、最近作ではミヒャエル・ハネケ監督の老々介護の夫を演じましたが、本作の変態に近い殺人犯は彼の演技の最高の部類に位置すると思います。全身から狂気がほとばしる。落ち窪んだ小さな暗い目の奥が光る。中年の冴えない猫背の小男なのに、やっぱり普通の役者じゃないオーラを発散させます。映画は全体にテンポがゆっくりして大掛かりな捜査やトリックなどない。仕事に徹する男たちが黙々と義務を果たす、そのシーンを律儀に重ねていく。それなのに、アラン・ドロンが目立つのだ。緑のトレンチコートの襟を立てて足早に歩き、タバコをくわえながら電話で話し灰が落ちる、落ちる、ヒヤヒヤするのに気にする様子もなくしゃべり続ける。張り込みをする部下に大きな固そうなバゲットを配り、いくらか残しておけと注意する。いつまで張り込むことになるか見当がつかないからだ。彼らはたったままパンを齧り、小さな瓶の飲み物を飲む。こんな変哲のないシーンの連続なのに退屈を感じさせないのです▼獣のようなカンで危険を察知するビュイッソンがみせた一瞬の隙が、ピアノで演奏された「バラ色の人生」だった。彼は音楽が好きなのだ。ホテルのレストランに待伏せする刑事たちのひとりにボルニッシュの恋人のカトリーヌ(クローディヌ・オージェ)が加わり、昼食の合間にピアノを弾く。ビュイッソンが近づき「お上手ですね」と声をかけ鍵盤をみつめる。背後にまわったボルニッシュが背中にとびかかり、それを合図に全員が団子状態になってビュイッソンを取り押さえる。このかなり不細工なアクションが、リアルでなかなかよかったです▼ビュイッソンの取り調べは約1年に及んだ。36件にのぼる彼の犯罪の調書は積み上げてざっと1メートル。ボルニッシュはこの稀代の犯罪者にいつしか共鳴を覚える。ボルニッシュは午前中を休戦とし、尋問せずビュイッソンが新聞を読むのに任せる。必ず彼はフィガロを読む。なぜフィガロなのかときくと「フィガロを読むとムショで尊敬されるのです」ビュイッソンはていねいな言葉遣いで答える。彼は部屋の奥にすわり、隅からすみまで新聞を読みワインを手酌で飲む。ボルニッシュのおごりだ。みじろぎもせず座っているビュイソンの落ち着いた物腰に(なんて大胆なやつだ)とボルニッシュは感嘆する。ビュイッソンは1956年2月28日処刑された。アラン・ドロン40歳。人生のかすかな疲れを刻んだ、分厚いいい男になっています。さりげない日々の仕事に生きる「男」を演じた彼の中期の傑作です。

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