女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年3月6日

特集 LGBT-映画にみるゲイ ハイテンション(2003年 ゲイ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 アレクサンドル・アジャ
出演 セシル・ド・フランス

誰にも邪魔させない 

 ゲイ映画の新視点というとおおげさにはちがいないが、そんな褒め方もあえてしたくなる映画だ。ゲイに対する社会的な見方・取り組み方という見地はきれいさっぱり棄てたアレクサンドル・アジャ監督。本作をホラー映画ともいえるし、サスペンス映画ともいえるし、ミステリー映画ともいえる多様な局面から見応えのある映画にしました。彼の25歳のときの作品です。愛とはこういう苛烈な狂気の一面を持つ、ゲイであろうとなかろうと、という彼のメッセージがよく伝わっています。その愛情の在り方をいおうとすると、ネタバレにかかわってしまうのですが。もういいか。真犯人がどうのこうのというより、ヒロイン、マリー(セシル・ド・フランス)の一種の純愛が引き起こした悲劇として話を進めることにします▼マリーとアレックス(マイウェン)は極めて仲のいい女友達同士。論文に集中するため田舎にあるアレックスの家に泊まりこむことにし、目下ドライブ中、というシーンから始まる。車の後部シートでマリーが退屈そうにひっくり返っている。運転するアレックスに「タバコ」。アレックスはホイとわたしてやる。「火」これもホイ。マリーは後ろからシートをまたいで助手席に座りカーステの音が大きすぎる、小さくしろとわがまま放題。「怖い夢をみた。裸足で森の中を逃げていたの。誰かが追いかけてくる、よく見たら自分で自分を追いかけているの」アレックスはかまうふうもなく「たまには普通の夢をみたら?」「普通なんてきらい」「このバカ女」「ワルガキ」「間抜け」「腐れ女」口いっぱいわめきあい「流れ星がどこに落ちようとかまわないさ、君を愛しているから」なんて脳天気な歌を大声で歌う。夜になった。運転はマリーに代わった。アレックスの寝顔をみるマリーに「ちゃんと前をみて」「ふふ。昨日の夜のメークが残っている」。無事到着。マリーはアレックスの家族に紹介される。みないい人達だ。弟をやさしく寝かしつけるアレックスをドアの外からマリーが見ている。監督はこのあたりまでに後半の伏線をすでに張り巡らしています。なんでもないことが大きな意味を持っています▼外でタバコを吸おうよ、というマリーに、アレックスはもう寝ると自室に。静まり返った田舎の夜の星空のもと。庭のブランコにのってアレックスの部屋をみあげたマリーは、アレックスがシャワーを使っているのを見た。濡れる長い黒髪をかきあげ、湯に打たせる細い半身。シーンが切り替わりだれもいないカラのブランコだけが映る。マリーは消えている。マリーが部屋に戻る。ドアを閉める。階段をあがる。水を飲む。ジャケットを脱ぎTシャツだけになる。ため息をつく。ベッドに入る。一連の動作を追うごとに緊張が高まる。マリーの脳裏にアレックスの裸がやきついている。マリーが自慰する。そうするうちに愛するアレックスを独り占めにしたいという欲望がふくれあがっていく、これがこの映画の恐怖の始まりなのです▼最初に殺されたのは父親だ。つぎは愛犬のセントバーナード。つぎは母親。まだ息のある母親は犯人をみて「なぜ?」とだけつぶやき絶息する。自分を襲撃した相手は歓迎したばかりの娘の友達ですから、無理ありません。アレックスは太いゴムチューブの猿グツワをはめられ手足はがんじがらめにしばりあげられベッドに転がされている。つぎなる目標はいたいけな弟である。アレックスが抱いてキスして寝かしつけていた弟です。アレックスが愛する対象はだれであろうと生かしておかない、彼女の愛は自分だけのものだ。映画は周到な配慮でアレックスの猿グツワを最後までとらせません。そりゃそうです、アレックスは殺人の現場を一部始終みているから、犯人はマリーだと知っている、猿グツワがはずれたりしたら真相を糾弾しないほうが不自然だから、監督はクライマックスまで猿グツワをかませたままにしておきます▼マリーが妄想で創りだした劇はこうでした。愛するアレックス一家が殺人狂に襲われる、家族はつぎつぎ惨殺され自分とアレックスだけが魔手を逃れた、しかし犯人はアレックスを誘拐しトラックにのせて逃走した、自分は彼女を取り返さねばならない、たとえどんな目にあおうと。妄想の中のマリーはアレックスにいいます。「あの男を殺してでもあなたを助けるわ」。恋人アレックスを救出するヒロイズムがマリーを燃えさせる。たちよったコンビニでも惨劇はくりかえされる。マリーの脳内で犯人の男とアレックスを助ける自分の「ふたり劇」が展開する。男はマリーを組み敷いてきく。「彼女が欲しいか。彼女をみて興奮するか」。格闘のすえマリーは男を殺す。そして車に閉じこめられているアレックスのもとに走り「大丈夫よ、もう終わったよ」アレックスは叫ぶ「わたしに近づかないで」「わたしよ、アレックス、もう大丈夫よ」「マリー、なにを言っているの、あなたがわたしの家族を殺したのよ!」隙をみて逃げるアレックスを、チェーンソーを持ったマリーが追いかける。「わたしのものよ」と叫んで。脚に傷を負って走れなくなったアレックスにマリーが近づく。「あなたはわたしをどこまで苦しめるの、アレックス。わたしを愛している? 愛していない?」恐怖のアレックスは絶叫する。「愛しています」。スクリーンではそれまでサディスティックな中年男だったマリーの分身が掻き消え、本来のマリーの姿にもどる。マリーは「もうだれにも邪魔させない、だれにもわたさない。だれにも邪魔させない。だれにもわたさない」やさしくつぶやきながらアレックスにキスする…▼ここは病院。ベッドに腰掛けたマリー。背中にも肩にも無数の傷。手首には銀色の手錠。唇から出る言葉はずっと同じだった。「だれにも邪魔させない。だれにも邪魔させない。わたしのもの。だれにもわたさない」病室の外からアレックスがそれを見る。「わたしだと本当にわからないのですか」医師は頷く。マリーがアレックスに気づき(バン)銃を撃つ真似をしてニヤッと暗く笑う。愛情にはこんな結晶の仕方もあるのかもしれない。狂気に移行するマリーの、セシル・ド・フランスがよかったです。

Pocket
LINEで送る