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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2014年7月12日

特集 美しい虚無=妄想映画の魅力 ミスター・ノーバディ (2009年 ファンタジー映画)

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監督 ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演 ジャレッド・レト/ダイアン・クルーガー/サラ・ポーリー

タラレバ人生の回想 

 人生の選択には意味があるってDVDのパッケージに書いてある。遺伝子に書き込まれていないことは身の上に起こらない、ということを考えればそういえるのかもね。しかしまあ、これだけいろいろの「タラレバの人生」つまりもしこうであったら、もしこうであれば、という可能性の視点が映像になって映し出されると、観客は自分自身の人生に関しても、あれもできたのに、これもできたのに、こうなっていたアアもなっていたと、どんどん仮想空間というか、想念の世界が広がっていくでしょうね。それが自分の力となり、今より自分を力づけてくれるかどうかはさておき。この映画の主人公ニモ(ジャレッド・レト)は118歳になり、老衰という自然死を迎える直前に、一生分のタラレバが脳裏をオンパレードする、早くいえばそういう映画です。時代は2092年、人類は死ぬことがなくなり、ニモは唯一〈限りある生命〉を持ち、死ぬことになった最後の人類だった。ニモは新聞記者のインタビューに答えるという形で一生を回顧する▼人生はさまざまな選択によって分岐する。父母が離婚することになった。9歳のニモはどっちについていくか。映画は母といっしょに汽車に乗った場合のニモ。父といっしょに残った場合のニモ。どっちもを追っていく。母についていったニモは母の再婚相手の娘アンナと出会い、アンナ(ダイアン・クルーガー)は美しい女性に成長し、ふたりは兄妹の関係であるが愛しあう。これが結果的に両親の離婚につながりニモはアンナと引き離される。ある日アンナと出会うが隕石の衝突により死ぬ。父と残ったニモはエリースと出会い結婚するが、エリースは神経を病み家を出る。エリースの遺灰は火星に撒いて欲しいという遺言を守りニモは火星に行く。もうひとりの女性ジーンはニモがエリースにふられたあと初めて会った女性。バイクの後ろに彼女を乗せながらニモは人生設計を話す。プールのある家、サクセスした リッチな家庭。いっぽうニモの創作の世界なのかもしれないが、いきなりニモがバスタブで殺されたりする。これらニモにかかわる三人の女性との結婚生活はみなニモの仮想である。最後に「アンナ」と呼びかけるのはいちばん愛していたのはアンナってことか▼これらが人生の分岐点というおおげさなものかよ。朝昼晩365日、人は分岐点にいるだろ。会議であっちの案をとっていればもっとうまいこといっていたかもしれない、あのとき腹をたてずアイツの言うことをきいておけばよかった、つまらない意地を張ったばかりにもうけをフイにした、それと逆に、あのときうまいこといかなかったけど、考えてみたらあそこで立ち止まってよかったのだ、あのまま突き進んでいたらレミングだよ、なんてことも実人生にはあるだろ。この映画でニモはあれこれあった分岐点の選択により、結果として幸福な人生だったのか、おい監督、そこをしっかり教えてくれないと、まったく140分も答えのない袋小路をひっぱりまわしただけになるでしょうが▼わたしたちには自分の体がひとつしかないのといっしょで、どんな可能性もいざ生きるとしたら実行手段とはひとつだけだろ。それともニモは重婚罪でも犯したのか。だいいち人類が不死の命を手に入れたという前提はこの映画に必要なことなの? くりかえすけれど人間の現実は日常遭遇する分岐点にとりかこまれ、選択した道を実行するのはひとつだ。判断と実行の連続が人生の実相ですね。選択肢の多様性に迷うことはあっても、後悔することはあっても、自分の体一つで自分の判断を実行することに変わりはない。その連続をこの映画は長々とみせてくれる。最後のニモが時間を遡らせて過去にもどるけど、なにこれ。宇宙は猛スピードで膨張している。宇宙の収縮がないかぎり時間は前に進むことだけが許されている。それなのに、スーパーマンも顔負けのことをニモはするのだ▼ジャレッド・レトの老けメークは仰天ものだ。ダイアン・クルーガーはちっとも持ち味が出ていなかった。彼女の理知的な容貌は、理知を封印しながらそれを破壊する、過剰な〈行き過ぎた女〉が似合うのよ。サラ・ポーリーは「死ぬまでにしたい10のこと」「あなたになら言える秘密のこと」に主演したカナダの女優であり監督・脚本家。しかしなんといっても彼女の代表作は「アウェイ・フロム・ハー君を想う」の監督ですね。40年連れ添った妻に認知症の兆候があらわれる。ジュリー・クリスティがゴールデングローブ主演女優賞を受賞したほか、20以上の世界の映画賞を受けた佳品です。本作でのようなチョイ役はことわるべきでした。

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