女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2014年5月1日

特集「料理の映画」 ヘルプ 心がつなぐストーリー (2011年 社会派映画)

Pocket
LINEで送る

監督 テイト・テイラー
出演 エマ・ストーン/ジェシカ・チャスティン/ヴィオラ・デイヴィス/オクタヴィア・スペンサー/シシー・スペイセク

三人の味方

 人種差別と公民権運動というシリアスな社会派映画をなぜ「料理」でくくるのか。理由はこうです。抑圧と差別が鬱積していた黒人の「ヘルプ」と呼ばれる女性たちがいた。ヘルプとはメイドである。この映画は彼女らを支え、彼女らに勇気を与え守った偏見のない、あるいは偏見から目覚めていた白人女性がいたことをきちんと抑えている。三人いる。白人セレブ階級の社交界から浮いていた女性、シーリア(ジェシカ・チャスティン)、本作のヒロイン、スキータ(エマ・ストーン)の母親シャーロット(アリソン・ジャネイ)、本作の悪役ヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)の母親ウォルターズ夫人(シシー・スペイセク)だ。そしてこの三人をつなぐ輪が、ミシシッピ一番の料理人・黒人ヘルプのミニー(オクタヴィア・スペンサー)と、彼女の作った「パイ」であり彼女が腕をふるった料理の数々なのだ▼いちばんのもうけ役はジェシカ・チャスティンだろう。ミニーは雇い主ヒリーの家のトイレを使ったためにクビになった。ヒリーは黒人といっしょのトイレを使うと病気になるといいふらすような女性だ。腹の虫のおさまらないミニーは〈おわびのしるし〉として特製パイを屋敷に持参する。ヒリーは見下した態度でパイを食べながら(ミニーのパイにはだれも抵抗できない)、賃金を下げて再雇用してやってもいいと横柄に告げる。ミリーは言う「クソ喰らえ」文字通りクソ入りパイだったのだ。常々娘の目にあまる、ヘルプへの差別に嫌気がさしていた大奥様ウォルターズ夫人は笑い転げる。煮えくり返ったヒリーは報復として母親を施設に入れてしまう。スキータが書いた本は白人セレブ階級の女性らの非人間性を、ヘルプ自身の証言から明らかにした暴露本だ。1960年代のミシシッピでは、黒人の肩をもつだけでその白人と、白人と口をきく黒人はリンチにあった。だから劇中ミニーはスキータに言う。「わたしの言うことを書いてもいいわ。わたしは命がけなの。あなたも覚悟して。わたしの話を聞くなら対面して。まっすぐわたしの顔をみて」▼このミニーを雇ったのがシーリアだ。ミニーが彼女の邸宅を訪れると、シーリアが玄関に走り出てくる。大喜びでミニーの手をとって抱きつく。ミリーは体を固くする。こんな光景を見つかったら命はない。シーリアはひっぱるようにしてミニーを家に入れる。いるのである、こういう人が。男とか女とか身分とか学歴とか、出身とか国籍とか年齢とか、人が差別というほとんどの差異になぜか無頓着な人が。人を束縛するものからなぜか自由な人が。料理はなにができるのかと聞くミニーにシーリアは「茹でジャガイモと…」(お前それって料理というものか)ミニーはそう思ったに違いないが、ミシシッピ一番の料理人はさりげなく続ける。「料理を覚えるならショートニングです。瓶詰めマヨネーズ以来の大発明です。最高の使い方はフライドチキンです。フライドチキンを食べると幸せな気分になります。おいしいの、なんの」ミニーが料理の話を始めると聞いているだけで食べたくなる。ある日ミニーが台所で昼食をとっていると「ここにいたのね。おなかペコペコだわ」シーリアが自分の皿をもち、ミニーの前にすわるとうまそうに食べ始めた。「いけません。奥様はリビングで召し上がってください。お持ちします」ここで食べたいというシーリアに「ハッキリ申し上げます。もし旦那様にみつかったらわたしは射殺です。いくら隠していても料理でばれますよ」旦那は黒人大嫌いなのだ。「パイを焦がしたらわたしだと思うわ」ミニーはキッパリ「わたしが焦がすとお思いですか」▼ミニーはDVにあっていた。顔のあざを手当してやりながらシーリアは罵る「なんてやつなの。地獄へ落ちろ、クソ男」。シーリアの夫はヒリーの元恋人だった。