女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2014年5月3日

特集「料理の映画」 宮廷料理人ヴァテール (2000年 事実に基づく映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ローランド・ジョフィ
出演 ジェラール・ドパルデュー/ユマ・サーマン/ティム・ロス/ジュリアン・サンズ

命がけの饗宴 

 フランス料理の贅を尽くした饗宴ね。天才と呼ばれた実在の料理人ヴァテール(ジェラール・ドパルデュー)が自裁するまでの最後の3日間。太陽王ルイ14世(ジュリアン・サンズ)の信頼を取り戻そうと腐心するコンデ大公は、コンデ家の城にヴェルサイユ宮から王・王妃、廷臣全員500人を招いて接待する三日三晩の大宴会を料理長ヴァテールに任せる。ヴァテールという人はホント真面目で誠実でその料理のごとく繊細で、超一流のプロフェッショナルとして誇り高く、だから主人が押し付けるこういう無茶苦茶な重責を引き受けちゃうのね。病気にでもケガにでもなっちゃえばいいのよ、だいたいコンデは王を裏切って失墜したような男なのよ▼宮廷とは策略と謀略が渦巻く魑魅魍魎の世界。料理一筋に生き抜いてきたヴァテールのような純粋な男が身をおく場所ではない。とにかくヴァテールは料理だけでなく宴会のプロデュースまでやる。王をもてなす連夜の大イベントである。そんじょそこらのお祭ではすまないのだ。ヴァテールは料理のコンセプトを第一日目「太陽の栄光」、二日目「水の饗宴」三日目「氷の饗宴」とした。宴会の舞台に現れる以前の段取りと下ごしらえだけで目がまわる。運び込まれる材料をいちいち吟味し、ああしろ、こうしろとヴァテールの指示が飛ぶ。料理だけではない、中に種類の違った食材がまじっていると「代わりにこうやれ」と臨機応変の処置を命じる。贅沢に慣れた招待客をアッとわせるエンタテイメントの仕掛けがいる。広大な庭園がラスベガスもまっさおなステージに七変化。人力でまわす滑車や宙吊りの舞台裏をていねいに見せる。CGを使わない迫力に呆然のスペクタクルにさすがの貴族陪臣もどよめく▼王妃の女官のひとりがアンヌ・ド・モントージェ(ユマ・サーマン)だ。ヴァテールはアンヌの物静かな洗練された美しさに魅了される。彼女に魅了された男はほかにもいた。王と臣下のローザンヌ侯爵(ティム・ロス)だ。ティム・ロスが盛り上げたカツラ頭で登場するといっぺんに不穏な空気がスクリーンにかもされる。みるからに陰謀好きないやらしい顔である。トリモチみたいなネチネチした台詞まわしでアンヌに言い寄り、相手にされないと(じー)と見つめる。それだけで悪事を企んでいることが観客はわかった気になるのだからすごいといえばすごい。ティム・ロスが大きなカツラをつけカカトの高い靴を履いてもユマ・サーマンの肩くらいだ。だから(じー)のときはかなり急傾斜でユマを見上げる。それがまたティム・ロスのいやらしい目つきをいっそう生々しくさせるのだから面白い。アンヌは王に夜伽を命じられる。アンヌからみれば王侯貴族など、きらびやかな衣装をまとった猿にも劣る連中である。人の心を平気でふみにじる無理無体に、従わねばならぬ自分もやりきれないが、女官と料理人という位置こそちがえ、ヴァテールも似たような立場であろう。それでも身を粉にして、不眠不休で仕事に没頭するヴァテールを、アンヌはいつしか思いのこもった目で見つめる自分に気づく。ユマ・サーマンの低い、かすれた声がアンヌの情念によく似合っていました。とはいえヴァテールを助けたい一心のあまり嵐を念力で止ませるのはちょっとやりすぎね▼アンヌはヴァテールと一夜をともにしたところをローザンヌ侯爵に見咎められ「王を裏切ったな、王が知ったらお前は斬首だ、黙っていてやるから今度はおれと寝るのだ」とまあどこまでも卑しい男が板についていたティム君であります。いっぽうでヴァテールは王とコンデ大公の間で賭けの対象になり、王が勝ったから身柄はヴェルサイユ宮殿へ、今までの大公への忠誠は無視され物品同様の扱いを受ける。そんな、こんなの波乱と陰謀と愛慾の宴会はついに最終日「氷の饗宴」が来た。食材は魚である。シケのため運び込まれた魚はヴァレールが望む魚種にも量にもほど遠かった。それならメニューを変えればと思うのは文化が違う国の発想で、当日は金曜日、カトリックでは金曜日は肉断ちの日で、海の神ネプチューンやヘリオスが太陽に感謝を捧げる日であり、食材は魚でなければならなかった。料理が間に合わない。職務を果たせなかったヴァテールは淡々と朝食をすませ剣を胸につきたてる▼厳密にいえば昨夜の賭けで、ヴァテールは王の持ち物になっていたのだから、職責も責任もないのに、どこまでも料理人の仕事を遂行するのよね。大公といい侯爵といい、正体はごろつき同然じゃない。宮廷の腐乱にうんざりしたアンヌは暇乞いをする。届いたヴァテールの手紙に彼女は慟哭する。「マダム。これを読む頃わたしはこの世におりません。残念なのはおそばにおれないことです。饗宴は失敗だったと世間は言うでしょう。あなたの開いた心も閉ざされた。わたしはこの祭典の指揮官ではなく奴隷でした。逃避行が無事でありますように。あなたの故郷は南仏ではありませんか。もしそうならボークリュース近郊のぶどう畑に桜の木が植わっています。そこのワインからはサクランボの香りがたちのぼります。あなたのしもべ、フランソワ・ヴァテール」。つらい手紙ですが、ヴァテールが仕切った宴の素晴らしさと彼の死のことは、宴席に出席していた当時の文化人セヴィニエ夫人によって記録され、世に出たことは幸いだった。

Pocket
LINEで送る