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特集「ディーバ(大女優)」

2014年6月13日

特集「ディーバ13」メリル・ストリープ シルクウッド (1983年 事実に基づいた映画)

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監督 マイク・ニコルズ

メリルの舌なめずり

 ちょっと前になるが、メリル・ストリープがジュリア・ロバーツにブチ切れたという記事をサイトで読んだ。今年のアカデミー賞の主演・助演女優賞に「8月の家族たち」で共演したメリルとジュリアが揃ってノミネート、結果はケイト・ブランシェットとルピタ・ニョンゴに落ち着いたが、メリルが四度目のオスカーを手に入れるのではないかともっぱら注目されていたのも事実だ。で、なにをメリルはそんなに怒ったのかというと、ジュリア・ロバーツが撮影中からメリルへの対抗意識をむき出しにし、トレーラーの位置が、メリルのほうが撮影現場に近いと(2,3メートルしか離れていない距離だったにもかかわらず)イチャモンをつけたのでメリルと同距離に直したとか「メリルの部屋ほうが上等だから別のトレーラーに変えて」とか、つぎつぎ要求をつきつけスタッフを辟易させた、メリルは黙って微笑んでいるだけでなにも言わなかったが、ことはそれだけでおさまらず、同作のラストシーンはメリルで締めくくるはずを、ジュリアは自分の顔で終わらせるよう監督に横槍をいれたというのだ。メリルはジュリアの「ワタシ、ワタシ」に激怒し、ジュリアと出席するはずだったトロント映画祭を「体調不良のため」欠席した。それを報道したナショナル・エンクワイラー紙は「どんなにジュリアが平等を求めてもふたりは平等じゃない。なぜならメリルはアカデミー賞を3回受賞、ノミネートは17回。ジュリアは受賞1回にノミネート3回」と、議論の余地もない即物的な回答を示した。そこには「ジュリア嫌い」がかなり混じっているとしても、メリルの貫禄をひきたてるのに充分な結果になった▼オスカーといえば、本作はメリルが初めて主演女優賞を受賞した「ソフィの選択」の翌年の公開だ。これでまたオスカー候補になっている。シリアスな重い映画によく続けさまに出られるなと思うが、当時は若くて体力があったから、というのが理由ではないみたい。マーガレット・サッチャーの栄光と挫折を描いてメリルに三度目のオスカーをもたらしたイギリスの女性監督、フィリダ・ロイドは「彼女はすでに別の映画に入っているにもかかわらず、もっとこうしましょう、ああしましょうと、編集段階でさえアイデアを言ってきた」とほとほと感心している。「シルクウッド」のとき彼女は34歳だった。「サッチャー」のときは62歳だった。年齢には関係ない。メリル・ストリープという女優の姿勢はひとつも変わっちゃいないのである。彼女の映画をみていると演じる役がなんであれ、うまいとかへたとか、熱心とか勉強家だとかいうより、猛獣がうまい肉をまえに、舌なめずりしているような錯覚に陥る。分厚い舌の「ベロン」という音まできこえそうだ。野生の動物の走る目的が金メダルであるはずもなく、メリルの場合も腹を空かして走り、舌なめずりしてかぶりついた結果がすべての賞につながったのであろう。そうとでも考えぬかぎり、あの受賞歴の多さにいちいち意味由来を見つけることは不自然とさえ思える▼「シルクウッド」はマイク・ニコルズらしい社会派バリバリの映画だ。理由もなくふみにじられる人々という痛い問題が、焼きごてをおしあてられ、ジュウジュウ肉が焼ける音を発するような映画だ。カレン・シルクウッド(メリル・ストリープ)は28歳。ボーイフレンドのドルー(カート・ラッセル)とゲイのドリー(シェール)といっしょに幸せに暮らしていた。三人の職場はカーマギー社のプルトニウム工場だ。オクラホマ郊外のクレッセントにある。カレンは学生時代に駆け落ちした恋人との間に子供が三人、月に一度会社を休んで子供たちに会う日にあてていた。彼女が休みをとった翌日工場の放射能漏れが生じた。会社側は休みを取りたいためのカレンのしわざだと噂を流した。ある日カレン自身が放射能探知機に感知された。カレンは社員を生命の危険にさらしながら、データを改ざんしてまで操業する会社の不正を告発しようとするが、仲間の従業員たちは会社の操業停止によって失業することを恐れカレンに協力しない。カレンは孤立する。しかもカレンの体からありえない多量の放射能が測定される。会社が彼女の家にこっそりプルトニウムを置き被曝させたのだ。同居している三人は精密検査を受け、ドルーとドリーは許容量内だったが、カレンは限りなく黒に近い「許容量」だった。カレンはニューヨーク・タイムズの記者に証拠データを渡すため待ち合わせ場所に愛車を走らせる(これがホンダ・シビック)。その後ろから車が追撃し、シビックは大破した。カレンは事故死。もってでたはずの書類は発見されなかった▼この映画の本筋ではありませんが、カレンとドリーは仲のいい女友達となっているものの、ドリーのカレンに対する感情は友情というよりもっと濃い。アメリカの検閲制度であるヘイズ・コード撤廃のきっかけになったのが、マイク・ニコルズの「バージニア・ウルフなんかこわくない」であったことはよく知られていますが、本作公開は1983年。「ウルフ」からざっと20年後ですが、ゲイ解放運動をへた80年代であってもなお、ゲイは「友情」に翻訳しなければならない同性愛の苦境を示していると、竹村和子さんは「彼女は何を視ているのか」で指摘しています。同著は性意識や欲望がいかに映画によって創られてきたかを著した、卓抜な映画論です。

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