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シネマ365日

2014年4月25日

美しい人 (2006年 オムニバス映画)

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監督 ロドリゴ・ガルシア
出演 文中に含む

人生は過ぎゆく 

 9人の主演女優の豪華なこと。ロドリゴ・ガルシア監督ってほんと女優に人気があるのね。たぶんあの叙情的でロマンティックで詩的な映像のせいでしょうね。グレン・クローズとホリー・ハンターなんか「彼女をみればわかること」以来彼の大ファンだ。グレンは自らプロデュースした「アルバート氏の人生」では、ロドリゴ以外の監督を考えなかったというからね。ハーバード大学卒業、父にノーベル文学賞作家をもつ知性のサラブレッド。撮影監督出身という映像の撮り方を知り尽くした監督技術と感性。いわれてみれば「あら、そうだったの」でしかないシンプルなことが、彼の監督術によって「意味ありげな雰囲気」に仕立てあげられるってこと、とても女性は好きなのよ。この映画にそういうガルシア的意味付けがふんだんに盛り込まれ、あんまりありふれていてスーッと見すごす日常が、人生を形成する大切な断片であることを教える▼豪華な主演女優だけでもとりあえず書き出しますね。第一話「サンドラ」エルビディア・カリーロ。本作出演のため刑務所を見学して女囚を取材した。第二話「ダイアナ」ロビン・ライト・ペン。「声をかくす人」でリンカーン暗殺に関与した、アメリカで初めて死刑になった女性を演じた。第三話「ホリー」リサ・ゲイ・ハミルトン。最新作はサイコ・スリラーの「テイク・シェルター」。第四話「ソニア」ホリー・ハンター。グレン・クローズが「ダメージ」のパティ・ヒューズならホリー・ハンターは「女捜査官」のグレイス・ハナダルコ。かたや辣腕弁護士、かたや酒と男で身を持ち崩した女刑事。テレビのシリーズもので主役を張る二大女優です。第五話「サマンサ」アマンダ・セイフライド。ベテラン女優たちにまじって27歳のアマンダが健闘。「レ・ミゼラブル」の好演も特別なものと思えないくらい、彼女の女優業は目下充実しています。第六話「ローナ」エイミー・ブレナマン。「彼女をみればわかること」では奔放で目がみえないキャメロン・ディアスの姉の女性刑事を演じました。第七話「ルース」シシー・スペイセク。これまた芸域の広い方。「歌え!ロレッタ愛のために」のオスカー女優ですね。第八話「カミール」キャシー・ベイカー。彼女「女捜査官」のいくつかのエピソードでホリー・ハンターと共演していますね。どっちを向いてもだれかのお友達がいるという、よく知った人ばかりで作られている映画だ。第九話「マギー」グレン・クローズ▼監督がいうには「ある状態から抜け出せない人々」を描いた映画だそうです。人間関係から抜け出せない、過去のしがらみから抜け出せない、そんな状況にいる人たち。人生の真相は現実の断片にしかないと言ったのはミヒャエル・ハネケですが、同じことをガルシア監督もいいたそうだ。本作は主人公の人生を象徴するエピソードがそれぞれ取り上げられている。たとえば「ローナ」のキーワードは「未練」「サマンサ」では「傍観」。「サンドラ」では不条理。「マギー」では「沈黙」というふうに。各編10分程度なので前後関係は観客にわからない。最低限の情報しか与えられないから、目前の映像だけでヒロインたちの人生を想像するしかない。他人の会話が耳に入ってきて、心ならずも盗み聞きしているような感じ、と「ホリー」のハミルトンが役作りを言っていたけどアタリだろう▼グレン・クローズの出演するシーンは沈黙の時間が多い。孫のような年齢の女の子が娘だという不思議な取り合わせでエピソードは始まる。墓参にきたマギーと女の子は芝生の上でランチを広げ、娘は「おしっこがしたくなった」とか「木に登ってもいい?」とか、ありふれた会話が綴られる。マギーはひとつひとつに答えてやり、ぶどうを女の子にあげる。そろそろ帰る時刻になった。マギーはシートをたたみ弁当を片付け、墓石のそばにきて、そっとぶどうを供える。娘の墓だった。マギーは想念のなかで娘といっしょにいたのだった。「人物の表情をどこまで見せるかは役者の判断にかかっている。あるシーンではその思いをさらけだし、あるシーンでは隠す。ロドリゴの映画では抑制した演技が似合うと思う」とグレン・クローズは述べている。こういうふうに人生は過ぎていくのよ、去っていくのよ、とマギーはいう。そこは墓地だ。本作のテーマ「人生は過ぎゆく」。それを重苦しくなく、過剰な感傷もなく、虚無だけにしてしまうこともなく、そこにもまた人生の美しさがある。監督と9人の女優たちがもらす吐息のようなものが聞こえてくる映画です。

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