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特集「男前」

2014年8月3日

特集「男前」 ティルダ・スウィントン(上) オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ (2013年 恋愛映画)

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監督 ジム・ジャームッシュ
出演 ティルダ・スウィントン/トム・ヒドルストン/ミア・ワシコウスカ/ジョン・ハート

素敵なひと 

 ジム・ジャームッシュ監督、ティルダ・スウィントン主演にトム・ヒドルストンとジョン・ハート、この流れをみただけでクスッとなるおとぼけモードが醸されてくる。ジャームッシュとティルダは「ブロークン・フラワー」で共演済み。ティルダ自身監督とは14、15年のつきあいだから、彼のやりたいことはわかっていると言うくらいだ。ティルダとトムはともにケンブリッジ出身。劇中ジョン・ハートが演じるクリストファ・マーロウがこれまたケンブリッジ出の劇作家であり詩人。彼の「エドワード」の映画化に出演したのがティルダである。まるでヴァンパイア相関図みたいな因果関係です▼アダム(トム・ヒドルストン)とイヴ(ティルダ・スウィントン)は北米デトロイトとモロッコのタンジールに別れて住む吸血鬼夫婦。イヴはいっしょに暮らそうというのに、アダムは彼がゾンビと呼ぶ人間のために「世界は破滅に向かっている、過去の自動車産業の栄光の去った廃墟のようなこの町こそ滅亡にふさわしい」としてガンとして憂鬱な町を動かないのだ。彼は弦楽器ならなんでもこなす天才的アーティストである。いっさい表に出ないので彼の存在はいまやカリスマである。いつも夜中に創作し朝日が昇る前に寝る。最近憂鬱が高じ、出入りのエージェントに「木の弾丸」を作らせ(鉄だとヴァンパイアには効果がない)、いつでも自殺できるようにしている。イヴはパソコンでアダムとやりとりしながら、彼の厭世観が心配でならない。会いたいわというのにアダムは気だるそうに「ゾンビたちが世界をダメにしている。砂時計の砂が全部落ちた気分だ」。前向きなイヴは「ひっくり返せばいいのよ、こういうことは初めてじゃないでしょ。中世のタタール人の襲撃もあったわ、宗教戦争も、洪水もペストもあったわ、最近では第一次・第二次の大きな戦争もあったじゃない…しょうがない人ね。わたしが会いにいくわ。いつも甘えるのだから。旅は面倒なのよね」吸血鬼というのはどうもじゃまくさがりのようなのだ▼イヴは出発の前夜親友のマーロウに会う。彼らが行動するのはもちろん夜だ。夜の埠頭でマーロウがアダムのことを「自滅的ろくでなし」と呼ぶと、イヴは「ロマンティックなのは確かね。彼がああなったのはシェリーやバイロンや、昔つるんでいたフランス人のせいよ」。イヴはトランクに本をしこたま詰め(アラビア語にフランス語、日本語の文庫本まである)タンジールーパリーデトロイトの夜行便のファーストクラスに搭乗した。機中で指を切った乗客の赤い血をみてのどをゴックンとやりたそうであった▼夜のデトロイトの、なるほど遺棄された巨大施設をタクシーで走りイヴはやっとアダムの風雅な、というかちょっと変わった彩色のある住まいにつく。アダムの作った音楽をききくつろぎながら「素敵ね。シューベルトに書いた 弦楽五重奏を思い出すわ。彼は自作として発表したじゃない」「ぼくが頼んだンだ。彼を世に出したかった」「アダムったら気分が落ち込むとすぐゾンビのせいにするのね。あなたのヒーローは? 好きでしょ、科学者が」そういうところを見るとアダムは理系らしい。むきになって「人間は彼らになにをした。ピタゴラスは虐殺、ガリレオを投獄、コペルニコスを嘲笑、ニュートンをオカルト扱いし今もダーウィンを疑っている。救いようがない。最近は水ばかりか自分たちの血まで汚しかねない」アダムが憤慨し懸念するのは、汚染の連鎖よって人間の血が汚れると、血液をエネルギー源にしているヴァンパイアの死活にかかわるからである▼アダムの部屋には彼が尊敬する人物の写真が貼ってある。アインシュタイン、ボードレール、エドガー・アラン・ポー、バッハ、カフカ…なにしろイヴは3000年も生きているのである。アダムと結婚してからも400年か500年だから、世界近代文学史にせよ科学史にせよ、一望のもとに視野に収めている。どんな話題もヒョイとひとまたぎである。ひさしぶりに会った恋人同士はベッドを共にし、安らかな眠りにおちる。このシーンはティルダもトムもフルヌードだ。ティルダって53歳か。お腹なんかひとつもでていない。まさかCGで垂直にしたわけじゃないでしょうが、それにしてもきれいだったわね。イヴはくよくよ苦悩するアダムに言う「そんなに長く生きてきてどうしてわからないの。自分の心にとらわれるのは時間の浪費よ。すべきことはほかにもある。困難を乗り越え、自然を味わい、他者を思いやり、友情を育む。