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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年3月13日

特集 LGBT-映画にみるゲイ56エンジェルス・イン・アメリカ(2003年 ゲイ映画)

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監督 マイク・ニコルズ
出演 アル・パチーノ/メリル・ストリープ/エマ・トンプソン/パトリック・ウィルソン/ジャスティン・カーク/メアリ=ルイーズ・パーカー

エイズを囲む人間像

1980年代レーガン政権の時代、エイズに感染した4人のゲイが主人公だ。アル・パチーノが扮する大物弁護士ロイ・コーン。彼は実在の人物でレーガン政権のもと「ゲイつぶし」の先頭に立っていた。そんな彼がエイズに感染しており末期症状だとわかる。ジョー(パトリック・ウィルソン)は連邦控訴裁判所の首席書記官。ロイにワシントン司法省への転勤をもちかけられた。ロイは自分の利権拡張のためジョーを本省に送り込みたい。ロイは赤狩り時代さまざまな不正で無実同様の人をも有罪にした(本作に登場するエセル・ローゼンバーグ=メリル・ストリープもそう)悪名高い弁護士だ。ジョーは真面目なモルモン教徒だ。妻ハーパー(メアリ=ルイーズ・パーカー)はジョーとの生活に行き詰まりを感じ、精神安定剤の薬物依存症になっていて、いつも幻影を見て現実逃避していた。ワシントン転勤にも同意しない。裁判所に勤めるルイスはユダヤ人。同性愛者で恋人のプライアー(ジャスティン・カーク)がいる。プライアーはルイスに自分の胸に「死の天使のワイン色のキス」が発症したことを打ち明ける。プライアーがエイズに感染したことに動揺したルイスは行方をくらます。そういう情況で本作はスタートする▼天使とは名ばかりの、人間をいたずらに混乱させるいじわるな天使にエマ・トンプソン。彼女が背中に生やした大きな羽をはばたかせながらゆっくり降臨するところは、見た目だけは神々しいのですが、言うことはびっくり。これじゃだれでも生きる気をなくすといういやなやつ。まあマイク・ニコルズの考えることですからね。メリル・ストリープは息子ジョーからゲイだということを打ち明けられ、そんな息子はわたしの息子じゃないと断言する母親だが、やっぱり心配になって息子といっしょに暮らすため田舎からニューヨークに出てくる。夜の公園で会うホームレスはエマ・トンプソンの二役。彼女はプライアーが入院した病院の医師の役もやる。ストリープはルイスの祖母の葬儀で説教と訓戒を垂れるユダヤのラビまでやる。もうひとり、プライアーとルイスの共通の友人で、ゲイで黒人の看護師ベリーズのジェフリー・ライトが、ハーパーがドラッグでもうろうとしたときに登場する旅行代理店のエージェンシーで出てくる(役者が足りなかったわけではなく、一種のファンサービスの変装みたいなものでしょうか)。妻は夫ジョーとの関係を再構築したいが疲れきってどうしていいかわからない。というのも夫がなにか自分に隠し事をしているように思えて仕方がない。真面目で健康な男だが心を開いたことがない、そんな気がして信頼したいのになにかがジャマをする。ジョーはゲイであることを妻にも母にも隠していたわけ。疎外感のため妻はドラッグで幻影に逃避するが、帰宅してぼんやりした妻を見た夫は「今日は何錠薬を飲んだ」と聞くだけだ。基本的にこの男は冷たいのである▼冷たいといえばエイズのプライアーを棄てたルイスは、ジョーと恋人同士になりジョーは偽らなくてもいい正真正銘の愛の対象をえて妻どころじゃない、一ヵ月もの間ルイスと愛の暮らし。ルイスもはじめはのぼせていたが、だんだん元恋人に対して後ろめたくなるがその割に、妻を棄てて顧みず自分の幸福に酔っているジョーが(こいつ、じつはひどい男じゃないのか)なんて疑問を持ち、ジョーとの関係を解消しプライアーのもとに帰る。プライアーはいまにも死にそうな容体に何度も陥りながら全然息をひきとらず、監督はなんのために延々と彼を生かしておくのかと思ったら、ロイを担当する看護師のベリーズが、金とコネに糸目をつけずロイが購入したエイズの高貴薬を、結局ロイは使用せず病室の冷蔵庫にいっぱい詰め込んだまま死んじゃう、ベリーズはそれを盗み出しプライアーに与えて彼は窮地を脱して生き残るのだ。結局プライアーとルイスは元のさやに収まり、田舎から出てきた母親は理解して息子たちを見守り、ベリーズは「アメリカが大嫌い」といいながら「強いゲイ」としてプライアーとルイスと友情を育んでいく。ジョーは、妻とやり直すことにしワシントンをあきらめる▼ひとことでいうと大物配役陣とか社会的な大ネタという〈スペクタクル〉で圧倒されたわりにラストの平和な解決は(へ~。そうなン)という程度で落ち着く。こういう肩すかしを補ってあまりあるのはやはりアル・パチーノの怪人ぶりである。なんとかしてくれ、こいつ、といいたくなるほどの独演がみものだ。彼が主治医ヘンリー(ジェームズ・クロムウェル)に一席ぶつシーンがある。彼は政治的立場から同性愛を糾弾し法案を廃案に追い込んだ手前、自分がエイズに感染しているとは口が裂けてもいえない。彼はこんなことを大声でわめく「ロイ・コーンはホモじゃない。男とやりまくっているがヘテロ(異性愛)の男だ。おれがエイズだって? エイズはホモがかかる病気だ。おれは肝臓ガンなのだ」(主治医はアッケ)。さらに「お前は(主治医のこと)ゲイだの、レズだのというラベルにこだわりすぎる。そういったラベルはそいつがだれと寝ているかが問題なのじゃない、そいつが食物連鎖でどの位置にいるかを現しているのだ。男と寝るおれをホモと思うかもしれないがおれはホモじゃない。おれには力があるのだ」意味が通じるとか通じないとかはもはやどうでも、このド迫力の屁理屈にさすがの主治医も、高貴薬入手のために「しかるべき筋に電話して君の力を早く示したほうがよい」とだけ答える。黒人のゲイであるベリーズが、病的でイカレタことばっかり言っている登場人物や天使のなかで唯一良識ある大人に思えます。彼が生きながらにして経験してきた差別や理由のない軽蔑に比べたら、ジョーやルイスや死にかけているプライアーさえどこか甘いにちがいない。アメリカなんか大嫌いだ、という彼がそれでもアメリカで根を張って生きていこうとする姿に感動を覚えます。

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