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シネマ365日

2014年5月8日

特集「料理の映画」 ソウル・キッチン (2009年 コメディ映画)

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監督 ファティ・アキン
出演 アダム・ボウスドウコス/モーリッツ・ブライブトロイ

このレストランで生きていく 

 「ソウル・キッチン」は倉庫を改造したレストラン。ハンブルグのうらぶれた町外れにある。店主はジノス(アダム・ボウスドウコス)。恋人のナディーンは上海に転勤する。いっしょにいこうと言われているが気が進まない、といってナディーンとは別れたくない。ジノスが作る料理は袋物のレトルトか冷凍食品、袋から出して油で揚げれば「魚フライ」や「肉ダンゴ」のできあがりだ。でもジノスはこの店を愛している。従業員は二人。バンドマンのルッツと不法滞在のクールビューティで、酒と絵を描くのが好きなルチア、そこへ加わったのが刑務所を仮出所したジノスの兄イリアス(モーリッツ・ブライブトロイ)。ジノスと喧嘩ばかりしている元船員で家賃を払う気のない爺さん、ソクラテス。料理の腕は一流だが客の言うことをきかずトラブルばかり起こすシェフ、シェイン。まあみごとにダメ人間ばかり集まった、というところで監督は映画を煮詰めていきます▼恋人とわかれたジノスは税務署に衛生局ともめ、おまけに椎間板ヘルニアになって料理も作れない。勤めていたレストランをクビになったシェインを雇ったが、シェインの洒落たメニュー「巨匠のスープ」や「地中海のなんとか」という料理をだれも注文しない。シェインは厨房を出て、テーブルに腕を組んでブスッとすわっている常連客に怒鳴る。「なんだっておれの料理を注文しないのだ」。かれらはテーブルを叩き「魚フライが食いたい」「肉ダンゴをだせ」と叫ぶ。頭にきたシェインは「お前らに食わす料理はない」客は口々にわめきながら出て行った。ジノスはシェインに本格的な料理を習うことにする。日を追うごとにシェインの繊細な、アートのような料理は客をびっくりさせ、バンドマンに演奏させる音楽が評判になり、集まった客は歌っているうちに腹が減ってメシを食い、喉が乾いて飲み物を注文した。店は大繁盛。ところが好事魔多し。兄のイリアスに店を任せ恋人を追って上海に飛んだジノスは、恋人に寄り添う男を目のあたりに。おまけにヘルニアが悪化し、このままでは車椅子だと手術を進められるが保険に入っていないので断り、強烈な鎮痛剤でごまかし傷心の帰国。ところが兄は不動産屋に騙され店を乗っ取られていた。ジノスは兄と店の権利書を盗みに入るが、警官に見つかり腰痛のため逃げ遅れ挙動不審で御用。兄は仮出所中のため再び収監、ジオスだけ釈放されるが体はマヒしてしまった。上海に行く前、恋人のナディーンが紹介してくれた理学療法士アンナを頼り、トルコ人の整体師の治療を受けることに▼つぎからつぎ、ジノスの身の上にふんだり蹴ったりの災難が振りかかる。ジノスはしかし「勇気をだせ」とか「あきらめるな」とか「この試練に耐えよう」とか、特に標語的なモットーは言わない男だが、なにごともあるがまま受け止め、ペシャンコにはなっても死なない男なのである。整体師のおかげでマヒが治ったジノスは、「ソウル・キッチン」が競売にかけられることを知った。不動産屋は脱税がばれて刑務所にぶち込まれた。ジノスは元恋人のナディーンから20万ユーロを借り、オークション会場に駆けつける。競争相手が20万ユーロを提示、ジノスは有り金はたいて20万15ユーロを。相手がさらに入金を指示しようとするが、喉がつまり(ジノスの上着からとれたボタンをガムといっしょに飲み込んだ)、咳き込んでいるうちにタイムアップで競売終了。ジノスは店を買い戻す▼ジノスは昔の仲間にいっしょに仕事しようと呼びかける。シェインはサーカスでナイフ投げをしていた。ルチアは飲み屋でバーテンをしていた。バンドのメンバーのひとりはスケート場で働いていた。店を取り戻したジノスはシェイン仕込みの料理の腕をふるい厨房は活気づく。そしてクリスマス。ジノスは店を貸し切りにし、アンナとふたりだけのテーブルを囲む。メルヘンっぽいが嫌味なエンディングではない。ジノスにしても兄のイリアスにしても、シェインもルチアもわけありの連中が、なぜか他人事に思えなくなる。ドジを踏みながらもあきらめず、しがみついて生きていく彼らの強さを、観客はいつのまにか信頼している。兄のイリアスになったモーリッツ・ブライブトロイは「ミケランジェロの暗号」の主役です。ピンチのたびに底知れぬ交渉術を繰り出して危機を脱する、そんなユダヤ人に扮して印象的でした。

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