女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2014年7月29日

瞳の奥の秘密 (2009年 社会派映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ファン・ホセ・カンパネラ
出演 リカルド・ダリン/ソレダ・ビジャエル/ギレルモ・フランチェラ

かくも長き不在 

 25年前の強姦殺人事件が刑事としての自分に深い痕跡を残している。定年を迎えたベンハミン(リカルド・ダリン)は、過去に決着をつけるため、事件を題材に小説を書くと決める。彼は元上司のイレーネ(ソレダ・ビジャエル)を訪ねる。彼女はバリバリの現役検事として腕をふるっていた。事件は1974年にブエノスアイレスで発生した。新婚まもない23歳の女性教師リリアナが自宅で暴行を受け殺されたのだ。夫のリカルドは銀行員。捜査線状に男が浮かび上がった。被害者のアルバムを調べていたベンハミンが、その男の視線がいつもリリアナに注がれていることに気づいたのだ。男の名はゴメス。ベンハミンは部下であり親友でもあるパブロ(ギレルモ・フランチェラ)とともにゴメスの居宅を捜査したものの上司の指示を無視した違法捜査であるとして事件は未解決のまま葬られた▼一年後、ベンハミンは偶然地下鉄の駅でベンチに腰掛けているリカルドを見かける。問いかけられた彼は微笑み「妻を殺した犯人を探しているのです。火曜と木曜はこの駅です。他の曜日は別の駅で」。銀行を退勤後、彼は主要駅でゴメスを探し続けていたのだ。頭を殴りつけられたような衝撃を受けたベンハミンはイレーネに訴えた「妻の死が彼の時を止めている。彼の瞳をみるべきだ。日常に汚されず義務感に縛られない。あれこそ真の愛だ。捜査を再開させてほしい」しかし捜査は難航した。そのときだ。パブロが言う。「どうして奴はつかまらない。どこにいるのだ。あらゆるタイプの男について考えた。完全に自分を変えようとする男がいたとする。だがだれにも変えられない部分を持っている。おれには妻もいて子供もいて仕事もある。だが毎晩ここにくる(いきつけのバーのこと)。なぜだ。ここが好きだから変えられないのだ。お前もそうだ。いつもイレーネのことを考えている。彼女が婚約したにもかかわらず奇跡を待っている。なぜだ。彼女が好きだからだ。ゴメスの手紙にはやたら人の名前が出てくる。この名前はなんだ」パブロはいっしょに飲んでいた友人に目配せする。彼はスラスラと解読した。それらはみなサッカーの過去の名選手だったのだ▼「やつが変えられないものはサッカーだ」バーンと場面は転換。こうこうと浮き上がるサッカースタジアムを鳥瞰する。ナイトゲームだ。ベンハミンとパブロは写真一枚を頼りに、何万というスタジオの入場者を照合しているのだ。一ヶ月で4試合、ふらふらになって、だが見つけ出した。ベンハミンもパブロもいい年をした中年の刑事である。追跡が得意なわけがない。よれよれになっておいかけ、応援を得てついに逮捕。だがゴメスは容疑を否認しガンとして口を割らない。取調室に入ったイレーネは自分の胸元をみるゴメスの視線に気がつく。いきなりベンハミンに切り出す。「やめましょう。彼が犯人であるはずがないわ」あっけに取られる容疑者と刑事。かまわずイレーネは独演する。「彼に手が届く犯罪じゃないわ。犯人は屈強で強靭な肉体の持ち主よ。みてごらんなさい、この男を。彼の精力はこの程度よ。ピーナツ程度の彼のアレにあんな殺人ができるはずないわ」ゴメスの面上にむらむらと炎があがる。「精力がないだと。おれがどうやったか見せてやる。あの女をめちゃくちゃにしてやったものを」男は下半身を丸出しにしてイレーネを襲う。完全自白である。犯人は終身刑の判決を受けた(アルゼンチンは死刑がない)。リカルドはベンハミンに言う。「ありがとう。