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特集「女のわがまま」

2014年6月6日

特集「女のわがまま2」 禁じられた抱擁 (1963年 文芸映画)

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監督 ダミアーノ・ダミアーノ
出演 カトリーヌ・スパーク/ホルスト・ブッフホルツ/ベティ・デイビス

 カトリーヌ・スパークという女優がいました。今68歳の彼女が17歳のときの作品です。「禁じられた~」という当時はやりの邦題にもかかわらぬ、とてもいい映画。原題は「倦怠」。アルベルト・モラヴィアの長編小説です。カトリーヌ・スパークはもともと脚本家や女優を身内にもつ芸能一家の生まれですが、ベルギーの首相を三度務めた叔父をはじめとする、名門の政治家一族のひとりです。なんの苦労もなく、といえば怒られそうですが、そういうしかない嬢さんモードが、甚だしく倫理観が欠落し、他人を傷つけることになにも感じない17歳の少女セシリアに、すがすがしいほど適合しています。こんな彼女に言い寄られて断る男はいません。そのひとりがホルスト・ブッフホルツ演じるディノ。セレブの母(ベティ・デイビス)の邸宅に、小遣いがなくなるとやってくるお気楽な男。母親は息子を家に定着させようと、美人のメイドに誘惑させる、最新のスポーツカーを与える、あれこれ手を尽くすが息子は居つかない。セシリアは絵のモデルである。彼女の家も裕福そうだ。父親はガンの末期だがセシリアは看病するふうもない。セシリアをモデルにせっせと描いていた画家は死んでしまった。老体に鞭打ったからだとセシリアはしゃあしゃあしている。世間知らずの軽い息子と、自己愛以外はなにもない娘が出会ったのだからどうなるか、先は知れている▼ヘタ打つと陥ったにきまっている退屈と凡庸から、この映画を切り離しているのは、スパークの天稟といっていい美しさと、ブッフホルツの青年の匂いがたちのぼるような繊細さでしょう。年齢だけが〈青年〉で、中身は〈オッサン〉以外のなにものでもないという老成した若い人を、男女問わずみかけますが、本作で30歳だった彼は「ライフ・イズ・ビューティフル」で医師を演じた64歳のときでも、青年の面影を失くしてしませんでした。そしてベティ・デイビス。うれしくなりますね。本作はいうなればカトリーヌ・スパークとベティ・デイビスという、わがままやらせると精彩を放つ女ふたりが生き生きしている。デイビスは55歳でした。30歳すぎたら女優の役はなくなる「ボーイズ・タウン」のハリウッドで、40歳だろうと50歳だろうとヒット作をバンバン打ち出し、真価を発揮してきた女優。彼女の後輩のなかでも、女性の台頭が著しくなった1970年代を代表する、フェイ・ダナウェイやジェーン・フォンダは好んでデイビスの言葉を引用しました。それが「男がやると尊敬される、女がやると嫌われる」▼本作では金に糸目をつけないで息子を溺愛する、大富豪の母親を演じていますが、デイビスがやるとなにかが底光りする。デイビスという人間が備えている力としかいいようのないものが、極限まで精錬した蒼い鋼鉄のように光る。こんな女が相手ではうちのボンクラ息子など太刀打ちできるはずがない、ということがこの母親はちゃんとわかっている。カトリーヌ・スパークの裸体の上をブッフホルツが札びらで覆っているところへデイビスが入ってくる。ジロッと一瞥。「お金をもとにもどしなさい」だけ言って出ていく。女がいるのに目もくれない。からみをみせるほどの相手じゃないってことなの? マリリン・モンローのときはケチョンケチョンでしたけどね。彼女が厳しく当たる女優はみどころがあったのでは。デイビスは脚本を書き直させるくらいヘッチャラでした。そのあとをしっかり受け継いでいるのがメリル・ストリープです。キム・カーンズが歌って大ヒットする「ベティ・デイビスの瞳」は、もちろん、笑っちゃうくらい健在でしたよ▼自分にしか関心のない、美しく若い無邪気な女に男は振り回されたあげく自殺未遂。お坊っちゃんがアバズレに惹かれる見本ね。B.B(ブリジット・バルドー)を灰汁抜きしたような、品のいい、自覚のない性悪女をカトリーヌ・スパークがいい雰囲気でかもしています。ラストですが、男は雨のなか帰路につく女を二階の窓からみている。女は男をみあげ微笑む。いままでなら男は手振りでひきとめた。今度もそうするにちがいないと女は思っている。でも男はなんの合図も送らない。女は窓を見上げていたが歩き出し、街角に姿を消す。別れの時を女は知ったのか? いいや「甘い。ほとぼりさまして戻ってくるわよ」とつぶやくデイビスママの声がきこえそう。

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