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特集「ディーバ(大女優)」

2014年6月16日

特集「ディーバ13」メリル・ストリープ クレイマー、クレイマー (1979年 家族映画)

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監督 ロバート・ベントン
出演 ダスティン・ホフマン/メリル・ストリープ

「悪」の復権

 子供とやさしい経済力のある夫の妻であること以上に、妻がなにかを望むなど夫には理解できない。この映画が作られた1979年って、ほとんどの夫がそうだと思っていたけど、今の時代でも周囲を見渡すと、妻自身もそう信じているふしがあるな。本作がアメリカで大ヒットしたのはウーマンリブ台頭の1970年代、よく言ってくれた、というヒロインに対する女性の支持と、溜め込んでいたウップンが爆発したわけよね。でもなあ。映画のあちこちに(ジョアンナは自分勝手だ、子供を置き去りにするなんて、子供に罪はないだろ)という言葉にならぬ弾劾が響きわたっていたと思いません?▼ダスティン・ホフマンの父業奮戦記ばかり長々描写されていて、それが日本では「父と子の愛」にスライドされたけど、本来はこれ、女の自立が焦点でしょ。それを夫つまり男側が認めるかどうかが裁判の争点になったはずなのに、ラストではメリル・ストリープ演じるヒロイン、ジョアンナが目に涙をためて(ちょっと泣きすぎだわ)「やっぱりここが息子の家だわ」なんていってさんざん争った養育権を放り出す。おいおい、監督も脚本もいい加減なところで妥協させるなよな。これじゃやっぱり「女よ、後悔したか、やっぱりお前はまちがっている」と映画は言ったのと同じじゃないですか。当時多くの映画評はわれも我も、感動の「家族の絆」に大合唱だったことも胡散臭かったわ。それにジョアンナのセリフは紋切り型で、今からみればどこかの女性理論からコピペしたみたいな言い草だったわよ。ロバート・ベントンは好きな監督だし「白いカラス」のニコール・キッドマンなんて目いっぱい感動したけど、ああいう薄幸な女ならともかく、やむを得ずとはいいながら子供を置いて出て行く自我の強い女、すなわち妻でもなく母でもなく、女として主体的な欲望を持つ個人であることを主張する女、女という過去のマスターストーリーにおさまりきれなかった女を描くのには、イマイチ乗りが悪かったわね。でもまあ1970年代という時代を考えれば、堅いこといわんでもいいか▼それはそうと2013年の世界経済フォーラム(WEF)の男女格差報告によれば、日本は対象国136カ国中105位。過去最低だった。WEFのリリースでは男女格差が小さい上位3カ国は1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェー。5位フィリピンは太平洋地域で最も男女格差解消の取り組みが進んでいる。中国が69位、インドが101位、韓国は111位で日本同様下位圏だった。アベノミクスの成長戦略でも「女性が輝く日本をつくる」とか言って「待機児童の解消」「職場復帰・再就職の支援」「女性役員・管理職の増加」をあげているけど、現実にそれを実行レベルに移しているかといえば、総理お膝元の内閣府男女共同参画局で、課長職以上の女性官僚は2.6%だ。そもそも女性国会議員からまともな女性参加の議員立法がでたことがあるか。男女格差縮小の政策はまだまだ発展途上だし、女自身が道を切り開く努力も必要だわ。この映画のジョアンナ・クレイマーみたいにね。わが社なんかそんな女、一歩まちがうと手に負えない女ばかりであふれているぜ▼しかしこの映画の本当の功績は「泣き」でもなければ「家族の絆」でもない。ヒロイのセリフは紋切り型で、迫力というより涙でまるめこんだところが確かにある、でもジョアンナがたどたどしくはあっても発信した「強い女」のスタートが1980年から1990年代にかけ新しい女性像を作っていった。「エイリアン2」「危険な情事」を皮切りに、「トゥムレイダー」「バイオハザード」「アンダーワールド」「ハンガー・ゲーム」「キル・ビル」「ドラゴン・タトゥーの女」「プロメテウス」「バッフィ/ザ・バンパイア・キラー」「デンジャラス・ビューティ」どれもこれもそれまでなら社会から、しかも男からも女からも異端視されつまはじきされ、精神病院か刑務所に送られる女たちだった。彼女らに与えられていた場所は、よき母・よき妻の規範に背く「悪」の立ち位置だった。それならそれで「上等じゃない」と自分で自分を認めた女たちの出発地点のひとつは、ジョアンナがなにかといえばすぐ目に涙をうかべながらでも、主張と希求を声に出し、空前絶後のヒットという形で世の女たちの共感を奪ったことにある。本作の本当の価値は、社会と制度といわゆる女らしさという文化が女たちの内奥に閉じ込めさせていた「悪」を解放し復権させたことにあるといっていい。

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