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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2014年7月7日

特集 美しい虚無=妄想映画の魅力 アナザープラネット (2011年ファンタジー映画)

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監督 マイク・ケイヒル
出演 ブリット・マーリング/ウィリアム・メイボーザー

再生を託す美しい星 

 みはるかす水平線。紺色の波。海の上にうかぶ美しいもうひとつの地球。それを見るヒロイン、ローダ(ブリット・マーリング)。本作の圧巻をあげよといわれたら迷わずこのシーンをあげます。打ち寄せる荒々しい波、なにもない海の上をわたる風、ローダの着衣はハタハタと鳴り、ブロンドの髪は乱れる。彼女の瞳は虚空に浮かぶ大きな星に吸い付けられたまま。多岐にわたる解釈を可能にする映画だから、というより、いろんな想念を思い描かせるためにパラレルワールドはあります。もしこの地上に現実の世界だけだとしたら、人はどこに逃げ込めばいいのか。この世界の向こう側には、自分がいまここにいる地球と同じ地球があって、同じことを考える自分がいて、目の前の現実の世界はつらくて厳しいけれど、向こうの星にはそんな自分をみつめている自分がいる、その自分は幸福とやさしさに取り囲まれている。そこでだれかにキスしたらそよ風が自分を包み込む。このシーンを見ているとそんな光景が浮かぶ▼こういうナレーションが入る。「人生は驚きの連続です。生物のミクロの世界に驚愕し、宇宙の広大さに圧倒される。かつては夜空、今はその外側をみている。しかし最大の謎はどちらでもなく、おそらく我々自身です。自分自身を認識して、自分を知ることは可能か。自分に何を伝え、自分自身からなにを学ぶか。自分を外から見たときにわれわれは何をみたいのか。本当は?」。全編を通じてほとんど説明がなく、ヒロインの台詞も極端に少ないのは、もともとこの映画が観客の解釈で余白を満たす企みに満ちているからだ。宇宙探索ツアーにはオーディションがあって数名の合格者が宇宙船に搭乗できる。選抜試験に小論文があり、前述のモノローグはローダの書いたもので、主催者はいっぺんに気に入る。ローダは「最大の謎である自分自身」を知りたいのだ。もうひとつの地球から、自分を外から見ることができれとすれば、それはなんと脅威と憧憬に満ちた驚きだろう▼筋書きとしては事故を起こしたローダが、それによって幸福な家族を破滅においやった、しかも妻は身重だった、自己嫌悪と贖罪の念から、事故でひとり生き残った元イェール大学の教授ジョン(ウィリアム・メイボーザー)の住所を探し当て、謝罪にいくが打ち明ける勇気がなく、掃除の無料お試しキャンペーンの販促担当者だと偽って掃除に通うようになる。世捨て人同然の暮らしをしているジョンの家はゴミが山盛り、台所は汚れ放題、食べかすと皿はテーブルに散乱し、男は一日中部屋着のまま、夢遊病者のように室内をうろつく。ローダは空に浮かぶもうひとつの地球が、自分たちの地球のパラレルワールドであることを知る。そこには17歳でMITに合格した自分の輝かしい未来があるかもしれない、ジョンの家族が生きているかもしれない。アナザープラネットとはローダの再生を託す夢であり、希望であり、そこへいくことによって、ローダは「自分自身から何を学ぶか」を知るのだ▼「パラレル」であるから、ふたつの星に同じ人物がふたりいることになる。映画でもローダはこの地球ともうひとつの地球にいて、それぞれの星にいるローダが劇中に姿を現す。ラストにはふたりのローダが相対する。自分自身を見たローダは、そのローダがなにを伝えようとしているのかわかったのか。映画はプツンとエンドになるからローダの脳内を観客は知ることができない。当然だろう。想念によって描き出した世界は想念によって閉じるのだ。想念こそがパラレルワールドであり、そこでは思い描く通りの自分が存在する。想念を思い描くとは取りも直さず、思い通りにいかない現実の自分をかかえ行き詰まり、うずくまり、知恵も筋肉も脳漿も絞り尽くし、いまと異なる「もうひとりの自分」に出会うため、必死で生きることだ。宇宙船のなかで聞こえる音があった。辛く苦く嫌悪に値する〈現在〉という音だ。それはコツコツと邪悪な音をたててローダを苦しめる。狭い宇宙船からローダは逃げ出すことができない。方法はたったひとつ、その音を愛することだ。ローダがそう思ったとき音は消えた。ラストに自分と向き合ったローダは、その自分を愛することができたのか。答えは出されていないが、緩慢な自殺を試みるインディアンのおじさんに(自分を許しなさい)とローダはてのひらにかいた。それこそがローダの新しい自分自身という「見出された時」へのメッセージだった。彼女の再生の予感を残して映画は終わります。絵にしにくい抽象的な概念を美しい映像にした佳品だと思います。

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