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特集「女のわがまま」

2014年6月4日

特集「女のわがまま2」 エレジー (2008年 恋愛映画)

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監督 イザベル・コイシュ
出演 ベン・キングスレー/ペネロペ・クルス/デニス・ホッパー

役者たちの愉しさ 

 この映画のみどころって、ひとつはもちろんヒロイン、女子大生のコンスエラ(ペネロペ・クルス)と彼女を教える大学教授デイヴィッド(ベン・キングスレー)の〈年の差恋愛〉だけど、どっちかいうと主人公たちの造形ってわりと平凡なのよね。30歳の年齢差を男は引け目に感じ、コンスエラの卒業パーティに招かれたものの口実をつくって断る。彼女の家族から受ける冷たい視線を想像するだけで耐え切れないし、いずれ女は若い男に恋して自分を棄てるであろうと確信している。コンスエラは自分との関係を公にして(つまり家族親戚、社会的にも公表して)責任を引き受けようとしない男に不信と失望を抱き、別れる。2年後女は乳がんを患い手術することになる。自分の体を心から愛したデイヴィッドに別れを告げに行き、乳房がなくなっても「わたしとやりたい?」と聞く。男は年齢差によって女に棄てられ、女は乳房の喪失によって男に棄てられると恐れる▼ベン・キングスレーとペネロペちゃんがしっかり演じているから観客は「納得」って感じです。男の危惧と女の不安に不自然さを感じさせない。しかるにそれをさらに生き生き盛りたてるのが絶妙の脇役陣です。まずデイヴィッドの長年の友人であり、ピューリッツア賞受賞者の詩人ジョージ(デニス・ホッパー)です。リアリズムの固まりでロマンティックの片鱗もないこの詩人は「お前、若い女にいれあげるなら一晩の関係にしろ」。デイヴィッドも「うむ。彼女はいずれわたしのことを、教養を教えた老人として思い出すだろう」なんてわきまえたふうに言っていたのに「やったのか。え、なんだって? 一夜じゃない?」「うむ。一夜じゃないのだ」ジョージはアッケ。で教授と美貌の女子大生はどんな会話をしていたのか。あるときは「君には相手を礼儀正しくさせる何かがある。それは優雅な厳格さだよ」さらにゴヤの画集を見せ「この絵を知っているね」「着衣のマヤでしょう」「そうだ。瞳が君にそっくりだ」歯の浮くような台詞を連発し、ベラスケスの「ラス・メニナス」のページでは「画家は王を描きたかったのではない、主題はこの王女だ」。ペネロペちゃんはこれに答え「あなたは魅力的だわ。自分でも承知ね」と男の教養に心酔する(美術史の常識だろ)▼さていよいよベッドへ。「これほど美しい乳房は初めて見た」ペネロペちゃん「気に入った?」「崇拝するよ。なんて美しい顔だ。君は芸術品だ」ちょっと日本ではお目にかからない台詞ね。で、過去に何人の男がいたとか、女はいたとかお互いの探りをいれ、先生はペネロペちゃんが「五人」と答えると嫉妬でのたうちまわる。それを聞いたジョージが火に油をそそぐ。「いずれ彼女はお前を棄てる。その前に御前からロマンティックな場所で別れを告げろ」。委細承知した先生は冬の荒れた海辺をふたりで散策し、熱烈に抱き合う。ちょっと、ちょっと、別れるのはどうなったのよ。ふたりはしっかり相思相愛である。ペネロペちゃんはひたと先生をみつめ「私との未来を想像したことある?」「怖いよ」「なぜ?」「30歳の歳の差がある。君の人生はこれからだ。君もすぐそれに気づく」「私でなくあなたがどうしたいか聞きたいの」生真面目な女の情熱に対し先生はどうも腰が決まらない。ペネロペちゃんは両親に紹介しようとするのに先生が逃げちゃう。こいつはわたしといっしょにやっていく気がないのだと女は失望し別れるのです▼詩人のジョージは、よかった、よかった、それでいいのだと胸をなでおろす。ホントに彼は親友ね。もうひとり出色の脇役は先生の息子です。医師である。親父が嫌いでキライで仕方ない。子供のころから女癖の悪い父親のため、家庭不和の真只中で育ったからだ。親父は親父で医者にしてやったから文句ないだろ、父親としてのおれの責任は果たした、家族だの、息子だの、もう金輪際かかわりたくないという覚めた男である。息子に愛人ができた。息子は親父のところへ相談にくる。「なんできた。女とは別れろ」(よく言うよ)。息子「ぼくはデイナ(愛人の名)との関係に身を捧げている。自分の女遊びといっしょにしないでくれ。彼女の両親に会いに行って了解を得るつもりだ」「一つの監獄から出て別の監獄に入ろうというのか」この絶妙の台詞を親父は吐き「わたしが女遊びだ? 結婚に向いていなかっただけだ」このへんの〈父と息子〉男同士の対決のおもしろさは映画で、つまり役者のやりとりでみるほうがおもしろいですよ▼最強の脇役としてこの女優。先生の20年来の愛人であるキャロラインを演じるパトリシア・クラークソンです。いい女優さんでしてね。今年54歳。イェール大学というからジョディ・フォスターの先輩であり、メリル・ストリープの後輩です。「エデンより彼方に」「ドッグヴィル」「シャッターアイランド」「ラースとその彼女」など、いったんカメラに向かったら空気がビシッとひき締まる人。本作では我が身に迫る肉体と容貌の老いをみつめ「男がわたしを見る目が日々変わっていく」と鬼気迫るつぶやきをもらす。パトリシアとペネロペちゃんが体現した女の孤独と隔絶感、そして男たちの妙な、でも情のある紐帯感がこの映画に叙情と、洗練された彩りを与えています。

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