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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2014年7月14日

特集 美しい虚無=妄想映画の魅力 ザ・フォール 落下の王国 (2006年 ファンタジー映画)

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監督 ターセム・シン
出演 カティンカ・アンタルー/リー・ペイス

ファンタジーこそ力 

 映像がダリとかキリコの絵を連想させます。乾いた赤い山、砂漠の土地の向こうに切り立つ壁のような山脈、と思えば海に囲まれた浅瀬に立つ人影。それぞれが時代劇のような衣装をまとい覆面をしたり、仮面をつけたり、とても日常ではお目にかからない、ドラマティックないでたちである。ドラマティックといえば、オープニングに使われるのが、ベートーヴェンの第七シンフォニー第二楽章。哀切かつ孤高のこの曲がイメージを高揚させる。そのへんにありふれた、つまらん映画にする気なんかおれにはない、というターセム・シン監督の意志表明みたいにこの映画の格調を飛躍させる。そう思ってみれば石岡瑛子の奇抜な衣装デザインといい、異形の自然といい、これみなシュールな登場人物といい、すべてヒロインの脳内劇場で繰り広げられるイマジネーションの世界なのです▼夢の力、とでもいえばいいのか。時代は1951年のロスアンゼルス。無声映画のスタントマンをしていた青年ロイ(リー・ペイス)は撮影中大怪我をして半身不随の身を病院のベッドに横たえている。恋人は主演俳優に奪われロイはすっかり生きる希望を失い自殺を目下考慮中。そこへ顔をみせるようになったのが少女のアレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)。果樹園でオレンジをもいでいるとき木から落ちて左腕を骨折し、ギプスをつけている。ルーマニアからの移民だ。少女はロイに興味を持ちあれこれ話しかけてくる。ロイが思いつきの話をきかせると、おもしろがって続きをせがむ。身動きできないロイは自分の代わりに少女を使って調剤室に行かせ、自殺用の薬を盗ませようと思いつく。彼の話は、とにかく自分が心身ともボロボロだから、その作り話も悲観的である。しかし空想好きの少女の頭の中で、ロイのまいた悲観的な物語はどんどん壮大に膨らむ。少女の熱心なリクエストに応えるうち、ロイ自身の気持ちも、悪に立ち向かう勇者たちが活躍する物語にお話が変化してくる▼それは6人の戦士たちが悪総督オウディアヌスへ復讐する華麗なる冒険。弟を殺されたオッタ・ベンガ、妻を誘拐され死に追いやられたインド人、爆薬のスペシャリストであるため危険分子とされたルイジ、幻の蝶の死骸を送りつけられた生物学者ダーウィンと相棒の猿のウォレス、弟とともに死刑を宣告された仮面の黒山賊、神聖な森を焼き払われた霊者、彼らが総督の牙城に向かう途中砂漠でたくさんの奴隷が引く山車に出会う。奴隷を解放し山車を止まらせると、中から現れたのは美しいお姫さま。姫と黒山賊は結婚することに。挙式の最中、神父が裏切り一行は総督の捕虜となる。砂漠の真ん中に鎖で繋がれた戦士たち。しかしウォレスが入っていた袋から出てきたのは、あらたに戦士として加わったアレクサンドリアだった▼ロイは睡眠薬が効いてきて意識を失う。ロイを助けようと調剤室に忍び込んだアレクサンドリアは、はしごから脚をふみはずし転落、頭を強打して開頭手術を受ける。意識がもどったロイは、アレクサンドリアが大怪我をしたことを知り、泣きながらうそっぱちのホラ話で彼女を騙して薬をとりにいかせたことを白状する。でも少女は腹をたてず物語の続きを聞きたがるのだ。気落ちしたロイの続編はひどいものになる。つぎつぎ戦士たちは総督に殺されてしまう。ダーウィンも山賊も、霊者も、勇敢に戦い、主人を助けようとした猿のウォレスも弾丸を浴びて息を引き取る。たったひとり残った黒山賊も総督の刃に倒れる。ロイはもともと自殺願望なのだからもうこうなったらみな死なせてやるとばかり、バッタバッタと殺してしまうのである。少女は叫ぶ「ロイ、殺さないで。生きるのよ、倒れないで、立ち上がるのよ」少女の叫びに死にかけていた黒山賊は力をふりしぼって立ち上がる…なんだかこのへん泣かせちゃうのですよね。アレクサンドリアの純粋さ、自分だってたいへんな怪我をしているにもかかわらず、彼女の無垢な人生への信頼に共感する、そうだ、そうだ、ロイお前の自殺願望なんか犬にでも食われろ、と思う▼世界遺産がふんだんにロケ地に選ばれました。美しい景観それ自体が生命体であるかのように監督は扱っています。ロイはでたらめな作り話をしたみたいだったけど、でも人は心の真実は隠しようがない、彼もまたどこかで生きる勇気を求めていたのだ、ということが「ロイその後」の映写でわかります。モノクロで出てくる冒頭のシーン、ラストのアクションシーンは、バスター・キートンの映画史に残る体を張った演技です。鉄橋から吊り上げられる馬、泳ぐ象、みな実写です。壮大な虚構をなりたたせるために必要な一片の真実という作家の作法を思い出させます。

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