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シネマ365日

2014年4月24日

アトランティック・シティ (1980年 社会派映画)

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監督 ルイ・マル
出演 バート・ランカスター/スーザン・サランドン/ミシェル・ピコリ/ケイト・リード

ルイ・マルの「語り」

 ルイ・マルが「恋人たち」を撮ったのは26歳のときだ。本作で彼は46歳になっている。「恋人たち」は終始一貫うわごとみたいな台詞を聞かされ、まともな神経で受け止めるには、大人ははたしてどういう幻想をもてばいいのかと思ったが、20年後の「アトランティック・シティ」は「恋人たち」その後みたいだった。バート・ランカスター扮する初老の賭博師ルー。かつてはベガスの賭場を仕切った伝説のディーラーだ。今はこの街でしょぼいナンバーズ賭博のパシリで食い扶持を稼いでいる。彼が「栄光の過去」をほのめかす話をするとおしゃれで恰幅がいいのでいかにもそれらしく聞こえるが、同じアパートに同居するルーの友だちだった男の妻グレースにいわせると、彼は肝心なときに女を守れないフニャチン男だとクソミソ。関節炎で寝たきりになった今はルーを下男扱いするタカビーだ▼この映画のファーストシーンは女の手がレモンに包丁を入れゆっくり輪切りにするところのクローズアップである。ほかになにも映らないのにその部屋が薄暗く貧しく、家具らしい家具もなくたぶん女の一人住まいであろうことが伝わる。ひとことも台詞がないシーンがルイ・マルの饒舌な映画言語で語りかけてくる。サリーは市内の有名ホテルで賭場のプロのディーラーになるため養成講座に通う。サリーは田舎の小さな漁港の町からアトランティック・シティにきた。結婚はしたが夫は妹と不倫。彼等を故郷に棄てるようにして出てきたのだ。ルーはサリーに好意をもっている。サリーが帰宅したらレモン汁をたっぷり絞って肌にすり込む習慣も隣の窓からひそかに見て知っている。棄てたはずの夫と臨月の妹がサリーを頼って街にやってきた。疫病神のような元亭主の出現にサリーは髪が逆立つ。元夫はルーが昔賭場を仕切っていた大物だとおだてあげ、いい気にさせて麻薬を現金に替えるため地元の組織の仲介を頼む▼グレースやサリーにすればルーにせよ元亭主にせよ、どうしようもないダメ男だとわかっているのだけど観客にだけはそうみえない。いやみえにくい。それがルイ・マルの監督術か、はたまたバート・ランカスターの男ぶりなのか。元亭主は殺され彼の代役で大金をせしめたルーは、手元に残っている麻薬を小分けして売りさばき、スーツは新調する、とびきりのレストランにサリーを連れていく、見違えるような羽振りになる。さすがにルーは昔ならした男らしく贅沢が身についていて、メニューを見る、ワインを選ぶ、牡蠣だか何だか、高そうな料理をさりげなく注文する、それら一連の仕草が洗練されていてサリーは目をみはり「あなたのすべてを教えてほしいの」と前のめりになる▼しかし麻薬を奪われそのままにしておく組織ではなく、サリーを襲う。ルーが手持ちの拳銃で彼等を射殺し、サリーを乗せて車で逃走する。ルーは初めて女を守った自分にすっかりハイになる。逃亡先は、ルーはフロリダがいいといい、サリーはパリに行きたい。ルーの目を盗んだサリーは財布から札束をまきあげる。ルーはそれを見ているが知らぬ顔をし「コーラを買ってくる」というサリーに「車は乗り捨てにしろ」と言ってホテルから送り出す。サリーは車を走らせながらパリでディーラーになる夢を描く。幸福感で頬に笑がこみあがる。ルー? もちろん腐れ縁のグレースのもとに。残った麻薬を今度はグレースが売りさばき金にして当分はこまらない感じ。ルーが賭場を仕切った古いカジノは、チェーン店が進出した新しいカジノ経営に取ってかわられ、ここアトランティック・シティの古き好き時代は去った。すたれゆく街で、やけにもならず愚痴もいわず、ときには昔の自慢話などして、グレースのベッドにときどきもぐりこむこともある。ルーは古いけれど仕立てのいいコートにシックなスカーフというダンディないでたちで街にでる。灰色の海から吹く季節風が今日も強い。

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