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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2014年4月5日

特集 LGBT-映画にみるゲイ79
愛を弾く女(1992年 ゲイ映画)

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監督 クロード・ソーテ
出演 エマニエル・ベアール/ダニエル・オートゥイユ

主人公はゲイだよ 

 ずいぶん迷ったのだけど、この映画やっぱり「ゲイ」の範疇にいれたのよね。牽強付会だとか、他にゲイ映画はないのかとかいわれそうな気はするのだけど、主人公のステファン(ダニエル・オートゥイユ)がゲイだと仮定すれば、すべての「?」が氷解するのよね。なぜステファンはカミーユ(エマニエル・ベアール)を受け入れなかったのか、なぜステファンは頑固なまでに独身を通すのか、なぜ女友達と淡々と理解し合える友情がなりたつのか。だったらステファンの長年の仕事のパートナー、マクシムともゲイの関係か、というとこれは違う。ステファンも彼とはビジネス上の友人づきあいだとカミーユに断っている。直情径行、ジコチュー気味のカミーユは、自分を注視するステファンの視線に心を奪われ、愛人関係にあるマクシムに「ステファンを愛している」と告白し、ステファンの元に走りタクシーに乗ってホテルに走らせ「抱いて」とまでいうのだが、ステファンは「僕を買いかぶっている」とグダグダ逃げを打つ。このシーンのやりとりを聞いているとステファンのうろたえぶりがよくわかる。カミーユ「わたしは今のあなたを受け入れるわ。あなたの作った世界がたとえ狭くてもいいの。わたしはここよ。見て」ステファン「君は非凡な女性だ。才能もあり余るほど持っている」「完璧でしょ」「でもまちがいだ。君が想像で作った人間はぼくじゃない」「ごまかさないで。簡単なことでしょ」女に追い詰められたステファンはついに「正直に言おう、愛していないのだ」…もう、やけくそ。ホテルの前まで連れて行き、抱いてと言って愛していないと返されたのじゃ、いくら気の強いカミーユでも身の置きどころはないわな▼ステファンはバイオリン修繕の天才。マクシムが顧客をみつけステファンが修理するというコンビでやってきた。カミーユはマクシムの愛人であり将来が嘱望される新進ヴァイオリニスト。ラヴェルのレコーディングを目前に控えていた。マクシムにカミーユを紹介されたステファンはカフェで「君が話している姿を見ていたい」なんていってカミーユの心をとらえる。ステファンという人は本質的に「見る人」なのです。行為する人じゃなくてね。彼は好きな仕事、気の合う友人、順調な注文、食べるにも困らず住まいもそれなりに整え、ゆっくり自分の人生を生きていけることに価値と幸福を見出している。女や恋愛や騒々しい要素を引き入れ、快適な生活環境やシステムを壊すのは愚か、少しでもズレたり、歪まされたりするのはまっぴらである。そんな男だ。どろどろしたところに足を踏み入れないから付かず離れず、淡々とした交友が成り立つ。仕事熱心で誠実で、仮にも天才と呼ばれる技術を持つステファンである。その気になれば恋人のひとりやふたりに苦労はないはずだが、それがいないのは本人にソノ気がないからだ。結婚嫌いかもしれないし恋愛下手かもしれないし、ひょっとしたら本質的に女嫌いかもしれないが、要は他人が介入することにより自分のペースを一切乱したくないのである▼それはわかった、だからゲイだっていえるのか、とおっしゃるかもしれないが、じゃ、クロード・ソーテが唯一、それもいきなり唐突に言わせているこの台詞はどうしてくれるのよ。ステファンとカミーユの師匠にあたるラショームが不治の病で倒れ、ステファンに頼んでおいた処置をとってくれと目で頼む、ステファンは約束通り注射で安楽死させてやる。そんなことができる信頼関係なんて。カミーユがステファンにきく「ラショームを愛していたの?」「彼しか愛せないと思った」ほかにどんな解釈がある?▼クロード・ソーテという人の恋愛映画は神技に近い。これをだれがみてもわかるゲイ映画にしてしまったらどこにも、愛が隠れる場所はなくなってしまう。彼はひそやかな静謐なものを愛する。クロード・ソーテが監督デビューするまえ助監督を務めた映画が「顔のない眼」だったことを思い出したい。あれこそ彼の実質的な処女作だった。自分の生活にだれも介入させない孤独なヒロイン。父親さえ殺し森に消えていく少女のようなヒロイン。愛を語る相手が見いだせないのではなく、独りでいる静けさに愛を感じるヒロイン。ステファンとまるで兄妹のようだ。振られてアタマにきたカミーユがジンを丸一本あけ、二日酔いの勢いで思い切り濃いメークをして、女友達と食事をしているステファンの席の前に陣取る。「何なの、この男。何の話をしているの。答えてよ、わたしとのことが遊びなら遊びで、最後まで行きなさいよ。わたしと寝てよ。あなたのやっていることって生身の人間のすること? わたしの話、居心地悪そうね。逃げだしたい?」生身の男かと、そら言いたくもなるかな。ステファンはステファンで未練があり、カミーユの部屋を訪問するが追い返される。カミーユはマクシムと再び一緒になり、演奏に打ち込む。ステファンは望み通り、すべての関係から一歩引いた、満ち足りた守りのある孤独のなかで生きていく。

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