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シネマ365日

2014年4月19日

わが教え子、ヒトラー (2008年 事実に基づく映画)

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監督 ダニー・レヴィ
出演 ウルリッヒ・ミューエ/ヘルゲ・シュナイダー

ヒトラーの罠 

 第二次世界大戦とはドイツが正気でなかった時代だ。そのドイツをたぶらかした男がアドルフ・ヒトラー(ヘルゲ・シュナイダー)である。ダニー・レヴィ監督は「文明化されたドイツでなぜ大量虐殺が行われたのか、理由は未だ解明されていない。どうしてあのようなジェノサイトが可能だったのだろう」と疑問を投げ、それを解く鍵として「ブラック・エデュケーション」をあげている。簡単にいえば、日常的に虐待を受けていた子供は大人になって、今度は他人を虐待しようとすること。劇中ヒトラーが「父に殴られた、いつも」と告白するシーンがあります。ヒトラーがひた隠しにしていた秘密を打ち明けられたグリュンバウム(ウルリッヒ・ミューエ)は、愛に飢えている独裁者をそこに見ます。グリュンバウムとはヒトラーのコーチとして収容所から呼び寄せられたユダヤ人です▼順を追っていうと、ときは1944年12月25日。戦況悪化するドイツでは、新年の国民100万人を前にした総統スピーチを特に鼓舞するものにしたかった。しかしヒトラーはストレスのためウツの引きこもり状態。執務室から一歩もでず、唯一話しかける相手はブロンディ(ドイツ・シェパードの名前、これがまたみごとな犬)のみ。名案の宝庫と呼ばれる宣伝相のゲッペルスは一案を講じる。昔ヒトラーに発声法を教えたコーチがいた、それがグリュンバウムだ。収容所でまだ生きているなら呼べ。ユダヤ人でなくともドイツ人にもできるだろうと周囲は言うが、ゲッペルスは16年前グリュンバウムの出した成果を覚えていた。なにしろ新年まであと6日。膨大で煩瑣で複雑な手続き(こんな硬直したお役所仕事に血道をあげているから負けたのだ、と監督は負け組の象徴にこのシーンを使っています)…担当者並びに責任者が残す無数のサインと書類を通過して、グリュンバウムが総統官邸でヒトラーに会ったのはスピーチの5日前だった▼グリュンバウムは別々の収容所にいる妻と四人の子供たちといっしょに暮らせるようにすることを条件に引き受けます。ヒトラーに制服を脱がせ、運動着に着替えさせ、深呼吸、脱力、瞑想、暗示などの方法でヒトラーのコンプレックスと抑圧をほぐしていきます。効果が出だしたのかどうか、ヒトラーはオルガンを弾いて歌をうたったり、恋人のブラウン嬢と食事の約束をしたりします。でもセックスとなると、どうだ、どうだと尋ねるヒトラーに「入った気がしませんわ、総督。わたしが悪いのでしょうか」とブラウン嬢は正直です。「いいや、君のせいじゃない」とヒトラーは力なく答える。ゲッペルスたちはヒトラーにドイツの指揮は任せておけないと、暗殺を計画しグリュンバウムに指示した。彼なら総督と二人きりになれるからだ。しかしグリュンバウムは一向に実行せず、ヒトラーに「すべてが雲のように通り過ぎあなたの考えは消えていきます、息を吐いて、全てが中から出て行きあなたは自分に戻ります」とトレーニングを続け、ヒトラーに冷静さを回復させた。新年がきた。スピーチに向かう総督は「世話になった、ユダヤの友よ」といってグリュンバウムを抱きしめ、官僚らはのけぞる▼メーキャップのときヒトラーはチョビ髭を半分剃り落とされ、ショックで急性失語症になってしまう。声がでない。高い演説台の下に急遽グリュンバウムが入り、ヒトラーは口パクで演説することになった。演説台の下に入ったグリュンバウムはそこに仕掛けられた爆弾に気づく。反総統派はここで自分とヒトラーを殺すつもりだ。ヒトラーになりすましたグリュンバウムは演説を始めた。彼は第三帝国の栄光を賛美し国民に感謝を捧げたあと「諸君はみなアーリア人で金髪碧眼だ。わたしだけが違う。それなのにわたしをたたえた。なぜか。わたしは寝小便たれで薬物に依存している。しかも勃たない。わたしの父はしばしばわたしを殴り、無抵抗のわたしを苦しめた。だからわたしもやってやる。ユダヤ人や同性愛者や、病んだ者を苦しめ、彼らにわたしが味わった苦しみと恥辱を与え、憎しみに満ちた小男も世界を征服できることを示したのだ。君たちにハイル(癒し)を!」うろたえる閣僚たち。顔を見合わせる国民。だれかが叫んだ「自分に癒しを!」▼監督はこれをコメディと位置づけているみたいだけど、とても笑えないわね。いくらヒトラーにジャージを着せようと不能にしようと笑いものにしようと「なぜあんな大量虐殺が行われたのか」の問に、ヒトラーの幼児期虐待が理由だとするのはちょっと強引だわ。闇が大きすぎてあれこれの見解をみな飲み込んでしまうのよ。人間ってこんなことをするのだ。残された人間はこのジェノサイドの謎と深淵に向き合っていかなければならないのだと思う。計ることのできない悼みをもって。それが、ヒトラーが仕掛けた最大の罠かもね。 

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