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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年3月2日

特集 LGBT-映画にみるゲイ マリー・アントワネットに別れをつげて (2012年 ゲイ映画)

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監督 ブノワ・ジャコ
出演 ダイアン・クルーガー/レア・セドゥ/ヴィルジニー・ルドワイヤン

献 身 

 ダイアン・クルーガーとレア・セドゥが映画のエンジンです。ポリニャック伯爵夫人のヴィルジニー・ルドワイヤンは「8人の女たち」でカトリーヌ・ドヌーブの長女を演じた子、といっても26歳でしたけど。あれからあしかけ10年。役得があるなら役損もあるでしょうね。本作では歴史の悪役ポリニャック夫人だから、ソンしているとは思うけど伯爵夫人というより、ラストで召使に扮したほうがサマになっていましたね。主役ふたりに的を絞ろう。バスティーユが陥落してマリー・アントワネット(ダイアン・クルーガー)がヴェルサイユ宮殿を去る最後の4日間が舞台だ。シドニー(レア・セドゥ)はヴェルサイユで、多くの召使とともに宮殿内で起居している王妃の朗読係。彼女の王妃への思い入れは尋常ならざるものがある。仲のいい古い記録係モローは「君がきて4年。話すことは王妃のことばかりだ。君は王妃を愛するあまり王妃の愛にまで寛大だ。ポリニャック夫人のことも代償は高くつき、まだ払い終わっていない」。夫人が王妃に取り入り莫大な実家の借金を王家に肩代わりさせ、身内は政治の要職に送り込んで権力を謳歌、贅沢三昧していることです▼革命派が286の首をギロチンにかけるとしたリストのトップは王妃。三番目が夫人でした。ヴェルサイユはいまや足元から鳥がとびたつようなあわただしさ。逃亡する召使、自殺する官女、きらびやかな部屋は荷造りで散乱し王妃は茫然自失。そんなときシドニーは王妃から呼ばれる。ダイアンとレアのからみはいくつかあるが、どれもみな巧みなシーンです。王妃が言う「聞きたいことがあるの」「お答えできることなら何なりと」「一人の女性を好きになったことはある? その方が見えないと胸が苦しくなるくらい」「…」(台詞をいわないときのレアの表情がいい)「わたしは何時間でもあの方の顔を思い浮かべられる。あの柔らかい肌。はじけるような笑顔」。レアは落ち着いて率直に言う「どなたのことかわかります。それほど愛されて羨ましいです」人の気持を忖度するなどしたことのない王妃は、レアの深い感情のこもった声に気づかない。無神経に続ける。「今もそう。いないと思うだけで心が暗くなる。ガブリエル(夫人の名)はありふれた女性とは違う。トリアノン離宮で初めてあったとき自分の家のようにくつろいでいた。わたしに気に入られようと思わない、自由なところが好き。不思議でしょ。今こそいてほしいのになぜ来ないか。わたしはフランス王妃よ。答えを聞くのがこわい。認めざるをえないもの。わたしが恋の虜だと。2時間前使いを出したらガブリエルは不愉快そうだったと。なにが不愉快なのかしら。わたしがなにをしたというの」▼苦労人のシドニーは、王妃の世間知らず・人間知らずにもホドがあると思うが、夫人の説得役を買ってでる。シドニーは王妃を我が身に代えても守りたい、どんなわがままでもいうことをきいてやろう、そんな愛情なのですね。身を捨てた愛情だからこのあと続く非人間的な命令さえ、かなえてやろうとするのです。ジコチューの塊みたいな王妃と没我のシドニー。権力の傲慢と献身の権化がくっきり対比されるあざやかなシーンです▼シドニーというのは聡明な娘でしてね。王妃の気分によって読んで聞かせる本を的確に選ぶ。ポリニャック夫人を呼びに行ったが夫人は睡眠薬を飲んで熟睡中。起こせなくて帰ってきたシドニーは女官から王妃の感情を鎮める本を読んでくれといわれる。このとき彼女があげたのが「有名犬事典はどうでしょうか」吹き出すでしょ。シドニーにとって、ポリニャック夫人から連想する彼女の立ち位置はペットレベルなのですね。さすがに女官は首をひねる。「クレーブの奥方は?」かえって危険である。「ルソーの告白は」刺激が強すぎる。結局祟りのないよう、そっとしておこうとなる。このへんの呼吸、うまかったですね。疲れ果てた王妃が重いでかいカツラをとる。サアッと肩にかかる見事な金髪。王妃が宮殿脱出をすすめるとイの一番に逃げ出すのがポリニャック夫人である。顔だけは名残惜しそうに、でも足は駆け出しそうに部屋の出口に向いている夫人に、まだ王妃はいう。脚本も念が入っています。「待って。最後にもう一度その若々しい香りを」。あげく王妃の下命は何だったか。ポリニャック夫人が囚われたときでも無事脱出できるよう夫人は召使に、シドニーは夫人の衣装をまとえというのだ。この計画を予め知っていた女官は、シドニーが王妃の部屋に入る寸前「なにを言われても断るのよ」と素早く耳打ちする。残酷な仕打ちをさすがにみておれなかった。シドニーは「何が?」ともきかず「なんであろうと王妃のお言葉に背くことはできません」と背筋を伸ばして入っていく。どっちの資質が王妃だかわからない▼「要するに夫人の身代わりになれと」シドニーが確認したときの王妃の言い分はこうだ。「わたしがあなたに夫人への恋心を打ち明けたのは、あなたを信頼していたからよ。これほど朗読係と親密な王妃がいるかしら」大きなお世話だがシドニーは動揺を見せない。「着替えるのよ。脱ぐのよ。脱ぎなさい」と王妃。一糸まとわぬ裸になったシドニーを王妃は見つめる。盛装したシドニーに最後のとどめ「シドニー。ガブリエルに伝えて。あなたのこと決して忘れないと」あいた口のふさがりようがない▼馬車で出発したポルニャック夫人一行。召使に変装した夫人の狡猾な目つき。シドニーが窓から手を振るのをやめろと制するが、夫人なんかペットなみ、いや犬にも劣ると裁定しているシドニーからすれば、こんな女に指示されるのは笑止である。自分に命令できるのは王妃だけだ。たとえ自分が夫人の身代わりになって殺害されようと、それは王妃のためであって、この下劣な女とはなんの関係もない。王妃のためとは自分の愛のためだ。おだやかな微笑を窓外の田園に投げかけながら、シドニーはつぶやきます。「わたしはシドニー・ラボルド。みよりのない孤児。王妃の元朗読係。王妃の命令によりヴェルサイユを去る。そして誰でもなくなる」。誰でもなくなるという一言に究極の献身がこめられています。

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