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特集「過剰な女たち」

2014年5月21日

特集「過剰な女たち」 キング・イズ・アライヴ (2000年 社会派映画)

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監督 クリスチャン・レヴリング
出演 ジェニファー・ジェイソン・リー/ジャネット・マクティア

砂漠のコーディリア 

 クリスチャン・レヴリング監督ってドグマ95のメンバーですね。1995年にデンマークで設立された前衛映画の監督集団です。一言でいうとアンチ・ハリウッドを軸足とする映画作りで「純血の誓い」という10のルールを決めていました。人工的な照明は禁止、後付の音楽も効果音も禁止、カメラは常に手に持って撮影する、フィルムは35ミリ・カラー映画のみ、撮影はすべてロケーション、表面的なアクションは許されない(殺人、武器の使用など起きてはならない)、回想シーンは禁止(現在ここで起こっていることしか描いてはいけない)などいくつかありました。あえてこういう窮屈な制限を設け、ハリウッドが金にあかして作る最新技術を駆使した豪華スペクタクル・ファンタジーに背を向け、映画製作を見直そうという趣旨で、大口スポンサーもなし。その代わり自由な作風で撮ろうという行き方が注目されました。でも中心人物のひとりであるラース・フォン・トリアーは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」や「ドッグヴィル」を撮っていて、ルールを全部守っているかというとそうじゃなかったと思うが。「ドッグヴィル」はニコール・キッドマンの映画の中では最高最大の大コケで、キッドマンが「ギャラとりすぎの女優」に吊るしあげられたのはこのときじゃなかった? 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」もカトリーヌ・ドヌーヴのただひとり、明るい存在感を除いては身も世もない映画だったな。だからね、なんとなく「ドグマ95」って苦手だったのよ。昔あんまり近づきたくない変わった転校生っていたでしょ。ちょうどそんな子みたいな感じだったのよ…ウダウダ言っていても仕方ない、いくか▼本作の登場人物は、遠距離バスの乗客11人。コンパスの故障で運転手は800キロも間違った方向にバスを走らせており、砂漠の真ん中でガス切れ、しかもエンコ。目的地につくどころか救援を待つ状態になってしまった。目についた民家らしい居住区はドイツ軍が掘っていたという廃坑の跡で、今は砂漠の居住民がたったひとり棲みついている。食べ物は人参の缶詰、水は夜間におりた露を集めて飲む。見渡す限りの砂漠は風紋によって視界を変える。ジャックという男性が250キロ離れた町に救出を頼みにいくと砂漠にむけて出発した。彼の指示は自分が5日たっても帰らないときはバスのタイヤを燃やして黒い煙をあげろ、というものだった▼最初はキャンプ気分で焚き火を囲み、和気あいあいとしてみな元気がよかった。舞台俳優だったというヘンリーの提案で、退屈しのぎにシェイクスピアの「リア王」をやろうということになり、役をもらった。ヒロイン、コーディリアはジーナ(ジェニファー・ジェイソン・リー)である。どうせこいつらろくでもないジジイばかりだと、男たちの正体を見抜いている娼婦だ。彼女はシェイクスピアが文学史上のだれだか、リア王がなんだか知らないが、ヘンリーのにわか講義をきいてコーディリアに心映えに感動し、一生懸命練習し、台詞を言うのを楽しみにするのだ。なんであんな女が主役なのか面白くないのがフランス人のカトリーヌだ。ヘンリーは最初カトリーヌにコーディリア役を打診したのだが、気取って彼女は断ったのだ。そのくせ主演を得て生き生きしてきたジーナに嫉妬するのである。ヘンリーは彼女に次女リーガルを振り当てる。リーガルとともに父王を陥れる長女ゴネリルにリズ(ジャネット・マクティア)である。ジャネットは王立演劇学校出身のシェイクスピア役者であって、特に「じゃじゃ馬ならし」では、金のために何でもする卑しい男を見事に演じた▼水も不足してきた、缶詰も残り少ない、披露とストレスの極限状態でだんだんみな、おぞましい正体をさらしだしてくる。そのなかでひとりまともな精神状態がジーナだ。上演を楽しみにせっせと練習している彼女にいいよった男は「おれが稽古からぬけたら劇は中止だ。芝居をやりたかったらやらせろ」。ジーナは受け入れ男は有頂天を味わう。リズは夫へ愛想尽かしから黒人の運転手をセックスに誘う。みな砂漠の熱と孤独に頭を焼かれ、自律を失っていく。ジーナは自分にかぶりついてくる男に言う。「アンタなんか卑劣なゲス野郎よ、このスケベジジイ。わたしのうえでニヤついて汗をかいて、面白くもなければやさしくもない。自分の体を棄てて逃げ出したかったわ、クソッタレ。なぜあんたなんかとやったか、知りたい? 人をバカにした薄ら笑い、見下した目つき、人を批判する横柄さ。わたしはただアンタを弄んでやりたかっただけよ。出てって!」。しかしジーナは病を得て倒れる。男は息たえだえのジーナの顔に放尿し、死んだことを知ると自分も首を吊る。リズの夫は砂漠にひとり歩き出し、いくつか砂丘を超えたところで横たわっている死体が、救援をよびにいったジャックであると知り、引き返す。戻ってきた夫をリズは抱きしめる。ジーナの死が狂いだした歯車を軌道に戻したのだ。「ジャックを埋めてやろう」だれいうともなく言い、砂漠の埋葬が始まった。夜になった。無言で焚き火の前に車座にすわる生き残った数人。そこへ明かりが、ヘッドライトが見えた、遠距離トラックが通りかかったのだ▼俳優たちはみなノーメイク、撮影中ひげも髪も伸び放題で服もヨレヨレ。ジャネットと彼女の夫役は1時間、即興で芝居させられたそうだ。どんな手法であろうと結果オーライ。映画がよければ、面白ければ、見応えがあればそれでいいのだ。で本作はどうだったろう。見応えはやっぱりジェニファー・ジェイソン・リーですね。彼女が演じた純粋な娼婦。ジーナはきっとコーディリアに呼応できる気質を内に持っていた、だから呼応できたのだと思います。彼女の感情の豊かさは激しさでもあり、卑しい男を痛罵します。彼女の過剰な反撃に、でも同感しますね。

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