そしてダンスも。わたしがいうのもなんだけど、あなた、愛情には恵まれているのだから」ユーモラスですね、イヴって。血液をワイングラスで飲むティルダの表情がアップになる。ブロンドの髪、藍色の瞳、淡い金色のまつげ…▼悲観的なアダムはイヴに全面的によりかかっている。ところがイヴの妹エヴァ(ミア・ワシコウスカ)がやってくると事情が違った。0型RHマイナスの血液をうまいと言ってガブガブ飲み、物静かなアダムでさえ「少しは遠慮しろ」と怒りも露わに、胸に杭を打ち棺の中に追い返してやると息巻くのだ。エヴァはヴァンパイア族の掟破りで、21世紀の吸血鬼は人間を襲わず彼らの血は飲まないというルールがあるのに、84年前に人間を襲ったからだ。闖入してきたエヴァは姉夫婦の生活をひっかきまわし、イヴは疲れ果て「ふたりだけになりたいわ」と珍しく弱音を吐くが、嘆く間もなくエヴァはアダムのエージェントを誘惑し血を吸って殺してしまった。言語道断、ふたりはエヴァを追い出し、エージェントの死体を処理し警察の嫌疑が及ぶまでに高飛びすることに決める。呆然自失のアダムに代わりてきぱきと夜行便ファーストクラスを予約したイヴである。ギターも音響設備も名残惜しげなアダムの尻を叩き「血液は」「タンジールで上質を手に入れるわ」つまり飲まず食わずのまま彼らは飛行機に乗る。機中アダムはズーッとイヴにもたれ、抱きかかえられるようにして寄りかかっているのである。ヴァンパイアの世界でも才子は多病か。タンジールではマーロウが汚れた血を飲んだため瀕死の重症に陥っていた。「この病院は避けろ」とマーロウは忠告し「最後の上物だ」と取っておきの血液をイヴに与え息を引き取る▼イヴもアダムも餓死は時間の問題である。イヴは「最後の贈り物をしてあげるわ。全財産をちょうだい」とアダムにたのみ、有り金全額もって風雅な古代の弦楽器を調達してきた。しかしアダムにはつまびく力も残っていない。ふたりは夜のタンジールの、乾いた風の吹く土壁にもたれ最後の血を飲み「人間の血液の82%は水、人体の55~60%は水、地球の70%は海。体に力が入らない、もう終わりだ」例によってアダムは悲観的だ。「量子のからみあいを話して。不思議な遠隔作用は量子論と関係があるの?」とイヴ。「あれは理論じゃない、証明されているのだ」とアダム。「ふたつの粒子を引き離した場合、たとえ宇宙の反対側であろうと、一方に影響を与えればもう一方にも影響がでるンだ」。イヴは近くで抱き合っている恋人たちに吸い寄せられる。「考えていることは同じね、アダム、でもいけないわ、もう15世紀じゃないのよ。でもおいしそうなふたりだわ」「ほかに選択肢はない」「ちゃんと転生させましょう。そうしたら宇宙の反対側にいても反応しあって探し当てるわ」大まじめに自分らに都合のいい筋書きをつくると、イヴは足音もなく女に近づき「エキスキューズミー」。いいながらクァっと開いた口に鋭い犬歯がのぞいた…▼ティルダはイヴの役を「イヴはアダムが作る音楽をサポートしているが必ずしも理解しているとはいえない、そこがすごく気に入っている。愛する相手を必ずしも理解する必要はないのよ。めざす道を共有できなくてもいい。ただ言えばいい。すごいわ、その調子よ、失敗してもそばにいるから安心して。あなたを信じていると。素敵でしょ。オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴって、生き残ったのは恋人たちだけって意味ね。大好きなタイトルだわ。ずっと前から知っていたけどいまだに別の意味を考えさせてくれる。生き残ったのはふたりだけかもしれず、結局生き続けるために他のカップルが必要だった。生き続けるには人を愛さねばならない。この世で愛に代わるものがある? 愛はすべての根源であり新しい世界への扉なの。同時に生存する競争や孤独もタイトルに現れている。彼らは独りずつの友人と互いの存在だけ。だから強い絆で結ばれている。イヴがアダムといっしょにいたいと言うのは正直な気持ちよ。これは不死を描いた映画だけどじつは人間を描いている。イヴは3000年も生きてすべてを乗り越えてきた。なにがあっても生き残るものはあると信じている。でもそれは人間じゃないの。イヴは人間が絶滅に向かっていると気づいている。でも人間は滅びても宇宙は存在すると知っているの。映画がわたしを魅了するのは他人の立場でものを見させるからよ。カメラの前の役者の立場ではなく。製作者の視点もみる必要がある。自分自身がだれかの化身になって考えねばならない。とても人間的な行為だわ。演じることで人は別の考え方やものの見方ができるようになる。わたしには死と隣り合って生きている家族がいて、ちょうど撮影と時期が重なった。不死や愛、自然、生き抜くことを考えたわ。3000年も生き抜いたのだもの、こわいものなしよ(笑)」。ティルダって男、女にかかわらぬ素敵なひとですね。

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