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特集「女のわがまま」

2014年6月2日

特集「女のわがまま2」 クロワッサンで朝食を(下) (2012年 社会派映画)

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監督 イルマル・ラーグ
出演 ジャンヌ・モロー/ライネ・マギ/パトリック・ピノー

ここはあなたの家よ 

 フリーダの一見いじわるな態度は、彼女の妥協のない生き方からくるものであり、容赦ない言動は辛辣な真実を含んでいることがアンヌにはわかってきます。もともと聡明なアンヌですから、フリーダの教養や知性、美しい家具調度を身の回りにおく本物の審美眼の持ち主であることがすぐわかった。不思議なことにそれがわかると、彼女の傲慢な態度もの言いが子供じみた可愛げのあるものに見えてくる。自分に対する理解を感じ取ったフリーダは次第にアンヌに心を開いていきます。隠者のように陰気な生活をし、人を寄せ付けなかったフリーダが「いっしょに散歩に出よう」とアンヌを誘います。ステファンのカフェにいってヤツを驚かしてやろうと。おしゃれをしろとアンヌにいい、アンヌがせいいっぱい頑張って着替えると「それはだめね」と着古したコートをじろり。自室に連れていき(まあ広いアパルトマン)バーバリーのコートを選ぶと「わたしより似合うわ」と機嫌がいい。ふたりがそろって街を歩くシーンは本作のみどころのひとつです。シャネルのスーツ、たっぷりとした黒のコート、きらびやかなネックレス、金目の固まりみたいなジャンヌ・モローがピンと伸びた背中でガシガシ歩く。並んで腕をかすアンヌは逆にほっそりとはかなげで、影を感じさせる典型的な北欧の女性。金髪をたばねアップにした細い項(うなじ)に驚くほどスカーフが似合う。美しくなったアンヌが自慢みたいに、フリーダは意気揚々とカフェに入っていきます。何年たってもひとつも変わらない店というのがあります。ステファンの店もそうで、毎朝コーヒーを飲む客は何十年来の客、身内のような給仕はすべるようにフリーダに近寄り歓迎する▼しかしそういう一瞬は人生の僥倖のようなものだ。フリーダはアンヌに親しげに話しかけたステファンの「男」を見抜き、さびしさがよぎる。ジャンヌ・モローの風のような表情の変化に吸い込まれます。落ち込んだフリーダは食事もせず、アンヌが気を取り直させようと招いたフリーダの昔馴染み、パリのエストニア人たちは古い話を蒸し返し、若き日のフリーダの行状を暴き、怒ったフリーダは彼らを追い出したばかりかアンヌに矛先を向け解雇する。荷物をまとめたアンヌはステファンの店に行く。ふたりがちょっとみつめあうシーンがあります。すぐ転換しフリーダの部屋を訪れたステファンが映る。フリーダに添い寝するステファンにフリーダはためらいながら手を延ばす。下腹に延びたところで「なにをしている」とステファンの平坦な声。「思い出よ」とフリーダ。ここはジャンヌ・モローのアドリブでした。脚本ではフリーダが泣くことになっていたのですが「わたしに任せてもらう」とジャンヌは自己演出したのです。ステファンの寝顔に顔をよせたフリーダは「アンヌと寝たのね。いいけど、なぜ行かせたの」とつぶやく。自分で出て行けと言っておきながら、ステファンがアンヌを帰国させたことが気に入らない。男の皮膚に残るアンヌの匂いを敏感にかぎとるこのシーン。野生の獣のようなジャンヌ・モローの性の化身が息づいています▼アンヌは思い迷う。彼女を引き止める思いはステファンかフリーダか、どっちもか。夜明けのパリ。夜のとばりを脱ぐエッフェル塔の青い影を見ながら、焼きたての熱いクロワッサンをかじる。アンヌはフリーダの家に戻る。ステファンもいた。だれかが入ってきた気配に「アンヌ」とフリーダが呼ぶ。自分のためにアンヌがそこにいて当たり前のような呼び方である。「どこにいるの、アンヌ」ビシビシ立て続けに呼ばれアンヌが姿を現す。それを認めた、晴れ晴れとしたジャンヌ・モローの笑顔はいくつになってもかわりませんね。なにかいいたそうなアンヌに「ここはあなたの家よ」友情というか愛情というか、共存共栄の関係というかみごとな「三方よし」ですな。老後のフリーダによし、身の置く場所と安定収入のアンヌによし、新しい彼女を見つけたステファンによし。それがハデハデしくもなく、押し付けがましくなく、人生こんなことがあったっていいよな、という思いにさせる〈ヨーロッパテイスト〉100%の映画です。

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