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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2014年7月5日

特集 美しい虚無=妄想映画の魅力 イグジステンズ (1999年 SF映画)

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監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 ジェニファー・ジェーソン・リー/ジュード・ロウ

男の悪ふざけ 

 クローネンバーグとヒッチコックの共通項はなにか。男の悪ふざけよ。グロテスクなものへの偏愛と言いかえてもいいわ。とにかく女にはないというか、あってもチョー珍しいという性向よ。だいたい女って気色の悪いものが嫌いです。彼らがふたりそろって女嫌いの傾向があるのもよく似ているわ。女嫌いというか、よくいたでしょ、女の子に向かってすぐ「女はよせてやらない」って言ってアカンベーなんかするワルガキ。あいつらにそっくりだわ。本作は「クラッシュ」のあとをうけて作った、デヴィッド・クローネンバーグ56歳のときの映画。彼が嬉々として撮っている(に違いない)シーンをあげてみよう。まずくねくねと細長い紐状のコードと、触ると柔らかくブヨンとして凹むゲーム機は胎盤とへその緒のイメージ。これがゲームポットと呼ばれる。紐状のケーブルを脊髄に差し込んで、脳内でプレイが始まる。ゲームポットは両生類の有精卵でできている、ですって。クローネンバーグの映像というのはクローネンバーグ語という独特の映画言語だから、意味由来を深く考えるのは時間の無駄だと思うわ。だから有精卵だろうと無精卵だろうと、いいってことよ▼このゲームポットをジュード・ロウは背中に差し込んでもらう。ぐちゅぐちゅした薄紫の肉の開口部に、ブスッとチューブを挿入するのはウィレム・デフォー。彼はこの暗喩的なシーンを例のしかめ面で、大まじめな講釈を垂れながら演じています。ゲーム機の生産工場の大きなまな板は血の海。何人もの作業員が、海蛇(みたいな生き物)とか、白い大きなカエル(みたいな生き物)とか、体が薄緑色の見たことのない軟体の動物とかを持って、忙しそうに捌いています。これらは突然変異を起こした両生類だそうです(わかっているデヴィッド、これくらいでいちいち驚いていちゃいけないのがあなたの映画だってことは)。それにしても中華料理店の特別料理って、こら何だ。グロ生物のオンパレードよ。美術監督はよくやったわね。それらをジュード・ロウは最初こそ尻込みしたが、チュチュッと汁をすすり込み、バリバリ歯をみならしてうまそうに食う。とにかく揚げたのか焼いたのかさっぱりわからんが、あの音からすれば甲殻類であることはまちがいないと思う。何枚もテーブルに並んだ皿には、ジュード・ロウが平らげた色とりどりの殻が山盛り。それと銃弾を受けて倒れたジェニファー・ジェーソン・リーの白い脚が、真っ赤な血にヌラヌラ濡れている血なまぐさいシーンとか(全然必要性がないと思うけど)▼凝りに凝った小道具も書かねば。ジェニファー・ジェイソン・リーが映画開始後、はやばやと襲撃されます。犯人が発砲する銃は正体不明の生物の骨でできていて、弾丸は人間の歯です。このシーンをよく覚えておくと本作のからくりがわかります。もっともクローネンバーグは最後のどんでん返しで観客をあっといわせるより、そこに至るプロセスの、グロテスクな見せ方に情熱を注いでいるのね。話の筋書きより大道具小道具、美術や細工など、こっちの描写のほうが楽しい所以です。映画のオープニングは前作「クラッシュ」の〈秘密めいた集まり〉に似ています。狭い味気ない会場は隠微な空間。その暗さにもかかわらず登場するのは今をときめく天才ゲーム・デザイナー、アレグラ・ゲラー(ジェニファー・ジェイソン・リー)という華やかさなのだ。プログラムにスパイがむらがるので、新発売のゲーム体験会場は警戒が必要だ、というわけで、入り口にチョコンと座っている青年、テッドがジュード・ロウ。もっさりしたジャケットを着たジュード・ロウは、田舎の素朴な若者という風体で、彼が警備していてもあんまり効果なさそう。この数分のシーンにどことなくちぐはぐな、アンバランスな違和感を感じたらそれを大事にしておきましょう。クローネンバーグはああ見えて、わりと親切に〈ネタバレの素〉を隙間からみせることがあるのです(笑)。

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