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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年4月3日

特集 LGBT-映画にみるゲイ77
マイ・ビューティフル・ランドレット(1985年 ゲイ映画)

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監督 スティーヴン・フリアーズ
出演 ダニエル・デイ=ルイス/ゴードン・ウォーネック

自信にみちた静かな青年 

 ダニエル・デイ=ルイスが28歳のときの映画です。これからが本格的な彼の映画人生の始まりです。「眺めのいい部屋」(1985)、「存在の耐えられない軽さ」(1988)、「マイ・レフトフット」(1989、アカデミー主演男優賞)、「ラスト・オブ・モヒカン」(1992)、「ボクサー」(1997)、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007、アカデミー主演男優賞)、そして「リンカーン」(2012)で史上初三度目のアカデミー主演男優賞。20年間のあいだにわずか10本の出演作。「リンカーン」でも受賞後2年くらいは休みたいと早々と休業宣言しました。それも無理ないらしいです。これじゃ命がいくつあっても足りんと思わせるほど役作りに没頭する。彼はロンドン生まれ。父は詩人のセシル・デイ=ルイス(ミステリー作家でもある)、母が女優、母方の祖父が映画プロデューサー、姉がドキュメンタリー映画の監督という一族です。今の奥さんレベッカ・ミラーは劇作家アーサー・ミラーの娘。彼女が監督する「50歳の恋愛白書」には俳優ではなく大工のスタッフとして参加した、というのも41歳のとき休業してイタリアの靴工房に弟子入り、マーティン・スコセッシの強い要望を受け「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002)で映画界に復帰するまで続きました。1993年にアイルランドの市民権を取得、現在アイルランドとアメリカで暮らしています。アイルランドの山岳地帯にある家では靴作りと木工作業に打ち込み、息子は長い間父の職業は大工だと思っていた…以上の半生は映画ファンによく知られていることですが、この映画の28歳のダニエル・デイ=ルイスをみて感じる、ガラス細工のようなどきっとする透明感は、俗事俗界とかけへだたった彼の生き方をすでに要約しています▼アルコール依存症の父とロンドンの貧しいアパートに住むパキスタン系の青年オマル(ゴードン・ウォーネック)は、イギリスもその政治も憎んでいる。イギリスに負けたくないためにサクセスしたい、富を持ちたいと思う。父親はロンドンで事業に成功している弟、オマルの叔父に息子を預け、そこで働いて金を貯め、大学にいかせてくれるよう頼む。叔父はオマルのやる気と商才を見込んで、コインランドリーの経営を任せることにした。裏町にたむろする人種差別者たちから車を壊されそうになったオマルは、なかに幼なじみのジョニー(ダニエル・デイ=ルイス)を見つける。ジョニーに助けられたオマルは、赤字経営のコインランドリーをジョニーといっしょにやろうともちかける▼ランドリーの床はしみだらけ、数台ある洗濯機の何台かは故障、壁は落書きで汚れ、昼でも薄暗く不潔で、定職のないぶらぶらした連中のたむろする場所になっていた。改装費が必要だった。オマルとジョニーは、麻薬の運び屋をやって一部を鞘抜きし、それを資金に店を改装しジョニーは不良たちを腕ずくで追い出した。彼は黙々とよく働いた。オマルが好きだった。叔父がジョニーを使いアパートから出て行かない貧乏詩人をたたき出した。叔父はジョニーをすっかり気にいり、自分たちパキスタン人の移民の仲間として認める。清潔で明るい、スタイリッシュな店に生まれ変わったランドリーの新装開店の日、オープンを待って店の前に行列ができた。オマルとジョニーは店の奥で抱き合い喜びをわかつ▼これでハッピーエンドではなく、男性優位のパキスタン社会にうんざりした叔父の娘が家を出たり、叔父の愛人であるイギリス女性が、文化の違いや家族のしがらみに溶け込んでいけずに去り、街をうろつくパンクな連中(かつてのジョニーの仲間)が、ランドリーの前に駐車してあったオマルの従兄の車を破壊し、止めに入ったジョニーがさんざん打ちのめされる。倒れているジョニーをオマルが抱きかかえ、店の奥で傷の手当をする。「俺は降りる」というジョニーに、オマルが笑いながら水をかける。そこでエンドだ▼オマルの屈折した青年像といえば聞こえはいいですけどね、大学に入る勉強をそっちのけで事業に腕をふるうやり手なのですよ。若くしてね。彼の父親がいい。パキスタン人のジャーナリストでかつては大新聞でペンをふるったが、人種差別の壁にやぶれ、酒に溺れ今は寝たきり。彼は息子に言う。「大学へ行くのだ。人には教育が必要だ。教育のない人間がこの国でどんな目にあっているかを知るためにも」。金も教育もない移民の生活が人生を無駄にし、不潔で無知で、人に敬意のかけらも持てない人間になっていくのを父親は見てきた。実の弟がまっとうな事業をしていないことも知っている。だから叔父の経営に手をだそうとする息子に「いいか、あの悪党に深入りするな」そんなことをいう覚めた親父である。このお父さん、好きだな。サッチャー政権時代、失業と貧困でいためつけられたイギリスの暗い、臭いまでかげそうなスクリーンで、じつに説得力のある人物なのである▼ダニエル・デイ=ルイスのちょっとした動きですが、彼が洗濯機をスルッと飛び越えるシーンがあるのよね。それがまるで豹がすべるような音もない、素早い動作で(今なにが動いたの)というくらいの一瞬です。オマルというやり手の成功願望に満ちているすれっからしの青年に比べ、貧しいが欲がなく野望もない、でもそんなことにひとつも動じない、自信にあふれたゲイの青年、ジョニーがとても清々しかったです。

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