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特集「女のわがまま」

2014年6月7日

特集「女のわがまま2」 湖畔のひと月 (1995年 恋愛映画)

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監督 ジョン・アービン
出演 ヴァネッサ・レッドグレーヴ/エドワード・フォックス/ユマ・サーマン

上質の作り込み 

 退屈きわまりない映画なのに最後までみてしまうのは、細部の彫り込みが精巧だからだ。写真が趣味なのかプロなのかよくわからないが、生活臭の希薄な中年の女性写真家ベントリー(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)と、彼女が惹かれる初老の英国紳士、ウィルショー少佐(エドワード・フォックス)、イタリア人家族の乳母としてホテルに来たアメリカ人女性、ボーモント(ユマ・サーマン)が主人公。舞台は湖畔の高級ホテル「バルビアネッロ荘」だ。時代は戦争の影が迫りくる1937年、軽妙な恋愛関係が展開する。ヴァネッサとエドワード・フォックスがこのとき58歳、ユマが25歳。ベントリーと少佐はお互いに関心を持ち合うが、そこへまぎれこんできたのがボーモント。イギリス人二人に全然肌合いのちがうアメリカ人だ。ユマ・サーマンが金持ちの親がしつけのためにヨーロッパに留学させたものの寄宿学校を勝手に中退、親元にも帰らずアバンチュールする屈託のない娘を演じている。大女優ヴァネッサやイギリス映画界のベテラン、エドワード・フォックスにはさまれながらも充分なマイペースぶりだ。なにごともあんまり気にする性格ではないのでしょうね▼ヴァネッサはテニスをしたり水泳をしたり、余裕綽々。あっさり水着になって長身のみごとなプロポーションを披瀝する。少佐に気があるのだが、肝心の少佐のほうは若いボーモントに乗り換えたみたい。少佐はさかんに女の気をひくのだが、初老の辛気臭い男をボーモントはテキトーにあしらっている。そのくせ面白がってふりまわすのを、みかねたベントリーが少佐にもっとやさしくしてあげたら…あなたに夢中なのに、と言う。ボーモントにとっては大きなお世話である。そんなに心配なら自分がやさしくしてやればどうかといってベントリーに平手打ちを食う。ベントリーは少佐も張り飛ばすシーンがある。このイギリス婦人は元気なのである。生活には困らないらしいし、父はけっこう名のある芸術家だったみたいだし、その父が毎夏コモ湖畔に連れてきてくれた。ちょっと情況はちがうがヴァージニア・ウルフの「燈台へ」みたいである。そういや、ヴァネッサは「ダロウェイ夫人」の主役だったよね。重厚な役が多いヴァネッサだが、今回は羽の生えたような軽みが、テンポよく劇をひっぱっていく▼イタリアの有数の景勝地である夏のコモ湖の風情がまた雄弁だ。風格のあるホテルを仕切る女主人はだれあろう、アリダ・ヴァリだ。15歳からローマの映画センターで演技を学び、1935年から映画に出演、84歳で没するまで女優一筋。「パラダイン夫人の恋」「夏の嵐」「顔のない眼」「かくも長き不在」「カサンドラ・クロス」。主な出演作はそのまま映画史の代表作となる。この映画がどこにでもある恋愛関係を扱いながら、退屈であったり薄汚れていたり、苦笑ものであったりしなかったことは、英国のチェホフといわれた作家H・E・ベイツの原作にもよるが、任に合った俳優たちの出演によるところが大きい▼イタリアの名優、ヴィットリオ・ガスマンの息子、アレッサンドロ・ガスマンが、年上の女性ベントリーにひきつけられる地元の若者ヴィットリオを清々しく演じています。ヴィットリオのたくましい裸を被写体にしたベントリーの写真をみて少佐はあわてる。ベントリーはそれみたことかと余裕ですが、冷静な彼女はヴィットリオにふさわしいのは自分よりボーモント嬢であることがわかっている。ボーモントは「オールドミス(ベントリーのこと)はツバメに夢中だから放っておきましょうよ」と少佐にスリスリだが、これまたハンサムなヴィットリオがベントリーに夢中だとわかると「なかなかやるわね」ベントリーの気品と魅力を認めずにおれない。謙遜なんてどこかに置き忘れたような、自信あふれる女たちです▼そんな・こんな、の瑣末なできごとですが、からみあわせ方がきめこまやかです。ベントリーと少佐がはじめから独身同士という設定も、どろどろする色恋沙汰はさっぱりと消去してありますという、観客への意思表示のようなもので、本当なら「いい年をして」と思わせる台詞や行動を、若々しく自然なものに感じさせます。その後勃発する戦争によって滞在者たちは敵味方に別れます。運命に翻弄される日がくることをだれも知らず、夏の終わりの湖は透明な光をたたえている。そんな無人のシーンにこの映画の繊細な感性があります。

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