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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年3月18日

特集 LGBT-映画にみるゲイ61バロウズの妻(2000年 ゲイ映画)

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監督 ゲイリー・ウォルコウ
出演 コートニー・ラヴ/ノーマン・リーダス/キーファー・サザーランド

救いの視線

この映画でいちばん目にやきついているのは真っ赤なルージュのコートニー・ラヴの唇。彼女が「バロウズの妻」ジョーンを演じた。ゲイの夫を愛して殺されてしまう妻。彼女のあまりに報われることのなかった愛を、哀しいくらいあざやかな赤が象徴していた。エンドにバロウズ(キーファー・サザーランド)の言葉が字幕に出る。「ジョーンの死がなければ作家にはならなかった。あの事件がわたしの創作の動機となり作品を形作った」さらに解説は「ハロウズは優秀な弁護士をやとい、銃が暴発したといい殺人事件を免れ〈裸のランチ〉ほか多くの作品を発表した。彼は銃の愛好者だった」愛のためなにができるかという質問に彼は「なにも」と答えた。ふ~ん。するとなにか、バロウズの妻とはこの映画でみる限り「踏んだり蹴ったりの妻」ということにならないのか▼ウィリアム・S・バロウズは1950年代アメリカのビート・ジェネレーションを代表する作家のひとり。「裸のランチ」で一躍注目を集めた。ハーバード大学を卒業したものの世間は世界大恐慌の真只中。ジャンキーでゲイのバロウズは妻のジョーンと酒とドラッグに明け暮れる日々。仲間にはコロンビア大学の学生ルシアン(ノーマン・リーダス)や、アレン・ギーンズバーグ、デイブ・カマラがいた。パーティの最中酒を買いに行くといってバロウズのアパートを出たルシアンは、追いかけてきたデイブに迫られ殺してしまう。ルシアンはバロウズにすすめられ自首する。2年後刑務所を出たルシアンはUPIの記者となり、アレンといっしょにメキシコのバロウズと妻ジョーンを訪ねる。彼らは麻薬事件でアメリカを追われ、メキシコで貧窮生活を送っていた。ジャンキーでゲイのバロウズは妻をかえりみず、若い愛人と旅行に出ていた。取り残されたジョーンは子供を預け男たちと火山を見にでかける。ルシアンとジョーンはかつての恋人同士だった。そのルシアンにままならぬ愛を抱くのがアラン。アランはのちに詩人となる。ルシアンはジョーンにいっしょにニューヨークに戻ってくれと頼む。ジョーンは聞く「わたしと子供たちの面倒をみるの? 覚悟はできているの?」ルシアンは「わからない」。新聞社に職を得たものの刑務所を出たばかりで二人の子連れ女とやり直そうというのだから「わからない」と答えるのは、正直なところかもしれない。ひるがえってバロウズの若い愛人は、二言目に契約をタテにとって「セックスは一週間二回」それ以上は中年男の相手になるつもりは毛頭ない。バロウズもその妻も、ふたりでいてもひとりでいても、どこにいてもつまらなくて寂しいのだ▼ジョーンはルシアンの愛の告白に応じない。子供を連れていくことに最後まで不安があったと思うが、それ以上にバロウズを愛していたと思える。このメタボのユーウツ男のどこがよくて、と思うがジョーンは背をむけて寝るバロウズに言うのだ「多くは望まない。たまには抱きしめてほしいだけ」。ゲイとはマジョリティ社会の異邦人だ。その異邦人を愛した妻もまた精神の異邦をさまよっている。セックスで女を愛せないゲイの男にも、愛の示し方はあると思うが、抱きしめることすらもしないというのは友愛すらないのである。ジョーンが「ルシアンもそんなナイフでワインの栓を抜いていたわ」と言ったときだけ、かすかにバロウズの表情が動く。バロウズはジョーンに「ウィリアム・テルごっこ」をやろうという。ジョーンがグラスを頭にのせてバロウズがピストルで撃ち砕くのだ。グラスをのせたジョーンが言う。「撃ちなさいよ」。コートニー・ラヴの唇の真っ赤なルージュがアップになるのがこのシーンだ。拳銃は発射されジョーンは頭を撃ちぬかれる。助けてくれと叫んだのはバロウズのほうである▼バロウズをまっすぐ見て「撃ちなさいよ」といったときのジョーンには、愛に幻想すら持てなかった女の絶望しか残っていなかった。ジョーンにとってバロウズとは、触れるものすべてを荒廃と死に導く疫病神だったに等しい。オープニングからひたすら退廃と転落にむけて進んできたこの映画が、ジョーンの死後ガラリ一転、サクセスに導かれたきらびやかなバロウズをナレーションで流すのは強烈な皮肉だ。のちに「裸のランチ」は女嫌いのデヴィッド・クローネンバーグによって映画化された。クローネンバーグは原作をほとんど解体してしまったが、それでも「裸のランチ」がアメリカ文学史のカルト的小説になったことにかわりはない。新しい文学の旗手としてバロウズが脚光を得た影で、死に損ともいえる殺され方をしたのがジョーンだったろう。その彼女に「バロウズの妻」というタイトルと光を与えた監督の視線に救いを感じる。

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