ヘルプとは「家政婦は見た」のアメリカ版で、どんなうちわの事情も知り抜いてしまう。シーリアが珍しく夫人たちの会合にパイを焼いて持参したところ、ヒリーは慇懃無礼に断る。ミニーにそれをいうと、クソパイの真実こそいわなかったが「ヒリー様はまだ元の恋人に未練がおありです、大奥様から聞きました。だからシーリア様が自分の恋人を横取りしたと恨んでいるのですよ」(ははん、そういうことか)シーリアは地方名士が集うパーティに、大きく胸も背中もあいた大胆な真っ赤なドレスで出席する。女たちはみな地味な黒いドレス。ヒリーのテーブルに近づいたシーリアは「わたしが主人を寝とったみたいに言っているらしいけど、浮気なんかじゃないわよ」ずけずけと挑発し、ワインの飲み過ぎでゲロまでまきちらす▼本は出版され大反響を呼んだ。ヒリーはクソパイを食べた白人が自分だと知られたくないので「あの本はヘルプたちのでっちあげだ、このミシシッピで黒人にあんな真似ができるはずがない。よその州の話だ」と矛先をかわすのにおおわらわだ。そこへヒリーが会長を務める団体にシーリアから寄付が届く。但し書きは「パイ2枚分200ドル」こんちくしょう、事実を知っているやつがいるのだ。ヒリーの絶叫が屋敷中に響き渡った。ウォルターズ夫人は言う「自分の生涯で絶対に忘れられないことがふたつあるわ。ひとつは実の娘に施設に入れられたこと。ふたつはその娘がクソ入りパイを食べたこと」母親も事実を知っていた。ヒリーはシャーロットの家に行った。娘のスキータが本の著者だからただではすまさないと脅しをかけたのだ。母親はスキータを育ててくれたヘルプのコンスタンティンを、差別意識の強い地元有力者の圧力に負け、一方的に解雇したことを悔いていた。失意のうちにコンスタンティンは亡くなりスキータは母親が許せなかった。ヒリーに母親は宣告する「娘がしたことはわたしの誇りだわ。あなたこそまちがっている」。公民権運動の波は、ひとりひとりの黒人を愛し、理解し、守り支持する白人のいたことがうねりを増幅させたといってもいい。それがこの映画でみる限り女たちであり、女たちを結びつけ励まし、力も策も与えたのが料理だった▼そのひとつがこのシーンだ。ある日ミニーはリビングに招じ入れられた。大きなテーブルのみごとな器に盛られたふんだんの料理。シーリアの夫は「君にお礼がいいたかった。妻は君のおかげで元気になった。君がきていることはわかっていた。パンしかない妻の料理とはちがったからね。これは君に喜んでもらおうと妻が徹夜で頑張ったのだ」シーリアの心遣いに勇気づけられたミニーは夫を見限り、子供たちを連れて家を出た。黒人だって仕事は得られるのだ。黒人の味方だってこの通り、神様は与えてくれたではないか▼本作は2500万ドルという膨大な制作費が投入され2億1000万以上の収益をあげました。制作費のほとんどがギャラだったのでは、と思いたくなるほど豪華な女優陣です。ジェシカ・チャスティンは本作でアカデミー賞女優助演賞にノミネートされたのが弾みとなり「ゼロ・ダーク・サーティ」で主役に抜擢、これまたアカデミー主演女優賞の候補となるなど大スターへの堅実な歩みを示しています。もうひとりウォルター ズ夫人のシシー・スペイセク。今さら彼女の女優歴はいうも蛇足でしょう。本作でもやられたら倍返しの腹の座った女性を怪演しました。アリソン・ジャケットは「私の愛情の対象」で、ゲイの男性との愛を通じて自分の生き方を見出していく女性が印象深かった。そしてもうひとり、ミリーの親友で、実質この映画の主役であるヴィオラ・デイヴィス。ご記憶かもしれませんが「ダウト あるカトリック学校で」は、わずか数分の出演シーンにメリル・ストリープを向こうにまわし、一歩もひけをとらず、アカデミー助演女優賞にノミネートされた女優。被害者っぽい役ばかりかというととんでもない、「完全なる報復」ではホシをあげてこない刑事や検事をどなりつけるこわい市長。主役から脇役まで、みごとなまでの女優たちでこの映画は構成されました。監督はラストを楽観的ではなく、今後も続く苦難を予知させて終わります。それはこれまでの孤立無援の戦いではなく、うち続くであろう抑圧と差別に、でも一条の光を見出した出発でした。長い道をひとり歩くヒロインの後ろ姿に、世界は拍手と支持を送リ続けるでしょう。

Pocket
LINEで送る