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シネマ365日

2014年4月12日

特集「無口が似合う女」 エマニュエル・ベアール Mの物語 (2003年 恋愛映画)

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監督 ジャック・リヴェット
出演 エマニュエル・ベアール/イエジー・ラジヴィオウィッチ/アンヌ・ブロシュ

飲食しない恋人 

 忍耐の限界を試される映画だわ。映画が始まってまもなく、ヒロイン、マリー(エマニュエル・ベアール)と時計修理工のジュリアン(イエジー・ラジヴィオウィッチ)が待ち合わせて食事するシーンがある。ふたりは以前パーティで知り合い1年ぶりの再会だ。料理がくる。前日午後3時に喫茶店で待ち合わせをしたときジュリアンはマリーにすっぽかされ帰宅した。家にはネバー・モアという大きなオス猫がいる。ほとんど黒で顔の一部だけ白い。ジュリアンは彼を猫可愛がりして、なんでも猫に話す。時計を修理する仕事場にも出入り自由だ。そこへ不意にやってきたマリーが再び食事の約束をし、今回は無事ふたりでテーブルに座ったのだが、男はデートをすっぽかしたマリーをとがめもしなければ、マリーも知らぬ顔だ。猫より疎遠な不思議な関係である。マリーはワインのおかわりもせず食べもしない。ジュリアンがデザートをすすめても断る。食べもしなければ飲みもしないヒロインで、2時間半この映画は保つのだろうか。不安になってくる。監督が「美しき諍い女」のジャック・リヴェット。4時間の長尺(途中で寝た)を「ああでもない。こうでもない」で終始した同作と同じ進展をたどるのだろうか。不吉な予感がした▼一言でいえば本作は「雨月物語」フランス版ですね。ネタバレになろうとなるまいと、この映画と最後までつきあうには、劇中数度となく生きたり死んだりするマリーにひたすらマジ切れしないようがまんすることだわ。ジュリアンとマリーはいっしょに暮らし始めるのだが、マリーの行動は不可解だ。2階の一室にこもって一日部屋を片付けカーテンやらランプや絵をおいたりしている。ジュリアンがやっとマリーの許可を得て部屋をみることができた。観客も同時にみることができるのだが、家具といえばイスがひとつ。3日も4日も閉じこもってレイアウトしていた部屋かよ、これが。バカもやすみ休み言えと思うが、どだいマリーの「謎」においてこんなことは序の口だ。夜中にムクッと起きてジュリアンをベッドに置いて家の中をうろうろし「おそろしいことが起こるわ、ジュリアン。いつかはわからないけどそれは近くまできている。だれにもとめようがないのよ。わたしは破滅するの。愛しているわ、ジュリアン」…アッそ▼ジュリアンはマダムX(アンヌ・ブロシュ)が扱っている中国産シルクの偽造証明書を手に入れ彼女から金をゆすっていた。マリーもそれに一枚かみ、ジュリアンの代わりに金を受取に行ってマダムXにあうと、Xは不思議なことを言う「どこかで会ったかしら。だれかに似ているわ。しぐさとか雰囲気が」マリーは深く聞こうとせずさっさと金を受取る。つぎもマリーが取りにくる。受け渡しの場所は廃車になったバス置き場だ。マリーを帰したあとXはアドリエンヌという妹と話す。アドリエンヌは先にマリーと会っている。どこで、というわけではない。町なのか部屋なのかも具体的な映像はスクリーンに現れない。でもふたりは会って自分たちがどういう立場の人間かすっかりわかっているのだ。だんだんこの映画は気色悪くなります▼マリーの正体を追って過去にさかのぼっていったジュリアンは、マリーの恋人が交通事故で死んだこと、マリーは出版社につとめていたが会社をやめ、友人のもとに身を寄せそこも出て、とある部屋に来た。そこで首を吊って死んだとホテルの主人は証言した。マリーはだから死んじゃったのだ。ジュリアンはわけがわからなくなる(だれでもそうなるが)。首を吊った部屋こそマリーがジュリアンの家の2階に再現した部屋だった。マダムXの説明によればアドリエンヌもマリーも黄泉の国の住人である。どっちも死者であるが、アドリエンヌは完全に黄泉の国にいて、マリーは甦えろうとしている死者である(要は成仏していないってことね)。だからマリーは姿を消したり現したりして、ジュリアンのまわりを徘徊している。死者だから腕を怪我しても血がでない。それを目撃したのは猫のネバー・モアだけだ。自分を覚えさせておくのはジュリアンに辛い思いをさせるだけだと、マリーはジュリアンの記憶を消してしまう。しかしジュリアンと過ごした日々が思い出され涙が溢れてくる。涙がマリーの腕の傷口に注がれると、なんと、傷口が開き真っ赤な血が流れるではないか。もはやこの映画でなにが起ころうと驚きはしないが、マリーは生きかえりこの世に甦ったのだ。目を覚ましたジュリアンは目の前のソファに座っている女に「君はだれだ、なぜそこにいるのだ」と尋ねる。マリーは微笑む。そこで映画は終わる▼マリーが全然食べもしなければ飲みもしなかったのは死者だったからですね。ま、ムシャムシャ食べる幽霊なんてみたことないけどね。「飲食(おんじき)をせぬ妻といて冬ごもり」という俳人・森澄雄さんの句がありますがこの場合の「飲食をしない」というのも、つまり奥さんが亡くなっているということです。奥さんの魂を思いながらいっしょに冬ごもりをする、愛妻への思い切々とした句です。それはそれとしてマリーの度重なる出没のややこしかったこと。西洋の幽霊ってこんなにコマメなの? もういいわ。寝よッと。

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