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シネマ365日

2014年4月22日

デブラ・ウィンガーを探して (2002年 ドキュメンタリー映画)

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監督 ロザンナ・アークエット
出演 文中に含む

未到の新大陸 

 34人の女優にロザンナ・アークエットがインタビューしました。テーマは「デブラ・ウィンガーは人気絶頂のときになぜ引退したか」です。ロザンナは家庭と仕事を両立させようと、自分は犠牲をはらいながらなぜ女優を続けようとしているのか自問自答する。そこには仕事を愛しながら引退を考えている自分がいる。敬愛する女優たちにあって彼女らがどう生きてきたか話をききたいと思った、というわけ。登場する女優がキラ星のような陣容です。でもな。人の話きいてどうするのよ。一度や二度仕事を辞めたいと思うことなど女優の特権ではない。だれだって家庭と仕事の壁にぶつかることはある。それを「わたしの旅はどこまで続く」なんてキザなことを言って欲しくないね。それより彼女が意図してそこにたどりついたのか、あるいは取材したすぐれた女優たちの告白やサディッションがこの場所に導いたのか、どっちかわからないが延々と垂れ流すように続いたインタビューは、ロザンナに感傷を棄てさせるに足るこの言葉で締めくくられる。ラストシーンである。彼女が前にしているのは母親の墓だ。墓碑銘「M・アークエット 1939―1997」に向いて娘は独白する「4歳のとき母はわたしに<赤い靴">をみせた。素晴らしい母よ。でも自分自身は思う存分芸術的な才能を生かしたとはいえなかった。自分の創造性を5人の子供を産むことに捧げた。創造的な子供に育てた。そして支えた、一人の俳優を、父を。母の死因はガンだったが本当は自分の才能を生かせなかったことが母を殺したのだと思う」これで本作の骨子は言い尽くされたようなものです▼女優たちのコメントにはしかし、ハリウッドの修羅場をかいくぐった人物でなければいえないような示唆にみちキッパリした内容がある。インタビューした女優はほぼ40代以上だ。美しさが衰え始めた女優は賞味期限切れか。ある女優はこういう「ジーン・ハックマン、アル・パチーノ。ショーン・コネリー、彼らと同じ年齢になって仕事をやれている女優が何人いるかしら」。ジェーン・フォンダは「女優とは自分を切り売りして生きている。映画界に合わせたり与えられた役に合わせたり、付き合う男に合わせたり。自分に正直でいると恋や仕事まで失う羽目になる」まことにハリウッドとは映画の魔都か。でもそれを承知でこの世界に入ったのでしょ、みなさん。いまさら泣き言いうなよな、と開き直ったこういう人もいる。ウーピー・ゴールドバーグ(「天使にラブソングを」)だ。「30歳のときそろそろ引退をといわれたわ」と話すメラニー・グリフィス(「ワーキング・ガール」)のあとを受け「引退させたいのよ。そういうやつらこそ何? 長続きしない連中よ。まるで長生き合戦だけど女優のほうがやつらより長生きよ。わたしは自分の尻にストーカーされているの。ジョギングしようとエクササイズしようと、尻は大きく垂れてわたしについてまわっている。今さらジタバタしても遅いって尻は言うのよ。私は言ってやったわ、その通りだって」▼女性の脚本家や監督も待望されている。ハリウッドの男社会で、女優は「男から見た女」を演じるしかなかった。若くなければ価値がない、美貌でなければ女優ではない、男のいうことをきく使い勝手のいい女優でなければ役がもらえない。ヴァネッサ・レッドグレーヴはそういうハリウッドのセオリーに対し「女優の活躍する層が若くなっていく。わたしはわたしだし、この年だから自分にできることをするだけ。なんとか生活していくわ。でも若くてもわたしのような境遇の人もいて心配になる。メディアは移り気だし目先の流行にとびつくわ。だから自分を守ってほしいの。気をつけてね」。ホリー・ハンター(「ピアノ・レッスン」)とフランシス・マクドーマン(「ファーゴ」)はイェール大学時代のルームメイトだ。今でも仲がいい。「40代に入った女性は外野に追いやられる。ホリーと話していてわかったのよ、女優が整形手術をしてはいけない理由がね。わたしは今44歳だけど、あと10年もすれば54歳の女の映画が必要になるわ。そのとき54歳にみえない女がいたらそれこそたいへんよ」▼さてインタビューはいよいよデブラ・ウィンガーだ。彼女は「女は40を過ぎたら自分の声を聞いたほうがいい。わたしは21歳で成功し映画に違和感はなかった。しかし女優をやる自信がもうないの。毎日1時間鏡に向かうのもだめ」デブラは引退後子育てと主婦業に専念し、社会的にはさまざまな奉仕活動で充実した日々を送っている。老いた男を主人公にした映画は撮られてきても(「人生の特別席」「アバウト・シュミット」「最高の人生の見つけ方」など)、老いた女を正面からとらえた映画はハリウッドであったか。あったけれどそれらはみなヨーロッパ映画だ。「デュラス/愛の最終章」のジャンヌ・モローがいる、「マリーゴールド・ホテル」のジュディ・デンチがいる、「ゴスフォード・パーク」のヘレン・ミレンがいる。カトリーヌ・ドヌーブの娘キアラ・マストロヤンニも取材を受けていたが平凡だった。映画が好きですきで、女優の「魔」になった母親の腹の座り方とは似ても似つかない。ハリウッドの60代といえばメリル・ストリープ、スーザン・サランドン、シガニー・ウィーバー、ジェシカ・ラング、ダイアン・キートン、グレン・クローズ…彼女らが徐々に固く閉じられていたドアを開きつつある。女優とは男のための装飾ではなく、女が一生を費やしてクリエイトするに足る職業であることを、彼女らは体現しつつある▼監督のロザンナだけど、今の人にはこういったほうがわかりやすいかな。「Lの世界」でシェーンの恋人になったハリウッド一のセレブな主婦役シェリーです。浮気なシェーンが初めてこの人といっしょに暮らしていきたいと熱愛する。シェーンよりかなり年上の彼女はでも現実がみえている。たかが美容師見習といっしょになっていまの身分を棄てる気はない。そんな世故長けた女であると同時に、シェーンの純粋な愛情に心洗われずにはおれない、繊細で複雑なセクシュアリティを、とんがった演技で演じました。あれれ、ロザンヌがカンヌ国際映画祭に出席したときのカメラに、ジェニファー・ビールスとハグしているのが映っていたよ。この2年後ジェニファーは「L」のベット役で、デビュー作「フラッシュ・ダンス」以来の成功を収めます。ゲイと老い。これまでハリウッドがダーティーな、あるいはマイノリティであるために取り上げる価値がないとしてきた愛の分野が、女優たちの未踏の新大陸として現れつつあります。現にあの俊敏なミヒャエル・ハネケが、老々介護をいう社会問題の最先端をとりあげながら「これは社会問題ではない。愛の物語だ」と自ら銘打って「愛の新分野」を示したじゃないですか。あの哲学的な風貌に目を奪われて、彼がなんでも難しい映画にすると思いがちだけど、彼のジャーナリスティックな「つかみ」の鋭さは超一級です。

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