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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年3月24日

特集 LGBT-映画にみるゲイ67
乙女の祈り(1994年 ゲイ映画)

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監督 ピーター・ジャクソン
出演 ケイト・ウィンスレット/メラニー・リンスキー

人生の不意打ち

うう~ん。母親を殺すか? それも大きな石で45箇所以上も頭を殴打し、死に至るまでふたりで殴り続けたという残酷な手法で。女の子同士がお互いを大好きで一線を越えた、自分たちの才能を伸ばすためにアメリカに行こう、ハリウッドこそが新天地にふさわしい、でも娘たちの行き過ぎた友情に危惧を感じた親たちが精神分析医に診察させたところ、同性愛であると診断、両親はともに真っ青。自分たちの娘を引き離そうと画策する、娘のひとりはそんなことをするママは大嫌いだ、ママを殺してしまえば万事うまくおさまる、と考える。これたしかにゲイ映画ではあるけど、ゲイが本題ではなく「殺し」のほうよね、この映画の主翼は。それもなんで世間も知らない高校生の娘たちがそう考えたのか。彼女らは殺人狂ではない、知性も豊かで想像力もあり、性格も真面目で勉強熱心、クリエイトする能力にあふれていた▼ゲイ同士が愛しすぎて親殺しに至ったという解釈もさることながら、もっと直接的な、母親を殺すまでに突っ走らせた起爆剤って、なんだろう。そこでピーター・ジャクソン監督の前作「ブレインデッド」に思い当たるのだけど。これも舞台はニュージーランド。青年と雑貨屋の娘が仲良くなって動物園に行く、そこに謎の生物スマトラン・ラット・モンキーがいて、ふたりを追ってきた、青年の母親が噛まれる、彼女はゾンビになる。青年は母親を地下室に隠蔽するが看護師も神父もみなゾンビ化する。地下室はゾンビの集団となり、ゾンビ同士が交配し子供まで生まれる。ある夜ゾンビたちは饗宴の最中に解放され血みどろの終幕となる。映画史上最大の量の血液が飛び散ったことで有名▼思うのだけど、ジャクソン監督の発想の核って不意打ちのような、突然変異的な「増殖」なのよね。前作ではゾンビの増殖。本作では高校生の娘の悪意のとめどなく拡散する増殖。ストッパーのない悪。それは同性愛であろうとなかろうと、意味も理由もなくエネルギッシュに対象を犯していくのよ。いうなれば悪の細胞の自家培養であり無限大の領域侵犯だわ。母親を殺そうと決めた娘とそれに賛成した娘のふたりとも完全にこの常軌を逸した増殖細胞に植民地化されてしまった。娘のひとりは後年作家となったアン・ペリーで、彼女はミステリー作家として成功していたが自分が「乙女の祈り」のモデルだと公表し、当時の精神状態が完全に別世界にいたこと(劇中の言葉で言えば「第四の世界」か)を語っている▼1952年。ニュージーランドのクライストチャーチ。女子高生ポウリーン(メラニー・リンスキー)はイギリスからの美しい転校生ジュリエット(ケイト・ウィンスレット)に出会う。ポウリーンは下宿屋を営む両親の家に、ジュリエットの父は大学学長。でも文学を愛するふたりは熱烈な親友同士となり「ボロウィニア王国」という架空の国をこしらえ創作の夢を語り合う。ジュリエットが肺結核で療養中、ポウリーンは下宿する青年と関係するが、ジュリエットが退院するとたちまち熱愛関係は復活、寝ても覚めてもいっしょにいる娘たちに、学長はある夜ポウリーンの家をたずね心配を打ち明ける。「ふたりの友情は不健康です」ポウリーンの父は「確かにそうですな、何の運動もせず小説とやらを書いていては」(このお父さん、好きだな~)「ちがいます、あなたの娘御は異常な愛情を抱いている。なにもないうちに手を打つべきです」。親の心配は裏目に出て、それまで下着一枚で広大なジュリエットの屋敷の庭園を走り回り、芝生に倒れ勢い余ってチューしていたような幼いキスではなく、ある夜とうとう熱烈に愛しあい「わたしたちは歓喜を知ったのだ」なんて言いだした。もう手がつけられない。学長はジュリエットを南アフリカの叔母の家に預けることにする▼ここから娘たちの憎悪の細胞はあっというまに心身をのっとる。母親の遺体が発見されてから数時間で彼女らは逮捕された。死刑には若すぎるということで終身刑の判決を受け別々の刑務所に。5年でジュリエットが釈放され母親のいる英国に移住した。その数週間後ポウリーンは二度とジュリエットに会わないという条件で仮釈放された。仮釈放は65年まで続きニュージーランドを離れることはできなかった。オークランドの書店に勤めたのち今は静かに余生を送っていると伝えられる。ジュリエットの消息は知られなかったが、1994年にピーター・ジャクソンが「乙女の祈り」を映画化することが話題になったとき、自分がジュリエットであることを名乗りでた。アメリカ探偵作家クラブのエドガー賞などを受賞した作家のアン・ペリーがその人だった。

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