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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年3月27日

特集 LGBT-映画にみるゲイ70
ビクター/ビクトリア(1982年 ゲイ映画)

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監督 ブレイク・エドワーズ
出演 ジュリー・アンドリュース/ロバート・プレストン/ジェームズ・ガーナー

ジュリー・アンドリュース復活

ちょっと堅苦しくいえば「性同一性」(ジェンダー・アイデンティティ)と異性装がこの映画の核にあって、それをジュリー・アンドリュースの芸達者ぶりが一級品のミュージカル・コメディにしています。監督はブレイク・エドワーズ・いわずとしれたハリウッドのおしどりコンビです。性同一性とは自分が男に属するか、女に属するかの自己認識。ふつう自分が男であるとか女だとか意識しない、というか確信していますね。この映画ではヒロイン、ビクトリアがドレスから背広のスーツに、つまり女から男の「異性装」することによってするっと異界にすべりこむ。ビクターの恋人になったキング(ジェームズ・ガーナー)が「もう男であることはやめろよ」というがビクトリアは「いやよ、こっちのほうがやりやすいのだもの。女でできなかったことができるのだもの」となかなか〈男〉あることをやめようとしないのは、性差で割りを食ってきた女の実感としておもしろかったですね▼やっぱりジュリー・アンドリュースがいいです。「サウンド・オブ・ミュージック」や「メリー・ポピンズ」の成功が〈健全な明るい主婦〉というレッテルになってしまい、イメージを変えるのに悪戦苦闘しました。彼女がエドワーズに巡りあったのは天与の一慶というか、エドワーズはなにも批判せず彼女のよさを肯定し、彼女がだれの追随も許さぬジャンルで勝負させた、それがミュージカルでありコメディであり、すなわちこの「ビクター/ビクトリア」です。本作の出演者たちは息のあったチームワークを発揮し、アカデミー賞7部門でノミネート、作曲賞を受賞しました。アンドリュースは主演女優賞、彼女と名コンビを組むゲイのトディのロバート・プレストン、憎まれ役のショーダンサー、ノーマのレスリー・アン・ウォーレンは助演男女優賞にそれぞれノミネートされました。舞台化ではジュリー・アンドリュース30年ぶりのブロードウェイ復帰とあってテレビが特別番組を組んだ。舞台がまた素晴らしいチームワークの出来栄えで、ジュリー・アンドリュースがトニー賞の候補になったとき、名前があがったのが自分だけだというのは不公平だ、という理由で彼女は辞退しました。そのとき彼女が表明した「言語道断に見落とされた人たち」は以後、同様の状況で使われる成句になりました▼時代は1934年、ゲイの街パリでのお話。失業中の歌手ビクトリアは同じく失業中のゲイのトディと知り合い意気投合。収入がなく家主から追い立てを食い、4日もろくなものを食べていないビクトリアは失神しかけ「肉ダンゴひとつで寝るわ」と口走るほど食い詰めている。ボロ下宿の床を走ったゴキブリを捕まえレストランに行く。食べまくったあとでゴキブリをバッグから取り出してサラダにまぜ、料金をただにさせようという魂胆だ。ウェイターがテーブルの下をのぞいて言う「いやね。犬がいるンじゃないかと思って。なにしろ5分で皿がきれいになるので」同席したトディはゴキブリ騒動に一役買い、店の大混乱を尻目にふたりは退出、食い逃げに成功する。小気味よいテンポです▼パートナーのスーツが、ビクトリアに誂えたように似合ったのをみてトディが一計を思いつく。ビクトリアをゲイの芸人として売り出すことだ。なにしろビクトリアはEフラットの発声でワイングラスを砕くほどの声量なのだ。作戦は大当たり。初日のショーの終わり、ビクトリアがブロンドのカツラをさっと取って出現した、目がさめるようなハンサムな男性〈ビクター〉に場内は騒然、〈ビクター/ビクトリア〉は一夜にしてパリ中の呼び物になる。そこへアメリカのクラブ王キング(このわかりやすい名前)が現れ、ビクトリアに一目惚れするものの実はトディのパートナーであると聞かされて悶々。どうしてもビクターが男であるとは信じられずホテルに潜入する。ビクトリアもキングに惹かれるものの自分が女だとばらしたら失業である。なにしろ正体は「女装した男のフリをする女」ですからね。このあたりの〈押したり引いたり〉小技の繰り出しはさすが百戦錬磨のエドワーズです。彼といえば「ピンク・パンサー」シリーズのほか「酒とバラの日々」「ティファニーで朝食を」など、硬軟とりまぜた代表作があります▼ジュリー・アンドリュースはこのとき37歳でした。29歳のときの「メリー・ポピンズ」より30歳の「サウンド・オブ・ミュージック」よりずっと素敵でしたよ。おしむらくは4日間も食べていない設定にしては食べ方がおとなしかった。ああいうときは嵐のごとくガツガツ、皿も喰らうとばかりに咀嚼しなければいけませんな。それに決していけないというわけではないのですが、この映画のジェームズ・ガーナーの雰囲気。パリ一番のショービズのトップが、その気になるほどの魅力的な男だったでしょうか。この人って本来〈脇〉で光るキャラなのよね。ま、いいか。ラストのトディの〈ビクトリア〉は腹をかかえます。楽しいエンドでした。

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