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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2014年7月3日

特集 美しい虚無=妄想映画の魅力 エンジェルウォーズ (2011年 アクション映画)

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監督 ザナック・スナイダー
出演 エミリー・ブラウン/スコット・グレン

ウロボロスの環 

 この映画アカシックレコードか? そんな言葉がひょいと浮かんだくらい本作は「思い描く力」の映画なのよ。半世紀前ルネ・ユイグが「現代人は思索を文章のなかで養う種類の人間ではなくなり、感覚的な衝撃が我々を支配しあやつっている」と「イメージの力」で書いていたけど、とてつもない情報化と映像化のメカニズムがそれを証明しているな。アカシックレコードとは、簡単に言えば古代インドの世界観で、魂から魂に呼びかけ、それに答える暗黙の働きね。象徴図はウロボロス(自分の尾を噛んで環状になった蛇)。この巨大な蛇が虚空に浮かび、森羅万象は蛇の環のなかにあるという壮大なイメージだ。生ある者は必ず滅す、つまり創造と帰滅は環となって完結するというイメージです▼ヒロイン、ベイビードールにエミリー・ブラウニングほか、アビー・コーニッシュ、ジェナ・マローン、ヴァネッサ・ハジェンズ、ジェイミー・チャンら20代から30そこそこの元気な女優たちが見応えのあるアクションを演じる。主役陣5人の女優は12週間に及ぶトレーニングで、これ以上痩せたらみっともなくなるぎりぎりのところまで体を絞り、デッドリフトで210ポンド(95キロ)を要求されたほか、格闘技の練習、パンチ、キック、剣さばき(ヒロインの武器は日本刀)、筋トレにワイヤーワークの訓練、銃の扱い方をみっちりやられたらしい▼ストーリーは想念と現実が交互に転換する。ベイビードールは母親が死に、遺産がふたりの娘にいくことに怒った継父が、娘たちを殺そうとする、妹を助けようとしたベイビードールが誤って跳弾し死なせる、継父は姉娘を精神病院に収容し5日後にロボトミーの手術をうけさせるてはずとする。継父からの性的虐待も映画はほのめかす。ベイビードールは手術までに病院を脱出すると決心する。ここにいても死んでいるのと同じだと、4人の女が脱出計画に加わる。彼女らは収容中、施設の職員や所長らの虐待を受け、富豪たちへの性の献上物として提供されてきた。ベイビードールが富豪にダンスを披露する日、彼女は自分の特殊な能力に気づく。音楽を聞きながら目を閉じると夢が表れる、その夢のなかに登場した老人ワイズマン(スコット・グレン)は5つのアイテムを探し出せば自由を得られると教える。地図・炎・ナイフ・鍵。5つ目は謎だ。彼はこうも言う「武器を手に取れ。そのとき自由への旅は始まる。自分で身を守れ。力を合わせて戦え。守れもしない約束はするな。ママを起こすな(意味はあとでわかる)」病棟の幹部や富豪がベイビードールのダンスに魅了されているうちに、他の4人が目的のアイテムを手に入れる。ベイビードールは夢のなかでミニスカ・セーラー服で悪と戦う正義のヒロインと化し、5メートルはある巨大サムライを倒し、空飛ぶ竜(ママ)を退治し、ナチの軍隊を壊滅させる▼しかし犠牲も大きかった。作戦に気づいた所長とその配下たちによって、ひとり、またひとりと仲間は殺され、残るのはベイビードールとスイートピー(アビー・コーニッシュ)だけ。スイートピーの妹ロケット(ジェナ・マローン)も殺された。ベイビードールは5つ目のアイテムに気づく。それは自分だ。自分がおとりになって追撃者をひきよせれば、スイートピーは脱出できる。たとえひとりだけでも自由への脱出という目的を達することができる。ベイビードールはスイートピーに言う「あなたは家に帰って。家族のところへ。ロケットとの約束を守ってあげて。ここを出てバスに乗るのよ。あなたは外の世界で行きていける。そこで普通に暮らすの。人を愛し自由のある人生をわたしたちの分まで」▼シーンは変わりベイビードールの額にロボトミー手術の長い針が入れられます。手術を受けたベイビードールが手術室から移動しているシーンで、彼女が手に負えない患者だったこと、職員に暴力をふるい、放火し、同僚の脱出を助けたことなどがセラピストのセリフで語られる。つまりベイビードールが4人の仲間と脱出しようとした行為は彼女が精神病院で実際に生じさせたことであり、それが脳内では想念のドラマとなって思い描かれていたのです。脱出に成功したスイートピーが長距離バスに乗るシーンがラストです。運転手はワイズマンです。長い旅になるから後ろの席で休みなさいとやさしくいいます。スクリーンは薄いセピア色。これもまたベイビードールの想念のなかの劇でないとは断言できない。だとすれば脱出の夢は全員無残にうち砕かれ、ワイズマンが運転する長距離バスは最後の魂の安住地、冥界に帰ることによってウロボロスの環は閉じるのだ。ラストのベイビードールの独白に託されたザナック監督のメッセージを聞こう。「だれが愛する人に名誉を与えるのか。だれがわたしたちを試し、同時に生きる力をくれるのか。だれが真実と嘘の区別を教えてくれる? 誰が守るための犠牲を払うのか。だれがわたしたちを縛り、自由への鍵を握っているのか。それはあなた。武器はそろっている。さあ戦って」。たとえどんな状況におかれたとしても、自分が望むもののために最後まで戦え。その力はお前が思い描く「思い」のなかにある。ともすればむなしくもはかなくも受け取れるヒロインのエンディングに、凝縮した強烈な生がこめられています。いい映画でした。

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