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特集「過剰な女たち」

2014年5月23日

特集「過剰な女たち」 美しすぎる母 (2007年 事実に基づく映画)

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監督 トム・ケイリン
出演 ジュリアン・ムーア/エディ・レッドメイン

かけがえのない男 

 本作の主人公アントニー(エディ・レッドメイン)は女が愛せない。セックスはするが結婚して一生いっしょに過ごそうとか、この女を失いたくないとかいう情熱を持てない。女もそれを感じてさっさとアントニーから彼の父親ブルックスに乗り換えちゃう(これも相当なものですが)。アントニーは母バーバラ(ジュリアン・ムーア)と高濃度の感情で密着している。母親が強すぎてほかの女に気がいかない。母に独占されることに快感と嫌悪を覚え、一時は逃れようと男といっしょに遊びまわったが母親の元に戻り、結局は愛憎の相克に耐えられず母親を殺してしまう。母親がいなくなれば自分の人生を取り返せると思ったのでしょうが、刑務所から釈放され身柄をひきとってくれた祖母をもナイフをふるって刺し、祖母は命に別状なかったがアントニーは自殺した。彼は一生母親の支配から逃れられなかった▼殺人事件になった、ならなかったは別として、母親と息子の関係ってこういうの、よくあると思うのよね。いやー息子に限らず娘に対してだって、母親って子供がいくつになっても自分の愛情のすべてを注いで大きくしたという思いがある。子供をみているだけで愛おしく涙ぐみ、胸に抱いて乳房を含ませ慈しんだ自分の感情が甦ってくる。あんなかけがえのない時期があったと思うだけで自分の人生は癒される。バーバラは奔放ではあったが母性豊かな母親だった。それが途中で歪んでしまったのはやはり夫との関係がうまくいかなかったからだ。本作の母親は原題が「優雅な野蛮」とあるように、バーバラは嫁いだ今でこそハイソだがもともと貧しい家の出だ。いい男をみつけることが女の成功にとって金科玉条だった。性格が明るく社交的でくよくよしないバーバラはどこにいってもはなやかな存在だった。真逆が夫のブルックス。祖父から代々受け継いだ遺産で暮らす富豪であるが、ブルックスの精神はまるで豪勢な廃墟だ。金も教育も財産もあるのに仕事だけがなくなにかを社会に還元する気力もない、あるのは女房と社交のパーティで時間をつぶすという、魂の脱け殻みたいな面白くない男になっている。バーバラはそれがわかっているが、こっちは虚しさなんて感じない。結婚によってやっと手に入れたサクセスである。金と時間と名声である。彼女の人生はもはやこわいものなしだ▼夫はだんだんおもしろくもなく、つまらなくなる。息子にかまう半分でも夫にかまっていればこうはならなかったろうが、妻は夫との空隙を埋めるのにますます息子を溺愛する。夫はますます横を向く。優雅な社交界の花だけでなく、その性格に生来の「野蛮な」荒々しさを備えている妻は、ヘタレの夫に甲斐甲斐しく仕えたりしない。そのくせ夫が女をつくると逆上してタクシーの運転手とでもホテルに行く。ラディカルな妻であり母であるバーバラに、夫であり息子である男たちはフラフラである。夫はとうとう女といっしょに別居、50歳になるかならないかの、世間でいえば男盛りの年で隠居同然だ。息子は壊れた原子炉みたいに放射能を発する母親とふたりだけなんて、焼き殺されるような恐怖から父親に家に帰ってくれと頼むが、父親だって死にたくないもの帰りゃしませんよ。やむをえず息子は家をでて男友達といっしょにあっちに滞在、こっちに旅行。放っておかれた母親は自殺をはかり息子は驚倒して飛んで帰る。息子にしたら最愛の母が父に見捨てられ、自分が母を守ろうとするのだが▼本作の近親相姦のシーンってさくさくしたものね。「いった?」と母親がきく。「いいや」と息子が答える。気心の知れた娼婦となじみ客のほうがよっぽど情が通っているのではないか。母親は「いかしてあげるわ」と熱をいれてとりかかる。息子の息絶え絶えの様子に満足し「よかった?」と聞く。思うにバーバラにとっては息子も夫も、もともと家族という絆の感覚では結ばれていなかった性的他者なのでしょうね。息子は母親を刺殺したあと警察に連絡し事情を伝え、ピザ屋に電話し「チーズにポテトチップ、大盛りだ」と細かく注文をつけ「肩の荷がとれたように感じた。ぼくは静かに落ち着いている」とつぶやく。重かったのだろうな、母親が。彼は心神耗弱状態の殺人で有罪、精神医療刑務所に収容され、1980年に釈放。米国に戻りバーバラの母に引き取られた。一週間たたぬうち口論のあげく祖母をナイフで刺した。祖母は入院し一命を取り留めた。アントニーは逮捕されライカーズ島に送られそこで1981年ビニール袋を頭からかぶり命を絶った。母親はたとえ殺されても、息子によってであれば本望だったにちがいない。驚く様子もなく受け入れたジュリアン・ムーアの演技が重厚だ。息子は母親を殺すことが形を変えた自殺だとわかっていたと思える。

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