これでつかえがおりました。恩にきます」▼しかしゴメスは釈放されるのだ。彼が服役中ゲリラの情報入手に役立つとみたベンハミンの反目が、ゴメスを大統領護衛官にしたのだった。それだけに終わらなかった。ゴメスはベンハミンへの復讐に、殺し屋を雇って彼を狙い、誤ってパブロを射殺する。身の危険を感じたベンハミンはブエノスアイレスを離れる。パブロは死んだ。ベンハミンは捜査から手を引いた。イレーネはベンハミンが好きだったのにベンハミンの優柔不断から他の男と結婚した。リカルドはベンハミンに感謝しつつブエノスアイレスから去った。そして25年がたったのだった▼小説にしようとしたベンハミンに、どうしてもわからないことがあった。それを聞きたくて彼はリカルドを探し当てる。彼は田舎の支店で隠遁同様の生活を送っていた。「どうして彼女の不在に耐えることができたのか。それがどうしてもわからなかった。どうすればやり直せる」リカルドは言う「ゴメスは必ずあなたを殺しに来ると思ってあなたを見張っていた。案の定やってきたゴメスを殺し遺体を処分した。妻は死んだ。パブロも死んだ。ゴメスも死んだ。あなたももう忘れるがいい」。彼の回答はどうにもちぐはぐだった。釈然としないベンハミンは帰路Uターンして再びリカルドの田舎家を見張る。夕暮れも濃くなったころリカルドが盆をもって納屋に向かった。あとをつけたベンハミンは驚くべき光景を見る。ゴメスは半死半生で生きているのだ。リカルドはベンハミンに気づきこうつぶやく。「終身刑でしたよね」。リカルドは復讐の情熱によって妻の不在に耐えたのだ▼以上の顛末がこの映画の主軸だが、じつはもうひとつ是非ともあげたいことがある。パブロだ。「ぼくはカエルの姿をした王子なのさ」というベンハミンの相棒。5時になれば下のバーに行く。よっぱらってすぐケンカする。ベンハミンが家に送って帰ると妻は「ひきとって」と言う始末。彼とベンハミンは「幸せなのに飽きてきたからね。死体を見られるのは心から幸せだよ」「アホにもいろいろいるが、問題は天才気取りのアホだ」「そいつを視界から消してくれ」「彼奴は慢性的錯乱状態」などいいたいことを言い合っている。パブロが電話に居留守をつかうときはこうだ。「はい、こちら革命的戦略部隊です。失礼ですが番号をお間違えです」「はい、こちら精子バンク、ドナー課です。は。どちらへおかけですか」。このパブロがよっぱらってベンハミンの家にいるときに襲撃される。侵入した賊は「お前がベンハミンか」と聞く。ベンハミンの顔を知っていたらきくはずがない。パブロは部屋にあったベンハミンの写真を伏せ「そうだ」と答える。彼はどっちみち殺されるならベンハミンに生きのびるチャンスを与えようと身代わりになったのだ▼25年ぶりに再会したイレーネにベンハミンは25年間思い続けてきた自分の気持ちを打ち明ける。それならなぜ自分を置き去りにしたのかとイレーネは聞く。ブエノスアイレスを離れる列車をホームの端までイレーネは追いかけてきたのだ。この映画の主題は、ベンハミンとイレーネとパブロという、極めて親密な三人組の男女の半生だった。リカルドと別れたベンハミンは、彼の一生を費やすこともよしとしたけじめのつけかたに揺すぶられる。イレーネに会いにいき「お話が…」と切り出す。25年前同じ言葉をきいてイレーネは身を乗り出して尋ねた「こみいった話?」「そうです」というベンハミンにてっきり愛の告白だと思ったがそうではなかった。このときもイレーネはきく「こみいった話?」「そうです」今度はまちがいなさそうだ。光るようなほほ笑みがイレーネに浮かぶ。それを見てベンハミンは思いだす。パブロが言っていた。どうしても人には変えられないものがある、好きなこと、好きなもの、それは情熱だと。決して甘い映画ではなかったですが、透明な清澄感のある後味でした。

Pocket
LINEで送る