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シネマ365日

2014年7月1日

ノア 約束の舟 (2014年伝記映画)

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監督 ダーレン・アロノフスキー
出演 ラッセル・クロウ/ジェニファー・コネリー/エマ・ワトソン

女性的なもの

 よくわかったわ。聖書の昔から女って反体制だったのね。コチコチで融通の効かないノアが、神のいいつけだとか約束だとか言って、生まれる赤ん坊が女の子だったら殺すっていうのよ。嫁のイラ(エマ・ワトソン)は絶望して方舟を脱出しようとする。生まれる命を殺すのがはたして神の思し召しなのかと、妻ナーム(ジェニファー・コネリー)はノアに詰め寄る。ノアは「お前は子供を助けるためなら人を殺すか」殺すわよ!と妻。ノアは地上の人間の悪行所業に愛想がつきた神さまが、この男だけはと見込んだほどの人格高潔、清廉で潔癖な人物。でも「神様がそんな非道なことおっしゃるはずがない、生きとし生きるものみなに神の慈悲はある」と主張し、子供の命を救うのはナームなのです。彼女はおそれおおくて口にこそ出さないが、腹のなかでは(神様がなんぼのもんじゃい、それより大事なのは自分の子供たちよ)と思っていたにちがいない。ノアはノアで(ここでおれが子供を無理に殺したら、女房のやつがおれを殺すかもしれん)と確信した。そこでつい太刀先がにぶり、生まれ落ちた双子の娘たちは生きながらえることを許される▼ノアは神のいいつけに背いた自分を呪い、家族を避けて浜辺の洞窟に遁世、自暴自棄で酒浸りになり、全裸で砂浜に寝ているところに、息子と嫁が迎えにくる。ここでもノアを励まし元気づけるのは嫁のイラです。ノアに「あなたは人間の悪も善もどちらも見てきた、あなたはやり直せる、父親として、祖父として」と力づけるが、本音は(神さまの命令をきかなかったとお義父さまは悔やんでいるけど、神さまだって間違いもカン違いもあるだろうから気にすることないのに)と言いたかったと思うのです。謹厳実直なノアにそんなことは口が裂けてもいえない、だからもっともな理由を並べたのでしょう、おかげで生本来律儀で純なノアはすっかり勇気を取り戻す。ダーレン・アロノフスキー監督は罪と罰を下すのは神の仕事、罪と罰のあいだで生きるのが人間の仕事とみているようです。人間の生きるという仕事にはいろんな生き方があろうが、少なくともこの映画では、神という抽象的な存在を生きる支えにするノアとちがい、女たちの生きる根拠は生命と現在ただいまの現実そのものだと監督はとらえています▼ジェニファー・コネリーは43歳。大スペクタクル映画のヒロインとしては、ちょっと線が細いと思われるかもしれない。なにしろ相方が重量感たぷりのラッセル・クロウでしょ。当初候補にあがった女優はジュリアン・ムーアだったらしいけど、ジェニファー・コネリーで正解だったわね。イェールとスタンフォードで学んだジェニファーは秀才好きのダーレン監督のタイプだわ。うまい女優なのに毒気がないぶんソンをしているだけよ。ラッセル・クロウの丸刈りにしたアタマはきれいに毛がそろいすぎて、いま床屋からでてきたみたいだったわ。よそう、こんなこまかいことでケチをつけるのは。それでなくても迫力満点、映像はきれいだし、みな「よく頑張った」って称えるべきよ。聖書の解釈がまちがっていると怒る人たちもいたらしいけど、ほんとのとこはどうなんだと、神さまにインタヴューでもした人いるのかよ▼ノアの家族はノア夫婦と長男セムと次男ハム、三男のヤペテ。養子のイラはセムと結婚する。末っ子はともかく次男のハムは思春期の感じやすい時期でして、ガールフレンドがほしくてしかたない。兄貴は嫁がいるからセックスできるけど、おれだけ童貞なんて(くやし~)と身悶えする。おりもおり、地上を滅ぼす洪水のときがきた。雨が降り始めたのだ。ノアは完成した方舟に避難するよう息子たちに告げる。ハムがやっとみつけた恋人といっしょに逃げるとき恋人はワナに足をはさまれる。ハムは彼女を助けようと父親に助けを求めるのに「バカなにをしている」とパパは息子をひきずり女を見捨てて走るのだ。ハムは恨み骨髄。これがノアの仇敵でありカインの末裔であるトバルカインにつけこまれる糸口となります。登場人物が少ないわりに話は起伏に富みますよ。ノアのおじいちゃんがアンソニー・ホプキンス。日本でいえばまあ仙人みたいな存在でしょうか。嫁のイラは賊に襲われたときの重傷がもとで、子供が埋めない体になったのだけど、おじいちゃんは「お前にまだ孫としての祝福を与えていなかった。うむ」と手をあげるとビビビとオーラが走って、イラの不妊は治り、おじいちゃんは「食べたい、食べたい」と渇望していた野いちごを食べながら洪水に没する▼なんせスペクタクルです。見渡す限り水の上にぽっかり浮いた巨大な方舟。航海する舟じゃないのよ、水がでたときに浮きさえすればいい方舟だから帆も舵もない四角い建造物。舟をつくる木を切り出すときはロボットみたいな堕天使が手伝うのよ。なにしろ太古の物語だから宇宙人が応援にきたとしてもおかしくないってことか▼監督はすごい力こぶのいれようで、収支としても面目を保った(映画館はほぼ満員だった)し、感触としては「ハリポタ」あるいは「スターウォーズ」の歴史版だな。宗教的な背景にうといせいかもしれないけど、たとえばこういう状況ー神の真意は堕落した人間を絶滅させ動物だけを残すことだった、だから動物はつがいで方舟に保護し、使命をはたしたノアは長男夫婦にみとられて死に、長男夫婦は生まれた子供が男ならいいが、娘だと子を産むから殺す、次男ハムは死ぬまで童貞、三男もしかり、女がいなくなったノア一族は死に絶え人間は絶滅する。こんなむちゃくちゃなことやれっていう神さまなんてどこにいるの? いたとしてもこんなイカレタ指示を真に受けるほうがどうかしているわ▼地球と人類は反体制のノアの妻と嫁に、つまり女に救われたってことを監督あなたはいいたかったわけ?(笑)。それもあると思いたいけど、ノアにくだされた神の命題って「すべては思考せよ」だったと思える。それこそ人間だけに与えられた能力じゃない。ノアは正直に一点の疑問もなく神さまのいうことを守ろうとしたから、まさか怒るわけにいなかっただろうけど「こういう男ばかりではちょっとまずいのではないか。単純にすぐ戦争やテロに走るぞ。たとえ神の指示であろうと疑う、生まれながらの反体制もつくっておかねば」と考えたと思うわ。それを受け持ったのが女なのよ。われ思う、ゆえにわれあり。歴史は沈黙しているけど、デカルトってほんとは女だったといわれても、わたし、驚きませんね。

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