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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年3月28日

特集 LGBT-映画にみるゲイ71
バタフライ・キス(1995年 ゲイ映画)

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監督 マイケル・ウィンターボトム
出演 アマンダ・プラマー/サスキア・リーヴス

狂気の分身

主人公ユーノス(アマンダ・プラマー)が探し求める女性ジュディスとは、旧約聖書外伝にある「ユディト書」から引用されています。美貌の女性ジュディスは古代ユダヤの女傑。外伝によればアッシリアの将軍ホロフェルネス率いる一団に包囲されたとき、美しい寡婦ユーディット(ジュディス)が侍女一人連れて敵陣に乗り込み、ホロフェルネスを籠絡、一夜を過ごした後酔いつぶれた彼の首を切断し町に持ち帰った。指揮官を失ったアッシリア軍は敗退し、ユーディットは「救国の美女」として賞賛される。17世紀の女性画家アルミジア・ジェンティレスキが、刀でごりごり首を切り落としている殺戮シーンを「ホロフェルネスの首を斬るユーディット」という作品に描いています。つまりユーノスが探し求めているのは自分を殺してくれる女だったのです▼映画の舞台は北イングランドの片田舎です。ユーノスはガソリンスタンドで給油してはレジの女性店員に「ジュディスでしょ、ジュディスじゃない?」といきなり話しかける。ただの人間違いだと思って適当にあしらっていた店員は、ユーノスの狂気じみた追及が薄気味悪くなる。それでなくともユーノスの風体は異様だ。だぶだぶした汚い福にぼさぼさの髪、大きく見開いた目。決して醜い顔ではないのにひと目で常人ではないものがあるとわかる。ジュディスではないとわかるとユーノスはあっさり店員を殺してしまう。ミリアム(サスキア・リーヴス)が勤めるガススタにきたユーノスは名前を聞き、愛の歌のレコードを探している、題は忘れたがこんな感じだと口ずさむ。ミリアムはほかの店員のようにユーノスを胡散臭そうに拒否せず「わからないならそこにあるのを聴いてみればいいわ」とすすめた。ミリアムは難聴だ。補聴器をつけている。でもユーノスの声だけは聞き取れた。ユーノスは自分を邪魔者扱いしないミリアムにいきなりキスする。ミリアムの独白がある。自分にキスしたのは両親と叔母とユーノスだけだったと。ミリアムはユーノスを自分の家につれていき母親に(厳密には祖母に)あわせる。祖母は認知症である。ミリアムはユーノスが裸の体に鎖を巻き付けているのをみて、彼女がただならぬ罪悪感のもとに自分を罰しながら生きていることを感じる。どちらも中年の風采のあがらない女性で、たぶん教育も受けていず貧しい。ユーノスはすべての感覚が素っ裸になって生きているような、感情の暴走女だ。ミリアムはあまりの痛々しさにユーノスを救済したいと思う。思うどころか献身である。行く先々であっという間に人を殺すユーノスを恐れながら逃げ出そうとしない。ユーノスは、自分はこれだけ人を殺しているのに神様は自分を罰しない、自分はもともと神様に見捨てられているから、神様はかまってさえくれないのだと嘆く。ユーノスとミリアムとは、見捨てられたと思う女とその女を見捨てられない女の出会いだった▼ふたりはキスしたり抱き合ったりするが、性愛のエロチシズムはそこには全然ない。マイケル・ウィンターボトム監督はなんの前触れも予見もなく、いきなりユーノスをスクリーンに登場させたから彼女の身の上や履歴や、性向はいっさい観客にはわからない。そこにいるのが人の形をした「憐憫」であることがわかるだけだ。それが罪か罰か哀しみか業病かの判断もつきかねる▼ミリアムはきく「わたしの愛を信じる?」ユーノスは「さあね」「こんなに尽くしても? どうしたら充分だと思うの」「殺して。それがわたしの願い」「いいわ」「本気?」「いつだって本気よ」神様は自分を見捨てたがミリアムは見捨てなかったとユーノスには思えた。鎖を、自分を罰するために自分の肉体に課してきたものを外してほしいとユーノスは頼む。素っ裸になったユーノスは野原に寝転んで星を仰ぐ。「無防備で無力で無罪だ。天国へ行けるかな」天国へ行きたいというユーノスの頬にミリアムはキスし「天使のキスよ」とささやく。「だれがそう言った?」「母さんよ」「天使はキスしない」「するわ。他にはだれがする?」「蝶さ。だから今みたいなキスをバタフライ・キスというの」バタフライ・キスとは、まばたいたまつげが肌をかする、まるで蝶が触れたようなキス。これがふたりの最後のキスだった。翌朝早く海岸へ向かったユーノスとミリアムは、じゃれあいながら海に進み「今よ」というユーノスの促しで、ミリアムはユーノスの顔を海中に沈め溺死させる。ユーノスはとうとうジュディスにめぐりあいやっと死ねたのだ。ユーノスの狂気によりそい狂気を受け入れるミリアムを他人のように思えない。だれだって狂気の分身をどこかに隠している。監督が暴きたかったのはここじゃないのか。

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